ルートx^2+a^2の積分計算の2通りの方法

公式1:dxx2+a2=log(x+x2+a2)\displaystyle\int \dfrac{dx}{\sqrt{x^2+a^2}}=\log(x+\sqrt{x^2+a^2})

公式2:x2+a2dx=12(xx2+a2+a2log(x+x2+a2))\displaystyle\int \sqrt{x^2+a^2}dx=\dfrac{1}{2}(x\sqrt{x^2+a^2}+a^2\log(x+\sqrt{x^2+a^2}))

今回はマニアックな不定積分の公式です。sinh\sinh (ハイパボリックサイン)の逆関数のような形が出現しています。積分定数は省略していますが,答案では忘れないでください!

マニアックな不定積分の問題

マニアックな積分計算は解き方を知らないでその場で解くのはかなり厳しいです。京大などではかなり難しい不定積分の問題も出題されており,導出方法または答えを覚えておかないと厳しいです。

「右辺を微分したら左辺になる」というのが積分公式の証明になっており,そのことに言及すれば記述式の問題でも遠慮無く公式を使うことができます。

しかし,それではつまらないですし,公式を忘れたときに復元できないので「左辺を微分したら右辺になる」以外の導出方法も紹介しておきます。部分積分や置換積分など不定積分の計算テクニックが詰まっています。

公式1に関しては,x=asinht=aetet2x=a\sinh t=a\dfrac{e^t-e^{-t}}{2} と置換することで導出することができます。計算の詳細は双曲線関数(sinh,cosh,tanh)の意味・性質・楽しい話題まとめの下の方をご覧ください。

というわけで公式2に関して3通りの導出方法を紹介します。

  1. 部分積分と公式1を用いる方法
  2. 置換積分を用いる方法
  3. 双曲線関数を用いる方法

1:部分積分と公式1を用いる方法

方針

xdxx2+a2\displaystyle\int\dfrac{xdx}{\sqrt{x^2+a^2}} は「微分したものが外にある嬉しい形」なので積分できます。その形を強引に作りだして部分積分を用います。

証明

I=x2+a2dx=x2+a2x2+a2dx=a2x2+a2dx+xxx2+a2dxI=\displaystyle\int\sqrt{x^2+a^2}dx\\ =\displaystyle\int\dfrac{x^2+a^2}{\sqrt{x^2+a^2}}dx\\ =\displaystyle\int\dfrac{a^2}{\sqrt{x^2+a^2}}dx+\int\dfrac{x\cdot x}{\sqrt{x^2+a^2}}dx

ここで,右辺第一項は公式1より,

a2log(x+x2+a2)a^2\log(x+\sqrt{x^2+a^2})

となり,右辺第二項は部分積分を用いて(→補足),

xx2+a2x2+a2dx=xx2+a2Ix\sqrt{x^2+a^2}-\displaystyle\int\sqrt{x^2+a^2}dx\\ =x\sqrt{x^2+a^2}-I

以上から,

I=12(xx2+a2+a2log(x+x2+a2))I=\dfrac{1}{2}(x\sqrt{x^2+a^2}+a^2\log(x+\sqrt{x^2+a^2}))

次に紹介する2番目の導出方法よりは思いつきやすい自然な発想ですが,それでも解いたことがないと厳しいでしょう。

補足: (x2+a2)=xx2+a2(\sqrt{x^2+a^2})'=\dfrac{x}{\sqrt{x^2+a^2}} であることを使います。

2:テクニカルな置換積分を用いる方法

x=atanθx=a\tan\theta と置換したいところですが,計算してみるとしんどいです(1cos3θdθ\displaystyle\int\dfrac{1}{\cos^3\theta}d\theta という積分が出てきます。この積分計算が大変で,やりきってもそれを xx の式に戻すのもまた大変です)。

そこで,天下り的ですが,t=x+x2+a2t=x+\sqrt{x^2+a^2} と置換します。xx について解くと x=12(ta2t)x=\dfrac{1}{2}\left(t-\dfrac{a^2}{t}\right) です。この置換を Euler Substitution(オイラー置換)と言います。

証明

x=12(ta2t)x=\dfrac{1}{2}\left(t-\dfrac{a^2}{t}\right) と置換して,

I=14(ta2t)2+a212(1+a2t2)dt=14(t+a2t)(1+a2t2)dt=14(t22+2a2logta42t2)=12{14(ta2t)(t+a2t)+a2log(x+x2+a2)}=12(xx2+a2+a2log(x+x2+a2))I=\displaystyle\int\sqrt{\dfrac{1}{4}\left(t-\dfrac{a^2}{t}\right)^2+a^2}\cdot\dfrac{1}{2}\left(1+\dfrac{a^2}{t^2}\right)dt\\ =\displaystyle\dfrac{1}{4}\int\left(t+\dfrac{a^2}{t}\right)\left(1+\dfrac{a^2}{t^2}\right)dt\\ =\dfrac{1}{4}\left(\dfrac{t^2}{2}+2a^2\log t-\dfrac{a^4}{2t^2}\right)\\ =\dfrac{1}{2}\left\{\dfrac{1}{4}\left(t-\dfrac{a^2}{t}\right)\left(t+\dfrac{a^2}{t}\right)+a^2\log (x+\sqrt{x^2+a^2})\right\}\\ =\dfrac{1}{2}(x\sqrt{x^2+a^2}+a^2\log(x+\sqrt{x^2+a^2}))

なお,xx がどんな値のときでも x+x2+a2>0x+\sqrt{x^2+a^2}>0 なので積分後の log\log に絶対値をつける必要はありません。

3:双曲線関数を用いる方法

読者の方に教えていただきました!

双曲線関数 sinh,cosh\sinh,\cosh の定義や性質については双曲線関数の意味・性質・楽しい話題まとめ双曲線関数の加法定理とその証明を参照してください。

証明

x=asinhyx=a\sinh y と置換すると,

x2+a2=acoshy\sqrt{x^2+a^2}=a\cosh y および dxdy=acoshy\dfrac{dx}{dy}=a\cosh y より,

x2+a2dx=a2cosh2ydy=a22(1+cosh2y)dy=a22(y+12sinh2y)=a22(y+sinhycoshy)=a22sinh1xa+x2x2+a2=12{a2log(x+x2+a2)+xx2+a2}\displaystyle\int\sqrt{x^2+a^2}dx\\ =\displaystyle\int a^2\cosh^2ydy\\ =\dfrac{a^2}{2}\displaystyle\int (1+\cosh 2y)dy\\ =\dfrac{a^2}{2}\left(y+\dfrac{1}{2}\sinh 2y\right)\\ =\dfrac{a^2}{2}\left(y+\sinh y\cosh y\right)\\ =\dfrac{a^2}{2}\sinh^{-1}\dfrac{x}{a}+\dfrac{x}{2}\sqrt{x^2+a^2}\\ =\dfrac{1}{2}\{a^2\log(x+\sqrt{x^2+a^2})+x\sqrt{x^2+a^2}\}

例題

入試数学コンテストの過去問を紹介します。

第1回第4問

関数 f(x),g(x)f(x), g(x) を以下のように定める。 {f(x)=2(exex)g(x)=2(ex+ex) \begin{cases} f(x) = 2(e^x - e^{-x})\\ g(x) = 2(e^x + e^{-x}) \end{cases}

(1) {g(2)}2,{f(2)}2+16\left\{g(2)\right\}^2, \left\{f(2)\right\}^2 + 16 の値をそれぞれ求めよ。

(2) f(x)f(x) の逆関数 f1(x)f^{-1}(x) を求めよ。

(3) 03dxx2+16\displaystyle\int_0^3 \dfrac{dx}{\sqrt{x^2 + 16}} を計算せよ。

解答はこちら→入試数学コンテスト第1回第4問解答解説

美しい方法を教えてくださった読者の方に感謝いたします!

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