はさみうちの原理の証明

はさみうちの原理(数列版)

はさみうちの原理 任意の自然数 nn に対して(または十分大きな nn に対して) anbncna_n \leqq b_n \leqq c_n が成立し,

limnan=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha かつ limncn=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}c_n=\alpha なら

limnbn=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}b_n=\alpha

はさみうちの原理の意味・例題・証明をわかりやすく説明します。

はさみうちの原理の意味

  • はさみうちの原理は,数列の極限を求めるときに使える定理です。
  • 極限を求めたい数列 bnb_n よりも小さい数列 ana_n と大きい数列 cnc_n の極限が両方とも α\alpha なら,挟まれた bnb_n の収束先も α\alpha になる,という定理です。
例題1

limnsinnn\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{\sin n}{n} を計算せよ。

解答

1sinn1-1\leqq\sin n \leqq 1 より,1nsinnn1n-\dfrac{1}{n}\leqq \dfrac{\sin n}{n}\leqq\dfrac{1}{n} である。

  • 小さい数列の極限は limn(1n)=0\displaystyle\lim_{n\to\infty} \left( -\dfrac{1}{n} \right)=0
  • 大きい数列の極限は limn1n=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{1}{n}=0

よって,間に挟まれた数列の極限も limnsinnn=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{\sin n}{n}=0 となる。

  • はさみうちの原理のことを英語では Squeeze Theorem なども言います。原理と呼ぶことが多いですが「定理」です。
  • 感覚的には当然成り立つであろう定理ですが,以下できちんと証明します(証明には ϵN\epsilon-N 論法,ϵδ\epsilon-\delta 論法という大学数学の道具を用いるので大学入試で問われることはありません)。

証明の準備(極限の定義)

はさみうちの原理を証明する準備として,極限の定義をきちんとします。

数列の極限の定義

limnan=α\displaystyle\lim_{n\to\infty}a_n=\alpha とは,

「任意の正の実数 ϵ\epsilon に対して,ある NN が存在して nNn\geqq N なら anα<ϵ|a_n-\alpha| <\epsilon が成立する」

厳密に書くと分かりにくいですが,意味は難しくありません。

nn を大きくすると ana_n はいくらでも α\alpha に近づく」
→「nn が十分大きいなら anα|a_n-\alpha| はいくらでも 00 に近づく」
→「どんなに小さい正の数 ϵ\epsilon に対しても nn が十分大きいなら anα<ϵ|a_n-\alpha| <\epsilon となる」
→「任意の正の実数 ϵ\epsilon に対して,ある NN が存在して nNn\geqq N なら anα<ϵ|a_n-\alpha| <\epsilon が成立する」

これで極限の意味が厳密に定義されたので,はさみうちの原理が証明できます。

イプシロンデルタ論法とイプシロンエヌ論法

はさみうちの原理の証明

まずは仮定と目標の式をきちんと表現しておきます。

仮定は,

  • anbncna_n \leqq b_n \leqq c_n
  • 任意の ϵ>0\epsilon > 0 に対してある N1N_1 が存在して nN1n\geqq N_1 なら anα<ϵ|a_n-\alpha| <\epsilon
  • 任意の ϵ>0\epsilon > 0 に対してある N2N_2 が存在して nN2n\geqq N_2 なら cnα<ϵ|c_n-\alpha| <\epsilon

目標は,

  • 任意の ϵ>0\epsilon > 0 に対してある NN が存在して nNn\geqq N なら bnα<ϵ|b_n-\alpha| <\epsilon
証明

仮定の2つ目と3つ目より,

任意の ϵ>0\epsilon > 0 に対して N>N1,N>N2N > N_1, N > N_2 となるように NN を取れば nNn\geqq N なら an>αϵa_n > \alpha-\epsilon かつ cn<α+ϵc_n <\alpha+\epsilon である。

仮定の1つめと合わせると αϵ<bn<α+ϵ\alpha-\epsilon < b_n < \alpha+\epsilon である。

つまり,bnα<ϵ|b_n-\alpha| <\epsilon である。よって,はさみうちの原理が示された。

関数版のはさみうちの原理

ここまでは数列の極限を考えましたが,関数の極限についてもはさみうちの原理が成立します。

はさみうちの原理(関数版)

任意の正の実数 xx に対して(または十分大きな xx に対して) f(x)g(x)h(x) f(x) \leqq g(x) \leqq h(x) かつ limxAf(x)=limxAh(x)=α \lim_{x\to A}f(x)=\lim_{x\to A}h(x)=\alpha なら limxAg(x)=α \lim_{x\to A}g(x)=\alpha

証明も数列版とほとんど同じです。極限の定義をきちんとしておきましょう。

関数の極限の定義

limxAf(x)=α\displaystyle\lim_{x\to A}f(x)=\alpha とは,

「任意の正の実数 ϵ\epsilon に対して,ある δ>0\delta > 0 が存在して xA<δ|x-A| <\delta なら f(x)α<ϵ|f(x)-\alpha| <\epsilon が成立する」

はさみうちの原理(関数版)の証明

仮定より 任意の ϵ>0\epsilon > 0 に対して

  1. ある δ1>0\delta_1 > 0 が存在して,xA<δ1|x-A| <\delta_1 なら f(x)α<ϵ|f(x)-\alpha| <\epsilon

  2. ある δ2>0\delta_2 > 0 が存在して xA<δ2|x-A| <\delta_2 なら h(x)α<ϵ|h(x)-\alpha| <\epsilon

よって,δ<δ1,δ<δ2\delta <\delta_1, \delta <\delta_2 となるように δ>0\delta > 0 を取れば xA<δ|x-A| <\delta なら f(x)>αϵf(x) > \alpha-\epsilon かつ h(x)<α+ϵh(x) <\alpha+\epsilon

よって,αϵ<g(x)<α+ϵ\alpha-\epsilon < g(x) < \alpha+\epsilon である。

つまり,g(x)α<ϵ|g(x)-\alpha| <\epsilon である。

練習問題

例題2

limxexsinx\displaystyle\lim_{x\to\infty}e^{-x}\sin x を計算せよ。

exexsinxex-e^{-x}\leqq e^{-x}\sin x\leqq e^{-x} であることとはさみうちの原理から,極限値は 00 になります。これは 減衰曲線 と呼ばれる重要な曲線です。

ϵδ\epsilon-\delta 論法が大学数学最初の関門です。高校生のうちに雰囲気だけでも理解しておくとよいでしょう。→イプシロンデルタ論法とイプシロンエヌ論法

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