ばねの単振動の解説
この記事では,単振動の代表的な例である,ばねの振動を扱います。重力がある場合もない場合も運動方程式をしっかりとたてて,運動を議論していきましょう。
単振動(調和振動)の定義
単振動(調和振動)の定義
まず初めに,単振動の定義を確認しましょう。 単振動は, 単振動のまとめ で詳しく解説されているので,ここでは復習にとどめます。
運動方程式が のような形で表される運動を,単振動という。ここで は角振動数(角周波数), は振動中心と呼ばれる定数である。
上の運動方程式は2階線形微分方程式と呼ばれる形の微分方程式です。( の微分の階数が高々2次で,xとその微分項の次数が高々1次のため)そして,2階線形微分方程式は,大学数学レベルで詳細な解法が知られいます。解法について詳しく知りたい人は,以下の記事をご覧ください。
微分方程式の解法(同次形・線形微分方程式)
特に,上のような「単振動形型」の解は,以下の形で与えられます。
は 上の微分方程式の一般解である。ただし は初期条件から定まる定数である。
大学入試などの問題を解くときは,解の形を公式として用いて,単振動の運動を考察していくことになります。
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単振動の特徴(振れ幅,角振動数,周期)
単振動の特徴(振れ幅,角振動数,周期)
単振動型微分方程式の解
はどのような運動を表すでしょうか。
なので,物体は, を動きます。より詳しくいうと, を中心として,振幅 で,正弦波に従って振動することになります。角振動数が分かれば,周期は で求められます。
一般解は上の式で与えられているので,原理的には初期条件を用いて任意定数を求めれば,任意の時刻 での振動子の位置や速度がわかることになります。
1次元横向きばね振り子
1次元横向きばね振り子
以上で単振動の一般論を簡単に復習しました。筆者の体感では,大学入試で出題される単振動の問題の80%は,ばねの振動です。フックの法則より,バネが物体に及ぼす力は,ばねののびに比例した形,すなわち,自然長からのばねののびを とすると, で与えられます。( はばね定数)よって,運動方程式は の形になります。(ばねは物体をのびが0になる方向に戻そうとするので,左辺には負号がつきます。)
単振動型微分方程式の一般形 と比較すると,これは角振動数 の単振動であることがわかります。
以上の議論を踏まえて,以下の例題を考えてみましょう。
質量 の物体が滑らかな床に置かれている。物体の左端にはばね定数 のばねがついており,図の 方向のみに運動する。 軸の原点は,ばねが自然長 となる点に取る。以下の初期条件を で与えたとき,任意の時刻 での物体の位置を求めよ。
(1) で のとき
(2) で のとき
まず,運動方程式を書きます。原点が,ばねが自然長となる点にとられているので, 座標がそのままばねののびになります。したがって運動方程式は, となります。
この単振動型微分方程式の解は, とすると, となります。ここで は, と書くこともできますが,初期条件を考えるときは の方が使いやすいです。
(1) を代入すると, がわかります。また, なので, を代入すると, がわかります。よって求める一般解は, となります。 (2)についても全く同様に計算すると,一般解 が求まります。
1次元鉛直ばね振り子
1次元鉛直ばね振り子
上の問題は,振動中心と自然長の位置が一致する非常に簡単な問題でした。実は,バネ以外の力ががはたらく系では,一般にこのことは成り立ちません。以下の例題を考えてみましょう。
上の図のように,天井からばねで物体が吊り下げられている。x軸の原点をばねが自然長になる位置にとり, となるところまで物体を引っ張ったあと,静かに離した。物体の質量を ,ばね定数を ,重力加速度を とする。
(1)運動方程式をたてよ。
(2)単振動の振幅を求めよ。
(3)原点を初めて通過する時の,物体の速さを求めよ。
まず(1)から。物理系を考察する時,全ては運動方程式を立てるところから始まります。自然長と原点が一致しているので,物体がばねからうける力は, となります。これと重力を考えると,運動方程式は, と書くことができます。
続いて(2)です。上の微分方程式の一般解を考えることもできますが,もっと簡単に考えてみましょう。単振動型微分方程式の 一般形 と(1)で書いた運動方程式を比較すると,この単振動の振動中心は であることがわかります。また,物体の初期位置は であり,これ以上の に到達することはありません。よって振幅(=最大変位)は となります。
最後に(3)です。この問題も一般解を考えて解いてもいいですが,ここではエネルギー保存を考えてみましょう。系のエネルギーは,重力の位置エネルギー,ばねの位置エネルギー,運動エネルギーの3つです。重力の位置エネルギーの基準点を原点に取り,初期状態と原点通過時のエネルギーを等号で結ぶと, となります。よって が求める となります。
微分方程式を厳密に解くのも重要ですが,定性的に運動を捉えられるようになると,見える世界が広くなります。