広義積分の意味といろいろな例

広義積分とは,大雑把に言うと定積分の(積分区間についての)極限です。

いろいろな例を見ながら広義積分の理解を深めます。

広義積分(区間の片方→無限)

広義積分にはいろいろなパターンがあります。まずは「区間の片方→無限」のパターンです。

  • limbabf(x)dx\displaystyle\lim_{b\to\infty}\int_a^bf(x)dx のことを,af(x)dx\displaystyle\int_a^{\infty}f(x)dx と書くことがある。

  • limaabf(x)dx\displaystyle\lim_{a\to -\infty}\int_a^bf(x)dx のことを,bf(x)dx\displaystyle\int_{-\infty}^{b}f(x)dx と書くことがある。

このパターンの広義積分は,確率分布の計算でよく登場します。

例1

0exdx\displaystyle\int_0^\infty e^{-x}dx という広義積分を定義に従って計算すると,

limb0bexdx=limb[ex]0b=limb(eb+1)=1\displaystyle\lim_{b\to\infty}\int_0^be^{-x}dx\\ =\displaystyle\lim_{b\to\infty}\left[-e^{-x}\right]_0^b\\ =\displaystyle\lim_{b\to\infty}(-e^{-b}+1)\\ =1

例1は指数分布の確率密度関数に関する計算です。→指数分布の意味と具体例

例2

11xsdx\displaystyle\int_1^{\infty}\dfrac{1}{x^s}dx を計算する。

  • s>1s>1 のとき,
    limb[x1s1s]1b=1s1\displaystyle\lim_{b\to\infty}\left[\dfrac{x^{1-s}}{1-s}\right]_1^{b}=\dfrac{1}{s-1} に収束する。
  • s=1s=1 のとき,
    limb[logx]1b\displaystyle\lim_{b\to\infty}\left[\log x\right]_1^{b} は発散する。
  • s<1s<1 のとき,
    limb[x1s1s]1b\displaystyle\lim_{b\to\infty}\left[\dfrac{x^{1-s}}{1-s}\right]_1^{b} は発散する。

例2はゼータ関数に関連する計算です。→ゼータ関数の定義と基本的な話

区間の両端→無限 のパターン

limalimbabf(x)dx\displaystyle\lim_{a\to-\infty}\lim_{b\to\infty}\int_a^bf(x)dx のことを,f(x)dx\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}f(x)dx と書くことがある。

同じく確率分布の計算でよく登場します。

例3

abex2dx\displaystyle\int_{a}^b e^{-x^2}dx は簡単な式で表せないが,広義積分については ex2dx=π\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi} になることが知られている。

例3はガウス積分と呼ばれる有名な広義積分です。ガウス分布の計算などに登場します。→ガウス積分の公式の2通りの証明

例4

absinx2dx\displaystyle\int_{a}^b \sin{x^2}dx は簡単な式で表せないが,広義積分については sinx2dx=π2\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\sin{x^2}dx=\sqrt{\dfrac{\pi}{2}} になることが知られている。

例4はフレネル積分と呼ばれる有名な広義積分です。→フレネル積分(sin x^2の積分)

注意が必要な例

例5

x1+x2dx\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}\dfrac{x}{1+x^2}dx は収束しない。

  • 奇関数 f(x)f(x) と定数 aa に対して aaf(x)dx=0\displaystyle\int_{-a}^{a}f(x)dx=0 ですが,f(x)dx=0\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}f(x)dx=0 とは限らない,という例です。
  • 実際に定義に従って計算してみると,
    limalimb[12log(1+x2)]ab=limalimb{12log(1+b2)12log(1+a2)}\displaystyle\lim_{a\to-\infty}\lim_{b\to\infty}\left[\dfrac{1}{2}\log(1+x^2)\right]_a^b\\ =\displaystyle\lim_{a\to-\infty}\lim_{b\to\infty}\left\{\dfrac{1}{2}\log(1+b^2)-\dfrac{1}{2}\log(1+a^2)\right\}
    となり発散します。aabb それぞれ独立に極限を取ることに注意が必要です。limaaax1+x2dx=lima0=0\displaystyle\lim_{a\to\infty}\displaystyle\int_{-a}^{a}\dfrac{x}{1+x^2}dx=\lim_{a\to\infty}0=0 のように計算してはダメです。
  • 例5は「コーシー分布の期待値は存在しない」ことを表します。→コーシー分布とその期待値などについて

区間の端で関数が定義されていないパターン

積分区間の端 a0a_0 で被積分関数が定義されていないパターンです。

a0<xba_0<x\leq b で定義された関数 f(x)f(x) に対して,limaa0+0abf(x)dx\displaystyle\lim_{a\to a_0+0}\int_a^bf(x)dx のことを,a0bf(x)dx\displaystyle\int_{a_0}^{b}f(x)dx と書くことがある。

例6

011xsdx\displaystyle\int_0^1\dfrac{1}{x^s}dx を計算する。

  • s>1s>1 のとき,
    lima00[x1s1s]a01\displaystyle\lim_{a_0\to 0}\left[\dfrac{x^{1-s}}{1-s}\right]_{a_0}^{1} は発散する。
  • s=1s=1 のとき,
    lima00[logx]a01\displaystyle\lim_{a_0\to 0}\left[\log x\right]_{a_0}^{1} は発散する。
  • s<1s<1 のとき,
    lima00[x1s1s]a01=11s\displaystyle\lim_{a_0\to 0}\left[\dfrac{x^{1-s}}{1-s}\right]_{a_0}^{1}=\dfrac{1}{1-s} に収束する。

例2と非常に似ています! どちらも y=1xsy=\dfrac{1}{x^s} の下側部分の面積を考えるのですが,xx 軸の正の向きに飛んでいくのが例2で,yy 軸の正の向きに飛んでいくのが例6です。y=1xpy=\dfrac{1}{x^p}y=1x1py=\dfrac{1}{x^{\frac{1}{p}}} が互いに逆関数であることも意識しましょう。

例7

z>0z>0 のもとで,0tz1etdt\displaystyle\int_0^{\infty}t^{z-1}e^{-t}dt という広義積分は収束することが知られている。

例7について,

  • 広義積分の2つのパターンの融合です。つまり,積分区間の下端は (z<1z<1 のとき)「区間の端で関数が定義されていないパターン」です。積分区間の上端は「区間の端点→無限」のパターンです。
  • 有名なガンマ関数(階乗を拡張したもの)の定義です。→ガンマ関数(階乗の一般化)の定義と性質
  • この広義積分が収束することは「比較判定法」により示せます。比較判定法とは,大雑把に言うと「被積分関数を自分の絶対値よりも大きい関数に置き換えて収束するなら,もとの広義積分は収束する」です。

楽しい広義積分の例

例8

0x3ex1dx=π415\displaystyle\int_0^{\infty}\dfrac{x^3}{e^x-1}dx=\dfrac{\pi^4}{15}

x=0x=0 で被積分関数の分母 =0=0 になるので,左辺は広義積分です。詳細は→x^3/e^x-1の定積分

例9

011xxdx=n=11nn\displaystyle\int_0^{1}\dfrac{1}{x^x} dx=\sum_{n=1}^{\infty}\dfrac{1}{n^n}

000^0 は定義しないという立場のもとで)被積分関数は x=0x=0 で定義されないので,左辺は広義積分です。詳細は→2年生の夢(sophomore’s dream)

広義積分について厳密に説明するというよりも,例を通じて高校数学+アルファの話題をいろいろ紹介したいという記事です。