sin の無限乗積展開とワイエルシュトラスの因数分解定理

無限乗積(無限積)とは,無限級数の「積」版です。

三角関数の無限乗積展開

sinπz=πzn=1(1z2n2) \sin \pi z = \pi z \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right)

無限積のアイデアを用いると,一般的な関数を「因数分解」できるようになります。

無限積の収束

数列の積

(実・複素)数列 {an}\{ a_n \} に対して n=1an\displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} a_n が収束するとは,ある自然数 NN があって,極限 αN=limmn=Nman \alpha_N = \lim_{m \to \infty} \prod_{n=N}^{m} a_n 00 ではない値に収束することを指します。

このとき n=1an=αNn=1N1an \prod_{n=1}^{\infty} a_n = \alpha_N \prod_{n=1}^{N-1} a_n とします。

αN0\alpha_N \neq 0 とする理由は,an=0a_n = 0 だと積は 00 になって自明なので取り除きたいからです。

関数列

関数列 {fn(z)}\{ f_n (z) \} に対して n=1fn(z)\displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} f_n (z) が収束するとは,ある自然数 NN があって,極限 FN(z)=limmn=Nmfn(z) F_N (z) = \lim_{m \to \infty} \prod_{n=N}^{m} f_n (z) が零点を持たない関数に収束することを指します。

このとき n=1fn(z)=FN(z)n=1N1fn(z) \prod_{n=1}^{\infty} f_n (z) = F_N (z) \prod_{n=1}^{N-1} f_n (z) とします。

さらに {Fm(z)}\{ F_m (z) \} が一様収束するとき, n=1fn(z)\displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} f_n (z) は一様収束するといいます。

重要な事実

収束する無限乗積については次の定理が知られています。

定理

無限乗積 n=1an\displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} a_n が収束するとき limnan=1\displaystyle \lim_{n \to \infty} a_n = 1 である。

証明

Pm=n=Mman\displaystyle P_m = \prod_{n=M}^{m} a_nα\alpha に収束するものとする。このとき limmam=limmPmPm1=αα=1\begin{aligned} \lim_{m \to \infty} a_m &= \lim_{m \to \infty} \dfrac{P_m}{P_{m-1}}\\ &= \dfrac{\alpha}{\alpha}\\ &=1 \end{aligned} である。

無限乗積の収束判定

ここでは無限乗積が収束するかどうか,直接証明するのは大変です。次の使いやすい定理があります。

定理

関数列 n=1fn(z)\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} f_n (z) が一様収束すれば,n=1(1+fn(z))\displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} (1+f_n (z)) も一様収束する。

三角関数の無限乗積

sinπz=πzn=1(1z2n2) \sin \pi z = \pi z \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right) を証明しましょう。

証明

収束性

n=1z2n2\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{z^2}{n^2} は一様収束するため n=1(1z2n2)\displaystyle \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right) も一様収束する。

等式を示す

f(z)=πzsinπzn=1(1z2n2)\displaystyle f(z) = \dfrac{\pi z}{\sin \pi z} \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right)11 であることを示す。

ddzlogf(z)=1z+n=1(1n+z1nz)πcosπzsinπz=(1z+n=12zz2n2)πcosπzsinπz\begin{aligned} &\dfrac{d}{dz} \log f(z)\\ &= \dfrac{1}{z} + \sum_{n=1}^{\infty} \left( \dfrac{1}{n+z} - \dfrac{1}{n-z} \right) - \pi \dfrac{\cos \pi z}{\sin \pi z}\\ &= \left( \dfrac{1}{z} + \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{2z}{z^2 - n^2} \right) - \pi \dfrac{\cos \pi z}{\sin \pi z} \end{aligned} である。

三角関数の部分分数分解 で紹介した通り πcotπz=1z+n=12zz2n2 \pi \cot \pi z = \dfrac{1}{z} + \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{2z}{z^2 - n^2} である。よって ddzlogf(z)=0\dfrac{d}{dz} \log f(z) = 0 である。

ゆえに logf(z)\log f(z) は定数である。ゆえに f(z)=Cf(z) = CCC は定数)となる。

ここで limz0f(z)=limz0πzsinπzn=1(1z2n2)=1\begin{aligned} &\lim_{z \to 0} f(z)\\ &= \lim_{z \to 0} \dfrac{\pi z}{\sin \pi z} \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right)\\ &= 1 \end{aligned}

よって f(z)=1f(z) = 1 である。

sin\sin の無限乗積展開の応用

バーゼル問題

バーゼル問題 n=11n2=π26 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} = \dfrac{\pi^2}{6} を証明しましょう。

証明

マクローリン展開により z1|z| \leqq 1sinπz=πzπ33!z3+π55!z5 \sin \pi z = \pi z - \dfrac{\pi^3}{3!} z^3 + \dfrac{\pi^5}{5!}z^5 - \cdots と表される。特に z3z^3 の係数は π36- \dfrac{\pi^3}{6} である。

一方,πzn=1(1z2n2)\displaystyle \pi z \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1-\dfrac{z^2}{n^2} \right)z3z^3 の係数は π(112+122+132+) -\pi \left( \dfrac{1}{1^2} + \dfrac{1}{2^2} + \dfrac{1}{3^2} + \cdots \right) である。

上記2つを比較することで n=11n2=π26 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} = \dfrac{\pi^2}{6} を得る。

ウォリスの公式

ウォリスの公式 n=1(2n)2(2n1)(2n+1)=π2 \prod_{n=1}^{\infty}\dfrac{(2n)^2}{(2n-1)(2n+1)}=\dfrac{\pi}{2} を証明しましょう。

証明

sinπz=πzn=1(1z2n2) \sin \pi z = \pi z \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right) の両辺に z=12z=\dfrac{1}{2} を代入すると, 1=sinπ2=π2(1122)(1142)(1162)=π2132235425762\begin{aligned} 1 &= \sin \dfrac{\pi}{2}\\ &= \dfrac{\pi}{2} \left( 1-\dfrac{1}{2^2} \right) \left( 1-\dfrac{1}{4^2} \right) \left( 1-\dfrac{1}{ 6^2} \right) \cdots\\ &= \dfrac{\pi}{2} \dfrac{1\cdot 3}{2^2} \dfrac{3\cdot 5}{4^2} \dfrac{5\cdot 7}{6^2} \cdots \end{aligned} となる。

こうして公式を得る。

ワイエルシュトラスの因数分解定理

無限乗積展開の一般論を紹介します。

整関数とは複素数平面全体で正則(微分可能)な関数でした。

例えば 多項式関数 は整関数でした。多項式は因数分解ができます。ワイエルシュトラスの因数分解定理は整関数が(指数関数の差を除けば)ほとんど多項式のようにふるまうことを意味します。

ワイエルシュトラスの因数分解定理

{an}\{ a_n \} は複素数列とする。(特に limnan\lim_{n \to \infty} a_n は存在しないとする。)

零点が(重複含め){an}\{ a_n \} となる整関数 f(z)f(z) が存在する。

さらに {an}\{ a_n \} のうち最初の mm 個のみが 00 であるとする。

このとき, f(z)=eg(z)zmn=m+1(1zan)ePn(z) f(z) = e^{g(z)} z^m \prod_{n=m+1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z}{a_n} \right) e^{P_n(z)} と表すことができる。

ただし,

  • g(z)g(z) は零点を持たない整関数
  • Pn(z)=i=1m1i(zan)\displaystyle P_n (z) = \sum_{i=1}^m \dfrac{1}{i} \left( \dfrac{z}{a_n} \right)mmana_n での ff の零点の位数)

とする。

特に上の無限乗積は広義一様収束する。

整関数についてはこちらもどうぞ → リュウビルの定理と代数学の基本定理

定理の内容が長くやや難しいので sin\sin の例を見て理解を深めましょう。

sin の無限乗積展開

sinπz\sin \pi z の零点は z=nz = nnZn \in \mathbb{Z})で零点の位数は 11 です。

ワイエルシュトラスの因数分解定理より,ある零点を持たない整関数 g(z)g(z) を用いて sinπz=eg(z)znZ,n0(1zn)ezn \sin \pi z = e^{g(z)} z \prod_{n \in \mathbb{Z} , n \neq 0} \left( 1-\dfrac{z}{n} \right) e^{\frac{z}{n}} と表される。

(1zn)ezn(1zn)ezn=1z2n2 \left( 1-\dfrac{z}{n} \right) e^{\frac{z}{n}} \left( 1-\dfrac{z}{-n} \right) e^{\frac{z}{-n}} = 1 - \dfrac{z^2}{n^2} であるため, sinπz=eg(z)zn=1(1z2n2) \sin \pi z = e^{g(z)} z \prod_{n=1}^{\infty} \left( 1- \dfrac{z^2}{n^2} \right) である。

以下は eg(z)e^{g(z)} を最初の証明のときの f(z)f(z) として計算すればよい。

最初の証明は天下り的に等式を考えましたが,ワイエルシュトラスの因数分解定理を用いると,演繹的に無限乗積を計算することができます。

ワイエルシュトラスの因数分解定理を用いると,様々な関数の無限乗積展開ができます。やってみましょう。