では,本題に入りましょう。再び,弱重力場の条件(→測地線方程式でやった近似と同じです)をつけます。このとき計量テンソルは
gμν=ημν+hμν (∣hμν∣≪1)
とかけます。gμν の1階,2階微分も,hμν と同程度の微小量であるとします。ここで,新たに
ϕμν=hμν−21hημν
とおきます。ただし,h=ημνhμν です。ϕ=ημνϕμν とすると,
ϕ=ημν(hμν−21hημν)=h−21h⋅4=−h
これより,
hμν=ϕμν−21ϕημν
とかけます。ここで,座標変換 xμ→xμ′ を考えます:
xμ′=xμ+ξμ (⟺xμ=xμ′−ξμ)
ξμ は微小量であるとします。xμ′ での hμν の成分 hμ′ν′ を求めます。
ημ′ν′+hμ′ν′=gμ′ν′=∂xμ′∂xλ∂xν′∂xσgλσ=(δμλ−∂xμ′∂ξλ)(δνσ−∂xν′∂ξσ)(ηλσ+hλσ)≈δμλδνσηλσ−δμλ∂xν′∂ξσηλσ−∂xμ′∂ξλδνσηλσ+δμλδνσhλσ=ημν−ημσ∂xν′∂ξσ−ηλν∂xμ′∂ξλ+hμν
ここで,
ημ′ν′=ημν
また,
∂xσ∂ξμ=∂xσ∂ξν′∂xν′∂ξμ=(δμ′ν′+∂xσ∂ξν)∂xν′∂ξμ=∂xσ′∂ξμ
を用いて,
hμ′ν′=hμν−ημσ∂xν∂ξσ−ηλν∂xμ′∂ξλ
ここで,
h′=ημ′ν′hμ′ν′,ϕμ′ν′=hμ′ν′−21h′ημ′ν′
とおくと,
h′=ημν(hμν−ημσ∂xν∂ξσ−ηλν∂xμ′∂ξλ)=h−2∂xσ∂ξσ
ϕμ′ν′=hμν−ημσ∂xν∂ξσ−ηλν∂xμ′∂ξλ−21(h−2∂xσ∂ξσ)ημν=ϕμν−ημσ∂xν∂ξσ−ηλν∂xμ′∂ξλ+ημν∂xσ∂ξσ
さらに,ϕν′μ′=ηλ′ν′ϕλ′ν′ を微分することを考えます。ηλ′ν′ϕλ′ν′ は微小量だから,
∂xμ′∂=∂xμ′∂xσ∂xσ∂=(δμσ−∂xμ′∂ξσ)∂xσ∂≈∂xμ∂
より,
∂xμ′∂ϕν′μ′=∂xμ∂{ημν(ϕμν−ημσ∂xν∂ξσ−ηλν∂xμ′∂ξλ+ημν∂xσ∂ξσ)}=∂xμ∂(ηλμϕλν)−∂xμ∂xν∂2ξμ+∂xν∂xσ∂2ξσ−ηλμησν∂xμ∂xλ∂2ξσ
ν=1,2,3 のとき,i′=ν′ とおいて,
∂xμ′∂ϕi′μ′=∂xμ∂ϕiμ−ηλμησi∂xμ∂xλ∂2ξσ=∂xμ∂ϕiμ−ηλμδσi∂xμ∂xλ∂2ξσ=∂xμ∂ϕiμ−ηλμ∂xμ∂xλ∂2ξi=∂xμ∂ϕiμ−□ξi
ν=0 のとき,
∂xμ′∂ϕ0′μ′=∂xμ∂ϕ0μ−ηλμ∂xμ∂xλ∂2ξ0=∂xμ∂ϕ0μ+□ξ0
ここで,ξμ として,
□ξμ=⎩⎨⎧−∂xμ∂ϕ0μ∂xμ∂ϕiμ(i=1,2,3)(1)
を取ることにします。ベクトル解析の定理として,以下のような定理があります:
領域 V の外で0の値をとり,x,t の関数である f(x,t) に対して,
ϕ(x,t)=4π1∫V∥y−x∥f(y,t±c∥y−x∥)dV
は,
□ϕ(x,t)=−f(x,t)の解である。
この解を,波動方程式の特殊解と呼ぶことがあります。これにより,式 (1) を満たす ξμ が必ず存在することが保証されています。この議論は電磁気学のLorenzゲージを考える際もしたと思います。
このとき,
∂xμ′∂ϕν′μ′=0(2)
が成立します。ここで,
∂xμ′∂ϕν′μ′=∂xμ′∂(ηλ′μ′ϕλ′ν′)=∂xμ′∂{ηλ′μ′(hλ′ν′−21h′ηλ′ν′)}=∂xμ′∂(hν′μ′−21h′δν′μ′)=∂xμ′∂hν′μ′−21dxν′dh′
であるから,hμ′ν′ に対し,
∂xμ′∂hν′μ′−21dxν′dh′=0
が成立します。以下 xμ′ 系で考えます。面倒なのでプライムは省略します。
さて,Christoffel記号を計算すると,ημν は定数より,
Γνσμ=21gμλ(∂xλ∂gνλ+∂xν∂gσλ−∂xλ∂gνσ)=21gμλ(∂xλ∂hνλ+∂xν∂hσλ−∂xλ∂hνσ)≈21ημλ(∂xλ∂hνλ+∂xν∂hσλ−∂xλ∂hνσ)
曲率テンソルは Rμνσλ=gμαRνσλα により計算すると,
Rμνσλ=21(∂xσ∂xν∂2gλμ+∂xλ∂xμ∂2gσν−∂xλ∂xν∂2gσμ−∂xσ∂xμ∂2gλν)+gαβ(ΓλναΓσμβ−ΓσναΓλμβ)
と表せる。第2項は微小量で構成されたChristoffelの記号の2次式なのでおちます。よって,
Rμνσλ=21(∂xσ∂xν∂2hλμ+∂xλ∂xμ∂2hσν−∂xλ∂xν∂2hσμ−∂xσ∂xμ∂2hλν)
これより,Ricciテンソルは,
Rνλ=gμσRμνσλ≈21ημσ(21(∂xσ∂xν∂2hλμ+∂xλ∂xμ∂2hσν−∂xλ∂xν∂2hσμ−∂xσ∂xμ∂2hλν))=2121(∂xσ∂xν∂2hλσ+∂xλ∂xμ∂2hνμ−∂xλ∂xν∂2h−ημσ∂xσ∂xμ∂2hλν)=21(∂xν∂(∂xσ∂hλσ−21∂xλ∂h)+∂xλ∂(∂xμ∂hνμ−21∂xν∂h)−□hλν)=−21□hνλ
さらにスカラー曲率は,
R=gμνRμν≈ημνRμν=−21□(ημνhμν)=−21□h
よって,
Gμν=Rμν−21gμνR=−21□hνλ−21ημν(−21□h)=−21□(hμν−21hημν)=−21□ϕμν
Einsteinの重力場方程式にこれを代入すれば,
−21□ϕμν=c48πGTμν
∴□ϕμν=−c416πGTμν(3)
式 (3) は,Einsteinの重力波方程式と呼ばれます。