ガンマ関数(階乗の一般化)の定義と性質

ガンマ関数と呼ばれる有名な関数について,定義と性質を整理しました。

「階乗 n!n! の整数以外への拡張」とみなせるおもしろい関数です。

ガンマ関数の定義

ガンマ関数の定義(正の実数の場合)

正の実数 xx に対して, Γ(x)=0tx1etdt \Gamma(x)=\displaystyle\int_0^{\infty}t^{x-1}e^{-t}dt を返す関数 Γ(x)\Gamma(x) をガンマ関数と呼ぶ。

  • 積分区間の上端が ++\infty であり,高校数学では扱いません。広義積分と呼ばれます。→広義積分の意味といろいろな例
  • 広義積分と言うと難しそうですが,要は定積分の極限 lima0,babtx1etdt\displaystyle\lim_{a\to 0,b\to\infty}\int_a^b t^{x-1}e^{-t}dt のことです。
  • この極限は収束することが知られています。
  • ガンマ関数のグラフは図のようになります。xx の増加とともに Γ(x)\Gamma(x) の値は爆発的に増えていきます。 ガンマ関数

階乗の一般化であること

ガンマ関数の定義は一見複雑そうですが,実は階乗の一般化になっています。

ガンマ関数の性質1

任意の正の整数 nn に対して,

Γ(n+1)=n!\Gamma(n+1)=n!

Γ(n)=n!\Gamma(n)=n! ではなく 11 ズレることに注意して下さい。

この性質は,部分積分を使って簡単に証明できます。

証明

Γ(1)=0etdt=[et]0=1 \Gamma(1)=\displaystyle\int_0^{\infty}e^{-t}dt=[-e^{-t}]_0^{\infty}=1

また,任意の正の整数 nn に対して,

Γ(n+1)=0tnetdt=[tnet]00{ntn1et}dt=0+n0tn1etdt=nΓ(n)\begin{aligned} \Gamma(n+1) &= \int_0^{\infty}t^{n}e^{-t}dt\\ &=\big[ -t^{n}e^{-t} \big]_0^{\infty}-\int_0^{\infty}\{-nt^{n-1}e^{-t}\}dt\\ &= 0+n\int_0^{\infty}t^{n-1}e^{-t}dt\\ &= n\Gamma(n) \end{aligned}

以上より Γ(n+1)=n!\Gamma(n+1)=n!Γ(1)=0!\Gamma(1)=0! となる。

高校数学ではとりあえず便利だから 0!=10!=1,と定義されますが,Γ(1)=1\Gamma(1)=1 となることからも 0!=10!=1 とするのが自然ですね。→0の階乗を1と定義する理由

ガンマ関数の定義(完全版)

性質1の証明で Γ(n)=(n1)Γ(n1)\Gamma(n)=(n-1)\Gamma(n-1) という式が出てきましたが,この導出に nn が整数であることは使っていないので,以下の性質2が成立します。

ガンマ関数の性質2

任意の正の実数 xx に対して,

Γ(x+1)=xΓ(x)\Gamma(x+1)=x\Gamma(x)

性質2をもとに,00 以下の整数」を除いた複素数全体でガンマ関数が定義されます。

ガンマ関数の定義

x∉{0,1,2,}x\not\in\{0,-1,-2,\cdots\} なる複素数 xx に対して,以下のように定まる Γ(x)\Gamma(x) をガンマ関数と呼ぶ。

  • xx の実部が正なら
    Γ(x)=0tx1etdt\Gamma(x)=\displaystyle\int_0^{\infty}t^{x-1}e^{-t}dt
    とする。
  • xx の実部が 00 以下なら,すべての aa
    Γ(a)=Γ(a+1)a\Gamma(a)=\dfrac{\Gamma(a+1)}{a} が成り立つように Γ(x)\Gamma(x) を定める。

例えば,Γ(2.5)\Gamma(-2.5)Γ(0.5)\Gamma(0.5) の値をもとに Γ(0.5)(2.5)(1.5)(0.5)\dfrac{\Gamma(0.5)}{(-2.5)(-1.5)(-0.5)} と定まります。

1/2でのガンマ関数の値

ガンマ関数の性質3

Γ(12)=π\Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right)=\sqrt{\pi}

これはガウス積分を使うことで簡単に導出できます。→ガウス積分の公式の2通りの証明

証明

Γ(12)=0t12etdt \Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right)=\displaystyle\int_0^{\infty}t^{-\frac{1}{2}}e^{-t}dt

ここで t=u2t=u^2 と置換すると,上式は

0u1eu22udu=20eu2du=π\begin{aligned} &\int_0^{\infty}u^{-1}e^{-u^2}2udu\\ &=2\int_0^{\infty}e^{-u^2}du\\ &=\sqrt{\pi} \end{aligned}

性質2:Γ(x+1)=xΓ(x)\Gamma(x+1)=x\Gamma(x)
性質3:Γ(12)=π\Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right)=\sqrt{\pi}

を組み合わせると,Γ(n+12)\Gamma\left(n+\dfrac{1}{2}\right) の値を求めることができます。

例えば,0.5!0.5! に相当する値 Γ(32)\Gamma\left(\dfrac{3}{2}\right)

Γ(32)=12Γ(12)=π2\Gamma\left(\dfrac{3}{2}\right)=\dfrac{1}{2}\Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right)=\dfrac{\sqrt{\pi}}{2} と分かります。

ガンマ関数の無限積表示

ガンマ関数の性質4

Γ(x)=limnnxn!x(x+1)(x+2)(x+n)\Gamma(x)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{n^xn!}{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)}

xx が正の実数の場合について導出します。

導出

Γ(x)=limn0ntx1etdt=limn0ntx1(1tn)ndt\begin{aligned} \Gamma(x) &=\lim_{n\to\infty}\int_0^nt^{x-1}e^{-t}dt\\ &=\lim_{n\to\infty}\int_0^nt^{x-1}\left(1-\dfrac{t}{n}\right)^{n}dt \end{aligned}

(→2つめの等号については後ほど補足)

極限の中身を ana_n とおく。tn=u\dfrac{t}{n}=u と置換すると,

an=nx01ux1(1u)ndu a_n=n^{x} \int_0^1 u^{x-1} (1-u)^n du

部分積分を n+1n+1 回すると,(1u)n(1-u)^n の微分が消えてくれて,結局

an=nxn!x(x+1)(x+2)(x+n) a_n=n^x\dfrac{n!}{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)}

となる。

2つめの等号について

2つめの等号の厳密な証明には大学で習う解析の知識が必要です。

表記簡略化のために fn(t)=(1tn)nf_n (t) = \left(1-\dfrac{t}{n}\right)^{n} とおきます。 目標は,任意の ε>0\varepsilon>0 に対してある整数 NN が存在して n>Nn>N なら Γ(x)0nfn(t)tx1dx<ε \left| \Gamma (x) - \int_0^{n} f_n (t) t^{x-1} dx \right| < \varepsilon を示すことです。イプシロンエヌ論法で証明します。

正数 ε\varepsilon を任意に取りましょう。

ステップ1

まず,ガンマ関数の収束性から,ある整数 NN' が存在して n>Nn > N' なら nettx1dt<12ε\displaystyle\int_{n}^{\infty}e^{-t}t^{x-1}dt<\dfrac{1}{2}\varepsilon とできます。

ステップ2

nn'NN' より大きい整数の中で1つ固定します。このとき,n>nn>n’ ならば

0Γ(x)0nfn(t)tx1dx<Γ(x)0nfn(t)tx1dt=0n(etfn(t))tx1dt+nettx1dt<0n(etfn(t))tx1dt+12ε\begin{aligned} 0 &\leqq \Gamma (x) - \int_0^{n} f_n (t) t^{x-1} dx\\ &< \Gamma (x) - \int_0^{n'} f_n (t) t^{x-1} dt\\ &= \int_0^{n'} (e^{-t} - f_n (t)) t^{x-1} dt + \int_{n'}^{\infty} e^{-t} t^{x-1} dt\\ &<\int_0^{n'} (e^{-t} - f_n (t)) t^{x-1} dt+\dfrac{1}{2}\varepsilon \end{aligned}

ここで,[0,n][0,n'] 上で fnf_nete^{-t} に一様収束します。
→ 各点収束と一様収束の違いと具体例の例題4

よって NN を十分大きくすると,n>Nn > Netfn(t)<xε2nxe^{-t} - f_n (t) < \dfrac{x\varepsilon}{2n'^x} とできます。このとき上の不等式の1項目は 12ε\dfrac{1}{2} \varepsilon 未満となります。

以上より n>Nn > N であれば, Γ(x)0nfn(t)tx1dx<ε \left| \Gamma (x) - \int_0^{n} f_n (t) t^{x-1} dx \right| < \varepsilon となります。

こうして 0nfn(t)tx1dtΓ(x)\displaystyle \int_0^n f_n (t) t^{x-1} dt \to \Gamma (x) であり,等式が示されました。

なお,性質4の右辺の極限は xx が負でも収束します。より具体的には「xx00 以下の整数ではない複素数」なら収束します。これをガンマ関数の定義とみなすこともできます。

ガンマ関数の定義(極限によるもの)

x∉{0,1,2,}x\not\in\{0,-1,-2,\cdots\} なる複素数 xx に対して,

Γ(x)=limnnxn!x(x+1)(x+2)(x+n)\Gamma(x)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{n^xn!}{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)}

を返す関数 Γ(x)\Gamma(x) をガンマ関数と呼ぶ。

広義積分による定義と極限による定義は同値です。

極限による定義から性質の証明

ガンマ関数の極限による定義:

Γ(x)=limnnxn!x(x+1)(x+2)(x+n)\Gamma(x)=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{n^xn!}{x(x+1)(x+2)\cdots(x+n)}

から,
性質1:Γ(n+1)=n!\Gamma(n+1)=n!
性質3:Γ(12)=π\Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right)=\sqrt{\pi}
を導出してみます。どちらもおもしろいです!

性質1の導出

例として,n=4n=4 の場合について確認する。一般の場合も同様。

Γ(4)=limnn4n!4×5××(n+4)=limnn4×3!(n+1)(n+2)(n+3)(n+4)=3!\begin{aligned} \Gamma(4) &= \lim_{n\to\infty}\dfrac{n^4n!}{4\times 5\times \cdots\times (n+4)}\\ &=\lim_{n\to\infty}\dfrac{n^4\times 3!}{(n+1)(n+2)(n+3)(n+4)}\\ &=3! \end{aligned}

性質3の導出

Γ(12)=limnnn!12×32×52××2n+12=limn2n(2n)!!(2n+1)!!\begin{aligned} \Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right) &=\lim_{n\to\infty}\dfrac{\sqrt{n}n!}{\frac{1}{2}\times\frac{3}{2}\times\frac{5}{2}\times\cdots\times\frac{2n+1}{2}}\\ &=\lim_{n\to\infty} \dfrac{2\sqrt{n} (2n)!!}{(2n+1)!!} \end{aligned}

よって,

Γ(12)2=limn4n{(2n)!!}2(2n1)!!(2n+1)!!(2n+1) \Gamma\left(\dfrac{1}{2}\right)^2=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{4n\{(2n)!!\}^2}{(2n-1)!!(2n+1)!!(2n+1)}

右辺は,ウォリスの公式より π\pi に収束する。

参考:ウォリスの公式とその2通りの証明

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