ライプニッツの公式の証明と二項定理

ライプニッツの公式(Leibniz rule)

(fg)(n)=k=0nnCkf(k)g(nk)(fg)^{(n)}={\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(n-k)}}

積の微分公式の一般化である Leibniz rule を紹介します。

無限級数 113+1517=π41-\dfrac{1}{3}+\dfrac{1}{5}-\dfrac{1}{7}\cdots=\dfrac{\pi}{4} のことを「ライプニッツの公式」ということもあります。これについてはグレゴリー・ライプニッツ級数の2通りの証明を参照してください。

ライプニッツの公式の意味

ライプニッツの公式は,2つの関数 f(x),g(x)f(x),g(x) の積の nn 階微分 (fg)(n)(fg)^{(n)} を計算するための公式です。

例えば,ライプニッツの公式 (fg)(n)=k=0nnCkf(k)g(nk)(fg)^{(n)}={\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(n-k)}}n=1n=1 としてみると (fg)=k=011Ckf(k)g(1k)=fg+fg(fg)'={\displaystyle \sum_{k=0}^{1} {}_1\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(1-k)}}=f'g+fg' となり,高校数学で習う「積の微分公式」になります。→積の微分公式とその証明の味わい

  • n=2n=2 の場合,(fg)=fg+2fg+fg(fg)^{\prime\prime}=f^{\prime\prime}g+2f'g'+fg^{\prime\prime}
  • n=3n=3 の場合,(fg)=fg+3fg+3fg+fg(fg)^{\prime\prime\prime}=f^{\prime\prime\prime}g+3f^{\prime\prime}g'+3f'g^{\prime\prime}+fg^{\prime\prime\prime}

となります。このように,fgfg の微分を「ff の微分」と「gg の微分」で表すことができます。二項係数が出てくるのが面白いです! nn が小さい場合の二項係数はパスカルの三角形を書けばすぐにわかりますね。 パスカルの三角形

ライプニッツの公式の使用例

x2exx^2e^x の2階微分は,n=2n=2 の場合のライプニッツの公式を使うと ex(x2+4x+2)e^x(x^2+4x+2) と素早く計算できる。

ライプニッツの公式の証明

数学的帰納法でライプニッツの公式を証明します。

証明

n=1n=1 の場合の「積の微分公式」は既知とする。証明は→積の微分公式とその証明の味わい

n=tn=t のときライプニッツの公式が成立すると仮定して t+1t+1 階微分を計算していく。

まず,帰納法の仮定より (fg)(t+1)=(k=0ttCkf(k)g(tk))(fg)^{(t+1)}=({\displaystyle \sum_{k=0}^{t}{}_t\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(t-k)}})'

次に微分の性質(線形性)を使うと上式は
k=0ttCk(f(k)g(tk)){\displaystyle \sum_{k=0}^{t}{}_t\mathrm{C}_k(f^{(k)}g^{(t-k)})'}

さらに n=1n=1 の場合の積の微分公式を使うと上式は
k=0ttCkf(k+1)g(tk)+k=0ttCkf(k)g(tk+1)=k=1t+1tCk1f(k)g(tk+1)+k=0ttCkf(k)g(tk+1)\begin{aligned} &\sum_{k=0}^{t}{}_t\mathrm{C}_kf^{(k+1)}g^{(t-k)}+\sum_{k=0}^{t}{}_t\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(t-k+1)}\\ &= \sum_{k=1}^{t+1}{}_t\mathrm{C}_{k-1}f^{(k)}g^{(t-k+1)}+\sum_{k=0}^{t}{}_t\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(t-k+1)} \end{aligned}

さらに k=t+1k=t+1,それ以外,k=0k=0 の3つに分解すると上式は fg(t+1)+k=1t(tCk+tCk1)f(k)g(tk+1)+f(t+1)gfg^{(t+1)}+{\displaystyle \sum_{k=1}^{t}({}_t\mathrm{C}_k+{}_t\mathrm{C}_{k-1})f^{(k)}g^{(t-k+1)}}+f^{(t+1)}g

最後に二項係数の公式t+1Ck=tCk+tCk1{}_{t+1}\mathrm{C}_k={}_t\mathrm{C}_k+{}_t\mathrm{C}_{k-1} を使うと上式は k=0t+1t+1Ckf(k)g(tk+1){\displaystyle \sum_{k=0}^{t+1}{}_{t+1}\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(t-k+1)}}

となり n=t+1n=t+1 の場合のライプニッツの公式の右辺と一致した。

本質的には二項定理の証明と同じです。

ライプニッツの公式と二項定理

  • ライプニッツの公式:(fg)(n)=k=0nnCkf(k)g(nk)(fg)^{(n)}={\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_kf^{(k)}g^{(n-k)}}と二項定理: (f+g)n=k=0nnCkfkgnk(f+g)^{n}={\displaystyle \sum_{k=0}^{n} {}_n\mathrm{C}_kf^{k}g^{n-k}} はとても似ています。

  • nn が一般の場合のライプニッツの公式を使う機会は少ないですが, 二項定理と同じ形で書けるという事実は覚えておくとよいでしょう。

ライプニッツの公式の一般化

積の微分公式 (fg)=fg+fg(fg)'=f'g+fg' に対して微分の回数を一般化したものがライプニッツの公式です。

では掛け算する関数の数を一般化したらどうなるでしょうか?例えば,関数3つの積の微分は以下の公式で計算できます。 (fgh)=fgh+fgh+fgh(fgh)'=f'gh+fg'h+fgh' この公式は入試などでも時短に役立ちます。

より一般に,掛け算する関数の数を mm 個に増やし,f1f2fmf_1f_2\cdots f_m の微分公式を考えます。この nn 階微分を考えると以下のような公式が得られます:

(f1f2fm)(n)=ki0,ki=n(n!i=1mki!i=1mfi(ki))(f_1f_2\cdots f_m)^{(n)}={\displaystyle\sum_{k_i\geq 0, \sum k_i=n}\left({\displaystyle\dfrac{n!}{\prod_{i=1}^{m} k_i!}\prod_{i=1}^{m}f_i^{(k_i)}}\right)}

見た目はとても複雑ですが,これは多項定理: (f1+f2++fm)n=ki0,ki=n(n!i=1mki!i=1mfiki)(f_1+f_2+\cdots +f_m)^{n}={\displaystyle\sum_{k_i\geq 0, \sum k_i=n}\left({\displaystyle\dfrac{n!}{\prod_{i=1}^{m} k_i!}\prod_{i=1}^{m}f_i^{k_i}}\right)} と全く同じ形をしています。証明は煩雑なので省略しますが,本質的には多項定理の証明と同じです。→多項定理の例題と2通りの証明

ライプニッツの定理の使い方

ライプニッツの定理はマクローリン展開(テイラー展開)の計算で役に立ちます。

例えば Arctanのマクローリン展開の3通りの方法 をご覧ください。

英語では Leibniz rule なので「ライプニッツの規則」や「ライプニッツルール」と読んだ方が良いかもしれません。

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