ウォリスの公式とその3通りの証明

ウォリスの公式

n=1(2n)2(2n1)(2n+1)=π2\displaystyle\prod_{n=1}^{\infty}\dfrac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)}=\dfrac{\pi}{2}

つまり,

2213×4435×6657×=π2\dfrac{2\cdot 2}{1\cdot 3}\times\dfrac{4\cdot 4}{3\cdot 5}\times\dfrac{6\cdot 6}{5\cdot 7}\times\cdots=\dfrac{\pi}{2}

ウォリスの公式は,美しい無限積の公式です。

ウォリスの公式の意味

  • n=1\displaystyle\prod_{n=1}^{\infty} は,n=1n=1 から順々に無限にかけ算していく(無限積)という意味です。

  • ウォリスの公式の左辺 n=1(2n)2(2n1)(2n+1)\displaystyle\prod_{n=1}^{\infty}\dfrac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)} を書き下してみると, 2213×4435×6657×\dfrac{2\cdot 2}{1\cdot 3}\times\dfrac{4\cdot 4}{3\cdot 5}\times\dfrac{6\cdot 6}{5\cdot 7}\times\cdots となります。この値を計算すると円周率が登場するというのは不思議です。

  • 二重階乗(階乗の1つ飛ばしバージョン を使うと,ウォリスの公式の左辺は limn({2n}!!)2(2n1)!!(2n+1)!!\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{(\{2n\}!!)^2}{(2n-1)!!(2n+1)!!} と書くこともできます。ただし,(2n)!!(2n)!!22 から 2n2n までの偶数の積です。(2n1)!!(2n-1)!!11 から 2n12n-1 までの奇数の積です。この表し方は,後ほど証明で使います。

ウォリスの公式の証明

高校数学範囲内での証明

方針

左辺では1個飛ばしの自然数の積が登場します。そこで,似たような形が出現する sin\sinnn 乗の積分を用います(これを自力で思いつくのはかなり厳しい)。

証明

In=0π2sinnxdxI_n=\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\sin^nxdx とおく。

00 から π2\dfrac{\pi}{2} では sinx0\sin x \geq 0 より,I2n+2<I2n+1<I2nI_{2n+2} <I_{2n+1} <I_{2n}

また,部分積分を用いることで,I2nI_{2n} たちが以下のように計算できる(ウォリス積分と呼ばれる有名な公式。詳細はウォリス積分~sinのn乗,cosのn乗の積分公式を参照):

  • I2n+2=π2(2n+1)!!(2n+2)!!I_{2n+2}=\dfrac{\pi}{2}\cdot\dfrac{(2n+1)!!}{(2n+2)!!}
  • I2n+1=(2n)!!(2n+1)!!I_{2n+1}=\dfrac{(2n)!!}{(2n+1)!!}
  • I2n=π2(2n1)!!(2n)!!I_{2n}=\dfrac{\pi}{2}\cdot\dfrac{(2n-1)!!}{(2n)!!}

これらを赤字の式に代入すると,

π2(2n+1)!!(2n+2)!!<(2n)!!(2n+1)!!<π2(2n1)!!(2n)!!\dfrac{\pi}{2}\cdot\dfrac{(2n+1)!!}{(2n+2)!!} <\dfrac{(2n)!!}{(2n+1)!!} <\dfrac{\pi}{2}\cdot\dfrac{(2n-1)!!}{(2n)!!}

ここで,ウォリスの公式の左辺に出てくる {(2n)!!}2(2n1)!!(2n+1)!!\dfrac{\{(2n)!!\}^2}{(2n-1)!!(2n+1)!!} を登場させるために各辺に (2n)!!(2n1)!!\dfrac{(2n)!!}{(2n-1)!!} をかける

π22n+12n+2<{(2n)!!}2(2n1)!!(2n+1)!! <π2\dfrac{\pi}{2}\cdot\dfrac{2n+1}{2n+2} <\dfrac{\{(2n)!!\}^2}{(2n-1)!!(2n+1)!!} < \dfrac{\pi}{2}

よって,nn \to \infty とするとはさみ打ちの原理よりウォリスの公式を得る。

sin の無限乗積展開を用いた証明

以下の方法は形式的で厳密には複素関数論を必要としますが,面白い方法なので紹介しておきます。

説明

sinx\sin xx=0,±π,±2πx=0,\pm \pi,\pm 2\pi\cdots00 となるので,因数定理をイメージすると, sinx=Ax(1xπ)(1+xπ)(1x2π)(1+x2π) \sin x=Ax \left( 1-\dfrac{x}{\pi} \right) \left( 1+\dfrac{x}{\pi} \right) \left( 1-\dfrac{x}{2\pi} \right) \left( 1+\dfrac{x}{2\pi} \right) \cdots と表されると期待できる(AA は定数)。

また,limx0sinxx=1\displaystyle\lim_{x\to 0}\dfrac{\sin x}{x}=1 より,A=1A=1 が分かる。

よって,上式に x=π2x=\dfrac{\pi}{2} を代入すると,

1=sinπ2=π2(1122)(1142)(1162)=π2132235425762\begin{aligned} 1&=\sin \dfrac{\pi}{2}\\ &=\dfrac{\pi}{2}\left(1-\dfrac{1}{2^2}\right)\left(1-\dfrac{1}{4^2}\right)\left(1-\dfrac{1}{ 6^2}\right)\cdots\\ &=\dfrac{\pi}{2}\dfrac{1\cdot 3}{2^2}\dfrac{3\cdot 5}{4^2}\dfrac{5\cdot 7}{6^2}\cdots \end{aligned}

となりウォリスの公式を得る。

※注意

  • 「最初の等式」を厳密に正当化するためにはワイエルシュトラスの因数分解定理が必要です。
  • ちなみに sin の無限乗積展開はバーゼル問題の証明にも使えます。

詳しくは sin の無限乗積展開とワイエルシュトラスの因数分解定理 をご覧ください。

ガンマ関数を用いた証明

ガンマ関数 を用いた証明もあります。

証明

ガンマ関数について Γ(x)=limn0ntx1(1tn)ndt \Gamma(x) = \lim_{n\to\infty} \int_0^n t^{x-1} \left(1-\dfrac{t}{n}\right)^{n}dt が成り立つ。(→ガンマ関数 性質4の証明を参照)

定積分の部分について,t=nut = nu と置換すると 0ntx1(1tn)ndt=nx01ux1(1u)ndu \int_0^n t^{x-1} \left(1-\dfrac{t}{n}\right)^{n}dt = n^{x} \int_0^1 u^{x-1} (1-u)^n du となる。

ベータ関数の積分公式 とガンマ関数の性質を用いると

01ux1(1u)ndu=Γ(x)Γ(n+1)Γ(x+n+1)=n!x(x+1)(x+n)\begin{aligned} \int_0^1 u^{x-1} (1-u)^n du &= \dfrac{\Gamma (x) \Gamma (n+1)}{\Gamma (x+n+1)}\\ &= \dfrac{n!}{x (x+1) \cdots (x+n)} \end{aligned} を得る。

さて,今 x=12x = \dfrac{1}{2} とすると Γ(x)=π\Gamma (x) = \sqrt{\pi} であるため π=limnn12n!12322n+12=limnn122n+1n!(2n+1)!!=limn2n12(2n)!!(2n+1)!!\begin{aligned} \sqrt{\pi} &= \lim_{n\to\infty} \dfrac{n^{\frac{1}{2}} n!}{\dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{3}{2} \cdots \dfrac{2n+1}{2}}\\ &= \lim_{n \to \infty} \dfrac{n^{\frac{1}{2}} 2^{n+1} n!}{(2n+1)!!}\\ &= \lim_{n \to \infty} \dfrac{2 n^{\frac{1}{2}} (2n)!!}{(2n+1)!!}\\ \end{aligned}

右辺の lim\lim の中を二乗することで (2n12(2n)!!(2n+1)!!)2=4n2n+1k=1n(2k)2(2k1)(2k+1)\begin{aligned} \left( \dfrac{2 n^{\frac{1}{2}} (2n)!!}{(2n+1)!!} \right)^2 &= \dfrac{4n}{2n+1} \prod_{k=1}^n \dfrac{(2k)^2}{(2k-1)(2k+1)} \end{aligned} である。

よって, n=1(2n)2(2n1)(2n+1)=limnk=1n(2k)2(2k1)(2k+1)=limn2n+12nπ2=π2\begin{aligned} \prod_{n=1}^{\infty} \dfrac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)} &= \lim_{n \to \infty} \prod_{k=1}^n \dfrac{(2k)^2}{(2k-1)(2k+1)}\\ &= \lim_{n \to \infty} \dfrac{2n+1}{2n} \dfrac{\pi}{2}\\ &= \dfrac{\pi}{2} \end{aligned} を得る。

ウォリスの公式の応用

  • ウォリスの公式を用いて,似たような無限積の公式をいくつか導けます。高校数学で無限積を扱う問題はあまり出題されませんが,もし出題されたら(されていたら)その多くはウォリスの公式に関係したものでしょう。
  • ウォリスの公式は,スターリングの公式:n!2πn(ne)nn!\fallingdotseq\sqrt{2\pi n}\left(\dfrac{n}{e}\right)^n の証明にも用いられます。 →スターリングの公式の証明

「Wallis の公式」声に出して言いたい数学用語です。

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