多項定理の例題と2通りの証明

多項定理(3項の場合)

(a+b+c)n(a+b+c)^n を展開したときの apbqcra^pb^qc^r の係数は,n!p!q!r!\dfrac{n!}{p!q!r!}

(ただし,p+q+r=np+q+r=n かつ p,q,rp,q,r00 以上)

多項定理の意味・例題3問・2通りの証明を解説します。

多項定理の使用例

例題1

(a+b+c)4(a+b+c)^4 を展開したときの a2bca^2bc の係数と a3ba^3b の係数を求めよ。

解答

n=4n=4 の場合であり,多項定理より apbqcra^pb^qc^r の係数は4!p!q!r!\dfrac{4!}{p!q!r!} となる。

  • a2bca^2bc の係数は,p=2,q=1,r=1p=2,\:q=1,\:r=1 として,
    4!2!1!1!=242×1×1=12\dfrac{4!}{2!1!1!}=\dfrac{24}{2\times 1\times 1}=12
  • a3ba^3b の係数も同様にして,
    4!3!1!0!=246×1×1=4\dfrac{4!}{3!1!0!}=\dfrac{24}{6\times 1\times 1}=4

0!=10!=1 に注意してください。

多項定理の証明1

例題1で見たように (a+b+c)4(a+b+c)^4 を展開したときの a3ba^3b の係数は 44 でした。この理由をもう少し詳しく見てみます。

  • (a+b+c)4(a+b+c)^4 を展開したときに出てくる1つの項は,a,b,ca,\:b,\:c の中でどれか 11 つを選ぶ」という操作を 44 回行い,選んだものを全てかけあわせたもの。
  • a3ba^3b が出てくるのは,aaab,aaba,abaa,baaaaaab,aaba,abaa,baaa の4パターン。多項定理の証明 よって,a3ba^3b は4個出てくるので係数は4。

以上の具体例が理解できれば,多項定理の証明は簡単です。よく分からない方は二項定理の意味と係数を求める例題・2通りの証明の証明1を読んで下さい。

証明

(a+b+c)n(a+b+c)^n を展開したときに出てくる1つの項は,

a,b,ca,\:b,\:c の中でどれか 11 つを選ぶ」という操作を nn 回行い,選んだものを全てかけあわせたもの。

よって,展開後は a,b,ca,\:b,\:c の指数の和が nn である項のみが登場し,apbqcra^pb^qc^r の係数は n!p!q!r!\dfrac{n!}{p!q!r!} である(nn 回のうちどの pp 回で aa を選び,どの qq 回で bb を選び,どの rr 回で cc を選ぶかのパターンの数,これは同じものを含む順列の公式から分かる)。

多項定理の一般形

項が2つの場合が二項定理,3つの場合は冒頭で紹介した式ですが,4つ以上の場合でも多項定理は使えます。

多項定理(一般の場合)

(x1+x2++xk)n(x_1+x_2+\cdots +x_k)^n を展開したときの x1e1x2e2xkekx_1^{e_1}x_2^{e_2}\cdots x_k^{e_k} の係数は

e1+e2++ek=ne_1+e_2+\cdots +e_k=n かつ各 eie_i が非負なら n!e1!e2!ek!\dfrac{n!}{e_1!e_2!\cdots e_k!}

(そうでないなら 00

例題2

(x+y+z+w)4(x+y+z+w)^4 を展開したときの x2yzx^2yz の係数を求めよ。

解答

k=4,n=4k=4,n=4 として多項定理を使うと,x2yzx^2yz の係数は, 4!2!1!1!0!=242=12\dfrac{4!}{2!1!1!0!}=\dfrac{24}{2}=12

多項定理の証明2

多項定理の一般形を「二項定理+数学的帰納法」で証明します。

証明

kk に関する帰納法で証明する。 k=1k=1 のときは自明,k=2k=2 のときは二項定理そのもの。

kk まで正しいと仮定すると,二項定理より,

(x1++xk+xk+1)n={(x1++xk)+xk+1}n=t=0nnCt(x1++xk)txk+1nt(x_1+\cdots +x_k+x_{k+1})^n\\ =\{(x_1+\cdots +x_{k})+x_{k+1}\}^n\\ =\displaystyle\sum_{t=0}^n{}_n\mathrm{C}_t(x_1+\cdots +x_{k})^tx_{k+1}^{n-t}

目標の項は t=nek+1t=n-e_{k+1} の部分から出てくる。 t=nek+1t=n-e_{k+1} の部分は,

nCnek+1(x1++xk)nek+1xk+1ek+1=n!(nek+1!)ek+1!(x1++xk)nek+1xk+1ek+1{}_n\mathrm{C}_{n-e_{k+1}}(x_1+\cdots +x_k)^{n-e_{k+1}}x_{k+1}^{e_{k+1}}\\ =\dfrac{n!}{(n-e_{k+1}!)e_{k+1}!}(x_1+\cdots +x_k)^{n-e_{k+1}}x_{k+1}^{e_{k+1}}

よって,帰納法の仮定より,x1e1xk+1ek+1x_1^{e_1}\cdots x_{k+1}^{e_{k+1}} の項の係数は,

n!(nek+1)!ek+1!(nek+1)!e1!ek!=n!e1!ek+1!\dfrac{n!}{(n-e_{k+1})!e_{k+1}!}\cdot \dfrac{(n-e_{k+1})!}{e_1!\cdots e_k!}\\ =\dfrac{n!}{e_1!\cdots e_{k+1}!}

なお,kk ではなく nn に関する帰納法でも証明できます。少し計算が煩雑ですがおもしろいのでやってみてください。

多項定理の応用問題

例題3

(x2+3x+2)5(x^2+3x+2)^5 を展開したときの x8x^8 の係数を求めよ。

解答

x8x^8 の項は「x2x^244 つ,2211 つ」または「x2x^233 つ,3x3x22 つ」選んだときに登場する項から出てくる。前者は 5!4!0!1!(x2)42=10x8\dfrac{5!}{4!0!1!}(x^2)^4\cdot 2=10x^8 であり,後者は 5!3!2!0!(x2)3(3x)2=90x8\dfrac{5!}{3!2!0!}(x^2)^3(3x)^2=90x^8 である。

よって,答えは 100100

多項定理のさらなる応用については,以下を参照ください。

多項定理は教科書には登場しませんが,k=3k=3 の場合については軽く言及されています。

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