原始多項式とその積について

「原始多項式」という用語と関連する定理を解説します。

なお,「原始多項式」には二つの意味があります。ここでは高校数学で理解できる方の「原始多項式」を解説します。ガロア体の理論では異なる意味で「原始多項式」が用いられます。

原始多項式の定義と例

以下では f(x)=anxn+an−1xn−1+⋯+a1x+a0f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots +a_1x+a_0 とします(nn 次の係数を ana_n とおきます)。

原始多項式の定義

a0, a1,⋯ ,ana_0,\:a_1,\cdots ,a_n の最大公約数が 11 のとき,f(x)f(x) を原始多項式と呼ぶ。

  • 例1:2x2+3x−22x^2+3{x}-2 は 2, 3, −22,\:3,\:-2 の最大公約数が 11 なので原始多項式です。
  • 例2:4x4+24x^4+2 は 4, 0, 24,\:0,\:2 の最大公約数が 22 なので原始多項式ではありません。
  • 係数の中に一つでも 11 または−1-1 があれば原始多項式です。特に,モニック多項式(最高次の係数が 11 であるような多項式)は原始多項式です。
  • 「原始多項式」と「既約多項式(因数分解できるかどうか)」は異なる概念です。 例えば上記の例1は原始多項式ですが (2x−1)(x+2)(2{x}-1)(x+2) と因数分解できるので既約多項式ではありません。 上記の例2は原始多項式ではありませんが既約多項式です。
  • 「原始多項式」というたいそうな名前がついていますが,「係数の最大公約数が1である多項式」を短く言ったに過ぎません。

原始多項式の積

原始多項式については以下の定理が有名です。

ガウスの補題

原始多項式どうしの積は原始多項式である。

証明の手法が面白く,難関大の入試に出てもおかしくない難易度です。よかったら考えてみてください!

証明

二つの原始多項式 f(x)f(x) と g(x)g(x) を mm 次と nn 次とする。

f(x)=amxm+am−1xm−1+⋯+a1x+a0f(x)=a_mx^m+a_{m-1}x^{m-1}+\cdots +a_1x+a_0

g(x)=bnxn+bn−1xn−1+⋯+b1x+b0g(x)=b_nx^n+b_{n-1}x^{n-1}+\cdots +b_1x+b_0

とおく。

積 f(x)g(x)f(x)g(x) が原始多項式でないと仮定して矛盾を導く。このとき,f(x)g(x)f(x)g(x) の全ての係数を割り切る素数が存在するのでそれを pp とおく(※)。

f(x)f(x) が原始多項式なので a0, a1,⋯ , ama_0,\:a_1,\cdots,\:a_m の中に pp の倍数でないものが存在する。その中で添字が最小なものを aMa_M とおく。

同様に,b0, b1,⋯ , bnb_0,\:b_1,\cdots,\:b_n の中で pp の倍数でないもので添字が最小なものを bNb_N とおく。

このとき,a0a_0 から aM−1a_{M-1} ,b0b_{0} から bN−1b_{N-1} まではいずれも pp の倍数である(※※)。

ここで,f(x)g(x)f(x)g(x) の M+NM+N 次の項の係数 cM+Nc_{M+N} は,

cM+N=∑kakbM+N−kc_{M+N}=\displaystyle\sum_{k}a_kb_{M+N-k}

である。ただし,和は 0≤k≤m0\leq k\leq m および 0≤M+N−k≤n0\leq M+N-k\leq n を満たす kk について取る。

上の式には aMbNa_Mb_N という項が現れるが,この項は pp の倍数ではない。一方,aMbNa_Mb_N という項以外は(※※)より全て pp の倍数である。よって cM+Nc_{M+N} は pp の倍数ではない。これは(※)に矛盾。

なお,この定理だけでも美しいですが,「整数係数の範囲で因数分解できないなら有理数係数の範囲でも因数分解できない」(こちらをガウスの補題と呼ぶこともある)という一見当たり前な定理の証明にも用いられます。

同じ言葉を複数の意味で使うのはやめてほしいですね!