三角関数の微分公式と問題例

三角関数の微分公式

(sinx)=cosx(cosx)=sinx(tanx)=1cos2x(Arcsin x)=11x2(Arccos x)=11x2(Arctan x)=11+x2 \begin{aligned} (\sin x)' &= \cos x\\ (\cos x)' &= -\sin x\\ (\tan x)' &= \dfrac{1}{\cos^2 x}\\ (\mathrm{Arcsin}~ x)' &= \dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}\\ (\mathrm{Arccos}~ x)' &= -\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}\\ (\mathrm{Arctan}~ x)' &= \dfrac{1}{1+x^2}\\ \end{aligned}

この記事では,三角関数サイン・コサイン・タンジェントに関する公式の簡単な証明,その公式を使った問題の例を解説します。

導関数の定義の復習

三角関数の微分公式を証明する前に,導関数の定義を確認しておきましょう。

ある関数 f(x)f(x) の導関数 f(x)f'(x) は,以下のように定義されます。

f(x)=limh0f(x+h)f(x)hf'(x) = \displaystyle\lim_{h \to 0}\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}

導関数の定義については導関数の意味といろいろな例を,また導関数と微分係数の違いについては上記の記事とともに微分係数の定義をご覧ください。

三角関数の微分公式の証明

三角関数とは,図形問題をはじめ数学の様々な分野で登場する大事な関数です(三角関数の定義は三角関数の3通りの定義とメリットデメリットを参照してください)。

三角関数の微分(導関数)は,以下の公式で計算できます。

三角関数の微分公式(導関数)
  • (sinx)=cosx(\sin x)' = \cos x
  • (cosx)=sinx(\cos x)' = -\sin x
  • (tanx)=1cos2x(\tan x)' = \dfrac{1}{\cos^2 x}

まずはこれを証明します。

sin,cosの導関数の証明

サインに関しては,三角関数の極限における最重要公式→sinx/xについて覚えておくべき2つのこと limh0sinhh=1 \lim_{h\to 0} \dfrac{\sin h}{h} = 1 を利用すれば証明できます。

sinx\sin x の導関数は,定義により, limh0sin(x+h)sinxh \lim_{h\to 0} \dfrac{\sin (x+h)-\sin x}{h} である。ここで, limh0cosh1h=limh0(cosh1)(cosh+1)h(cosh+1)=limh0{sin2hh2×h1+cosh}=12×0=0 \begin{aligned} &\lim_{h\to 0} \dfrac{\cos h - 1}{h}\\ &= \lim_{h\to 0} \dfrac{(\cos h - 1)(\cos h + 1)}{h(\cos h + 1)}\\ &= \lim_{h\to 0}\left\{- \dfrac{\sin^2 h}{h^2} \times \dfrac{h}{1+\cos h}\right\}\\ &= -1^2 \times 0\\ & = 0 \end{aligned} であることを考えると, limh0sin(x+h)sinxh=limh0sinx(cosh1)+cosxsinhh=sinxlimh0cosh1h+cosxlimh0sinhh=sinx0+cosx1=cosx \begin{aligned} &\lim_{h\to 0}\dfrac{\sin (x+h)-\sin x}{h}\\ &= \lim_{h\to 0} \dfrac{\sin x(\cos h - 1) + \cos x \sin h }{h}\\ &= \sin x\cdot \lim_{h\to 0} \dfrac{\cos h - 1}{h}+\cos x\cdot \lim_{h\to 0} \dfrac{\sin h}{h}\\ &= \sin x \cdot 0 + \cos x \cdot 1\\ &= \cos x \end{aligned}

その他の証明方法は→sinxの微分公式の3通りの証明を参照してください。

また,cos\cos についてもほぼ同様に証明できます。詳しくは→cosxの微分公式のいろいろな証明

tanの導関数の証明

tan\tan については商の微分公式を使うと簡単に導出できます。教科書でもこの証明が採用されていることが多いです。→tanxと1/tanxの微分公式のいろいろな証明

(tanx)=(sinxcosx)=(sinx)cosxsinx(cosx)cos2x=cos2x+sin2xcos2x=1cos2x \begin{aligned} (\tan x)' &= \left(\dfrac{\sin x}{\cos x}\right)'\\ &= \dfrac{(\sin x)'\cos x - \sin x (\cos x)'}{\cos^2 x}\\ &= \dfrac{\cos^2 x + \sin^2 x}{\cos^2 x}\\ &= \dfrac{1}{\cos^2 x}\\ \end{aligned}

逆三角関数の微分公式

また,三角関数の逆関数である Arcsin\mathrm{Arcsin} 等も様々な分野に登場します。→逆三角関数(Arcsin,Arccos,Arctan)の意味と性質

逆三角関数の微分は以下のようになります:

  • (Arcsin x)=11x2(\mathrm{Arcsin}~ x)' = \dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}
  • (Arccos x)=11x2(\mathrm{Arccos}~ x)' = -\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}
  • (Arctan x)=11+x2(\mathrm{Arctan}~ x)' = \dfrac{1}{1+x^2}

上の記事に逆三角関数の導関数の求め方が詳しく書いてあるので,ぜひご覧ください。逆関数の微分を求める良い練習になります。

【発展】双曲線関数の微分

大学以降では双曲線関数という関数を扱うようになります。

双曲線関数

以下の3つの関数を双曲線関数と呼ぶ。

  • sinhx=exex2\sinh{x} = \dfrac{e^{x}-e^{-x}}{2}
  • coshx=ex+ex2\cosh{x} = \dfrac{e^{x}+e^{-x}}{2}
  • tanhx=sinhxcoshx=exexex+ex\tanh{x} = \dfrac{\sinh{x}}{\cosh{x}} = \dfrac{e^{x}-e^{-x}}{e^{x}+e^{-x}}

双曲線関数の微分公式は以下のようになります。

双曲線関数の微分公式
  • (sinhx)=coshx(\sinh{x})' = \cosh{x}
  • (coshx)=sinhx(\cosh{x})' = \sinh{x}
  • (tanhx)=1cosh2x(\tanh{x})' = \dfrac{1}{\cosh^2{x}}

三角関数の微分公式と似ていますね。

双曲線関数について詳しく知りたい方は双曲線関数(sinh,cosh,tanh)の意味・性質・楽しい話題まとめをご覧ください。

三角関数の微分の興味深い性質

特にサイン,コサインの微分について、おもしろい性質があります。

sin,cosの微分と循環

sin,cosは2回微分すると自分自身をマイナス1倍したものになり4回微分すると自分自身に一致します

sinの場合で確認してみましょう。

(sinx)=(cosx)=sinx(\sin{x})''= (\cos{x})' \\ = -\sin{x}

(sinx)=(sinx)=(sinx)=(sinx)=sinx(\sin{x})'''' = (-\sin{x})''\\ = -(\sin{x})''\\ = -(-\sin{x})\\ = \sin{x}

となり,確かめられました。cosの場合も同様に計算して確かめることができます。

特に,(sinx)=sinx(\sin{x})''=-\sin{x}(cosx)=cosx(\cos{x})''=-\cos{x} などは,物理の分野では,振り子の運動方程式 mx¨=kxm \ddot{x} = -kx を解くときなどに用いられます(詳しくはばねの単振動の解説をご覧ください)。

微分すると位相が π2\dfrac{\pi}{2} 進む

サイン,コサインの微分公式より

(sinx)=cosx=sin(x+π2)(\sin{x})' = \cos{x} = \sin(x+\dfrac{\pi}{2})

(cosx)=sinx=cos(x+π2)(\cos{x})' = -\sin{x} = \cos{(x+\dfrac{\pi}{2})}

になります。非常にシンプルですが,おもしろいです。

こちらについては,三角関数を微分すると位相が90度進むことで詳しく解説していますので、そちらもぜひご覧ください。

公式を使った問題例

では,公式を使っていろいろな関数の導関数を求めてみましょう。三角関数を含む関数の微分では「合成関数の微分」「積の微分」「商の微分」を使うことが多いです。忘れた方は以下の記事を参照ください。

例1

y=sin3(4x)y = \sin^3 (4x) の導関数を求めよ。

sinx\sin x の微分が cosx\cos x になることと,合成関数の微分法を用います。

y=3sin2(4x)(sin4x)=3sin2(4x)cos(4x)(4x)=12sin2(4x)cos(4x) \begin{aligned} y' &= 3\sin^2 (4x) \cdot (\sin 4x)'\\ &= 3\sin^2 (4x) \cdot \cos (4x) \cdot (4x)'\\ &= 12\sin^2 (4x) \cdot \cos (4x)\\ \end{aligned}

例2

y=x2cosx1+sinxy = x^2 \cos x\sqrt{1 + \sin x} の導関数を(sinx1\sin x\neq -1 を満たす xx の範囲で)求めよ。

この問題に関しては,積の微分法を二回利用してもいいのですが,3つの関数の積の微分なので,ライプニッツの公式を利用すれば簡潔に解けます。→ライプニッツの公式の証明と二項定理

ライプニッツの公式より,f,g,hf,g,hxx の関数としたとき,関数の積 fghfgh の導関数は (fgh)=fgh+fgh+fgh (fgh)' = f'gh + fg'h + fgh' となる。よって, y=(x2)cosx1+sinx+x2(cosx)1+sinx+x2cosx(1+sinx)=2xcosx1+sinxx2sinx1+sinx+x2cosxcosx21+sinx=2xcosx1+sinxx2sinx1+sinx+x2cos2x1+sinx2(1+sinx)=2xcosx1+sinxx2sinx1+sinx+x2(1sinx)(1+sinx)1+sinx2(1+sinx)=2xcosx1+sinxx2sinx1+sinx+x2(1sinx)1+sinx2=1+sinx(2xcosxx2sinx+x2(1sinx)2)=1+sinx(2xcosx32x2sinx+x22) \begin{aligned} y' &= (x^2)' \cos x\sqrt{1 + \sin x}+x^2 (\cos x)'\sqrt{1 + \sin x}\\ &\:\:\:+x^2 \cos x(\sqrt{1 + \sin x})'\\ &= 2x\cos x\sqrt{1 + \sin x} - x^2 \sin x\sqrt{1 + \sin x}\\ &\:\:\:+x^2 \cos x \dfrac{\cos x}{2\sqrt{1+\sin x}}\\ &= 2x\cos x\sqrt{1 + \sin x} - x^2 \sin x\sqrt{1 + \sin x}\\ &\:\:\:+x^2 \cos^2 x \dfrac{\sqrt{1 + \sin x}}{2(1+\sin x)}\\ &= 2x\cos x\sqrt{1 + \sin x} - x^2 \sin x\sqrt{1 + \sin x}\\ &\:\:\:+x^2 (1-\sin x)(1+ \sin x) \cdot \dfrac{\sqrt{1 + \sin x}}{2(1+\sin x)}\\ &= 2x\cos x\sqrt{1 + \sin x} - x^2 \sin x\sqrt{1 + \sin x}\\ &\:\:\:+x^2 (1-\sin x) \cdot \dfrac{\sqrt{1 + \sin x}}{2}\\ &= \sqrt{1 + \sin x}\cdot \left(2x\cos x - x^2 \sin x + \dfrac{x^2(1-\sin x)}{2}\right)\\ &= \sqrt{1 + \sin x}\cdot \left(2x\cos x - \dfrac{3}{2}x^2 \sin x + \dfrac{x^2}{2}\right)\\ \end{aligned}

次は,逆三角関数を含む式の微分です。

例3

y=Arcsin x1+tan2xy = \dfrac{\mathrm{Arcsin}~ x}{1 + \tan^2 x} の導関数を求めよ。

商の微分や,合成関数の微分を利用します。また,三角関数の関係式を利用すると導関数をさらに簡単に表せます。

導関数は,商の微分公式より (Arcsin x)(1+tan2x)Arcsin x(1+tan2x)(1+tan2x)2=11x2(1+tan2x)Arcsin x2tanx(tanx)(1+tan2x)2=11x2(1+tan2x)Arcsin x2tanx(1cos2x)(1+tan2x)2 \begin{aligned} & \dfrac{(\mathrm{Arcsin}~x)'(1+\tan^2 x) - \mathrm{Arcsin}~x(1+\tan^2 x)'}{(1+\tan^2 x)^2}\\ &= \dfrac{\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}(1+\tan^2 x) - \mathrm{Arcsin}~x\cdot 2 \tan x (\tan x)'}{(1+\tan^2 x)^2}\\ &= \dfrac{\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}(1+\tan^2 x) - \mathrm{Arcsin}~x\cdot 2 \tan x \left(\dfrac{1}{\cos^2 x}\right)}{(1+\tan^2 x)^2}\\ \end{aligned} ここで,三角関数の公式として, 1+tan2x=1cos2x 1 + \tan^2 x = \dfrac{1}{\cos^2 x} が成立することを使うと,上式は 11x2(1+tan2x)Arcsin x2tanx(1+tan2x)(1+tan2x)2=11x2Arcsin x2tanx1+tan2x=cos2x{11x2Arcsin x2tanx}=cos2x1x2Arcsin x2sinxcosx=cos2x1x2Arcsin xsin(2x) \begin{aligned} & \dfrac{\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}}(1+\tan^2 x) - \mathrm{Arcsin}~x\cdot 2 \tan x (1+\tan^2 x)}{(1+\tan^2 x)^2}\\ &= \dfrac{\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}} - \mathrm{Arcsin}~x\cdot 2 \tan x }{1+\tan^2 x}\\ &= \cos^2 x\left\{\dfrac{1}{\sqrt{1-x^2}} - \mathrm{Arcsin}~x\cdot 2 \tan x\right\}\\ &= \dfrac{\cos^2 x}{\sqrt{1-x^2}} - \mathrm{Arcsin}~x\cdot 2 \sin x \cos x\\ &= \dfrac{\cos^2 x}{\sqrt{1-x^2}} - \mathrm{Arcsin}~x\cdot \sin (2x)\\ \end{aligned}

微分は計算が大変になることはありますが,積分と違って方針で迷うことは少ないです。