線積分の直感的意味・例題を使った計算方法の解説

物理を記述する上では欠かせない「線積分」(英:Line Integral)について解説します。

そもそも積分に対してはどういうイメージを持てば良いかという話から始め,線積分の意味を解説します。また,例題を2問ほど解いて理解を深めます。

直感的に線積分を理解しましょう。

そもそも積分とは?

そもそも積分とは何であったかという話から始めていきます。端的にいってしまうと,積分は「足し算」です。 以下のようなことを考えると納得して頂けると思います。

そもそも積分とは

abf(x)dx \int_a^b f(x)dx は上図において,模様部分の面積を表しています。この部分を細かく縦に切り分けていくことを考えます。とても細かく千切りにしてあげて,この部分が NN つの短冊になったとします。これを横の長さ dxdx,縦の長さ f(x)f(x) の長方形だと見做せば, abf(x)dxi=1Nf(x)dx \int_a^b f(x)dx \approx \sum_{i=1}^N f(x) \cdot dx この式をみれば納得できるのではないでしょうか。インテグラルの記号は,単に細かい千切りの部分を足しなさい,ということを表す記号です。実際,このインテグラルの記号は,ラテン語で「総和」を表す"Summa"という単語の頭文字"S"を変形させたものだと言われています。

スカラー場における線積分の意味・イメージ

線積分は,スカラー場におけるものと,ベクトル場におけるものの2種類があります。スカラー場における線積分から解説します。

スカラー場における線積分は,前節で説明した積分をちょこっとだけ拡張したものに過ぎません。

今までの積分をあえて3次元で描いてみると,以下のようになります。

線積分のイメージ・普通の積分の場合

xx 軸上に,限りなく細い柱が途方もない数並び,zz 軸方向に伸びる壁ができています。この壁の面積が今までの積分でした。

これを眺めていると,次のような考えに自然にたどり着きます。「なぜ壁が立つ位置は xx 軸上のみに固定されているのだ,xyxy 平面上を自由に動く曲線の上に柱をたててもいいじゃないか」 と思いませんか?そうして生み出されたのがスカラー場における線積分です。

線積分のイメージ・スカラー場における線積分

この図における,柱で形成された壁の面積が,「線積分」の値に相当します。この壁をビヨンと伸ばして張り,平面に落とし込みます。このとき,普通の積分のときに考えたのと同様に,横の長さが dldl ずつ(このような微小な長さからなる線分のことを線素と呼ぶことがあります)になるように切り分けます。そうすると,線積分の値は単に,柱の高さに dldl をかけたものの「足し算」を計算しているだけ,とわかります。このような足し算の結果を Cf(x,y)dl \int_C f(x,y) dl などと書いて表します。これをスカラー場 f(x,y)f(x,y)CC に沿った線積分と呼びます。ただし,xyxy 平面上の柱が立っている曲線を CC と表しています。

ベクトル場における線積分の意味・イメージ

f(x,y)f(x,y) がスカラーであったので,x,yx,y を任意にとったときに,柱の高さは瞬時に f(x,y)f(x,y) に決まります。もし,スカラー場ではなく,ベクトル場 A(x,y)\boldsymbol{A}(x,y) がある状況では,どのように柱の高さを決めれば良いでしょうか。

柱の高さはスカラーですから,ベクトル場をスカラーに変換するような何かを考える必要があります。我々はベクトルをスカラーに変換するものとして,「内積」を知っています。CC の微小な接線ベクトルを drd\boldsymbol{r} と書くとして,A(x,y)dr\boldsymbol{A}(x,y) \cdot d\boldsymbol{r} を考えてみてはどうでしょう。接線ベクトルと内積をとることによって,A(x,y)\boldsymbol{A}(x,y) の接線方向の成分を取り出すことができますから,「CC に沿った」線積分を考えようというときに,とても好都合です。

上のような経緯から,ベクトル場 A(x,y)\boldsymbol{A}(x,y)CC に沿った線積分は,A(x,y)dr\boldsymbol{A}(x,y) \cdot d\boldsymbol{r} の「足し算」として定義することにします。詳しくは以下の通りです。

CCdrdr ずつにとても細かく分割して,NN 点に分かれたとします。各点における接線方向の単位ベクトルを er\boldsymbol{e}_r と書くことにします。各点において,それぞれの場所で A(x,y)er\boldsymbol{A}(x,y) \cdot \boldsymbol{e}_r を計算し,高さが A(x,y)er\boldsymbol{A}(x,y) \cdot \boldsymbol{e}_r で,横の長さが drdr の柱をたてます。このとき,NN 本の柱がたち,それによって壁が形成されたとすると,この壁の面積がベクトル場における線積分となる,ということですね。これを,

CA(x,y)dr \int_C \boldsymbol{A}(x,y) \cdot d\boldsymbol{r} などと書きます。インテグラルは足し算であることを思い出してください。これは単に,内積をいっぱい足しただけのものです。

ちなみに,ベクトル場の線積分には,上記のものに限らず異なる定義の仕方もあります。ただ,古典的な物理では,仕事など重要な物理量の定義でこの線積分が採用されています。とりあえずはこの線積分をしっかり理解しましょう。

線積分の練習問題

問1

C:y=x2(1x1) C: \quad y = x^2 \quad (-1 \leq x \leq 1)

練習問題1

とする。CC に沿ったベクトル場 A(x,y)=(x22xy) \boldsymbol{A}(x,y) = \left(\begin{array}{c} x^2\\ 2xy \end{array}\right) の線積分を求めよ。

微小接線方向のベクトル drd\boldsymbol{r} は, dr=(dxdy) d\boldsymbol{r} = \left(\begin{array}{c} dx\\ dy \end{array}\right) とかけるので,線積分は CA(x,y)dr=C(x22xy)(dxdy)=Cx2dx+2xydy\begin{aligned} \int_C \boldsymbol{A}(x,y) \cdot d\boldsymbol{r} &= \int_C \left(\begin{array}{c} x^2\\ 2xy \end{array}\right) \cdot \left(\begin{array}{c} dx\\ dy \end{array}\right)\\ &= \int_C x^2 dx + 2xy dy \end{aligned} と変形できます。ここで,パラメタ tt をつかって, {x=ty=t2 \begin{cases} x = t\\ y = t^2 \end{cases} と表せることを使うと, {dx=dxdtdt=1dt=dtdy=dydtdt=2tdt \begin{cases} dx = \dfrac{d{x}}{d{t}}dt = 1 \cdot dt = dt\\ dy = \dfrac{d{y}}{d{t}}dt = 2t \cdot dt \end{cases} これを用いると, CA(x,y)dr=11(4t4+t2)dt=2[45t5+13t3]01=3415\begin{aligned} \int_C \boldsymbol{A}(x,y) \cdot d\boldsymbol{r} &= \int_{-1}^1 (4t^4 + t^2)dt\\ &= 2\left[\dfrac{4}{5}t^5 + \dfrac{1}{3}t^3\right]_0^1\\ &= \dfrac{34}{15} \end{aligned} と求めることができます。

問2

CC を反時計周りに半径 rr の円をたどった閉路とする。CC に沿ったベクトル場 A(x,y)=(4y3x) \boldsymbol{A}(x,y) = \left(\begin{array}{c} 4y\\ -3x \end{array}\right) の線積分を求めよ。

極座標表示で考えます。全微分の式を用いると dx=xθdθ+xrdr=θ(rcosθ)dθ=rsinθdθ\begin{aligned} dx &= \dfrac{\partial{x}}{\partial{\theta}}d\theta + \dfrac{\partial{x}}{\partial{r}}dr\\ &= \dfrac{\partial{}}{\partial{\theta}}(r\cos \theta)d\theta\\ &= -r\sin \theta d\theta \end{aligned} 同様に考えれば dy=rcosθdθ\begin{aligned} dy = r\cos \theta d\theta \end{aligned}

これらにより, dr=r(sinθcosθ)dθ d\boldsymbol{r} = r\left(\begin{array}{c} -\sin \theta\\ \cos \theta \end{array}\right) d\theta

また, A(x,y)=(4y3x)=r(4sinθ3cosθ) \boldsymbol{A}(x,y) = \left(\begin{array}{c} 4y\\ -3x \end{array}\right) = r \left(\begin{array}{c} 4\sin \theta\\ -3\cos \theta \end{array}\right)

これらを合わせれば,線積分は CAdr=r202π(sinθcosθ)(4sinθ3cosθ)dθ=r202π(4sin2θ3cos2θ)dθ=7πr2\begin{aligned} \int_C \boldsymbol{A} \cdot d\boldsymbol{r} &= r^2 \int_0^{2\pi}\left(\begin{array}{c} -\sin \theta\\ \cos \theta \end{array}\right)\cdot \left(\begin{array}{c} 4\sin \theta\\ -3\cos \theta \end{array}\right) d\theta\\ &= r^2 \int_0^{2\pi}(-4\sin^2 \theta - 3 \cos^2 \theta) d\theta\\ &= -7\pi r^2 \end{aligned} と計算できます。

このように CC が閉路になっている線積分を,特別に周回積分と呼ぶことがあります。周回積分に関しては特別に, \oint という記号を用いて表されることもあります。例えば,この問題の線積分であれば, CAdr \oint_C \boldsymbol{A} \cdot d\boldsymbol{r} と書くことができます。

積分にはいろいろな種類がある

積分には線積分のみならず,たくさんの種類があります。

例えば,「面積分(重積分)」。普通の積分は大雑把には面積を表すものでしたが,面積分は大雑把には 体積 を表します。→重積分の計算方法と例題3問

ただ,どんな積分であろうと,積分は微小なものをいっぱい足しただけの単なる足し算であるということを念頭においてください。この感覚が養われると,どんな積分も直感的に計算することができるようになります。

数学的に厳密な定義から考えることも大事ですが,イメージをもって計算ができることの方が,物理の計算をする上では,より大事です。