デルタ関数には多くの面白い性質がありますが,ここでは必要になる性質だけを紹介します。
性質1
∇2(∥r∥1)=−4πδ(r)
これは証明が少し大変です。頑張って計算していきましょう。
∂x∂(∥r∥1)=∂x∂(x2+y2+z21)=−∥r∥3x
より,
∂x2∂2(∥r∥1)=3∥r∥5x2−∥r∥31
が成立する。これより,
∇2(∥r∥1)=3∥r∥5x2−∥r∥31+3∥r∥5y2−∥r∥31+3∥r∥5z2−∥r∥31=0
ただし,これは r=0 のときにのみ成立するものであるから,0 であるときのことを別に考える必要がある。
∇2(∥r∥1) を全空間で体積積分すると,
∫Vall∇2(∥r∥1)dV=∫Vall∇⋅∇(∥r∥1)dV
ここで,ガウスの発散定理を利用すると,
∫Vall∇⋅∇(∥r∥1)dV=∫Sall∇(∥r∥1)⋅ndS
ただし,Sall は Vall の表面を表す閉曲面である。ここで,Sother,Sorigin を定義する。S を Sother,Sorigin に分割することを考える。以下の画像を見よ。
O を含む部分を Sorigin,O を含まない部分を Sother としている。Sother はとても微小な丸型フラスコのような形をしている。ただ,筒状になっている部分は,微小な球状のところよりもさらに細く,球状の部分の面積に対して筒状の部分がさらに微小であるような場所である。
∇(∥r∥1)=∥r∥3r
より,
∫Sall∇(∥r∥1)⋅ndS=∫Sother∇(∥r∥1)⋅ndS−∫Sorigin(∥r∥1)⋅ndS=∫Sotherを境界に持つ領域∇2(∥r∥1)dV−∫Sorigin∥r∥3r⋅ndS=∫Sotherを境界に持つ領域0dV−∥r∥21×4π∥r∥2=−4π
∴∫Vall∇2(∥r∥1)dV=−4π(1)
ここで,デルタ関数の定義より,
∫Vall(−4π)δ(r)dV=−4π
であるから,式 (1) における被積分関数はデルタ関数と見なすことができ,
∇2(∥r∥1)=−4πδ(r)
r をずらせば,
∇2(∥r′−r∥1)=−4πδ(∥r′−r∥)
が成立します。この式がよく使われます。
性質2
∫−∞∞f(x)δ(x−a)dx=f(a)
感覚的には成立しておいて欲しい性質です。これが正しいことが証明されます。証明には,一番最初に紹介した ε を使った表現を利用します。
f(x) の原始関数を F(x) として,
∫−∞∞f(x)δ(x−a)dx=ε→0lim∫a−2εa+2εεf(x)dx=ε→0limεF(a+2ε)−F(a−2ε)=f(a)
以下で実際に,この性質の三次元版:
∫−∞∞f(r)δ(r−r′)d3r=f(r′)
を利用します。ここで,d3r は dV と同じ意味を表します。r′ という変数も登場しているため,どの変数で積分すればよいかわからなくなることを避ける目的で利用しています。
この三次元の式自体は証明していません。単なる拡張としての紹介です。三次元版のちゃんとした証明はやや面倒なので,機会があれば別の記事で紹介しようと思います。