sin の無限乗積展開とワイエルシュトラスの因数分解定理
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無限乗積(無限積)とは,無限級数の「積」版です。
無限積のアイデアを用いると,一般的な関数を「因数分解」できるようになります。
無限積の収束
無限積の収束
数列の積
(実・複素)数列 に対して が収束するとは,ある自然数 があって,極限 が ではない値に収束することを指します。
このとき とします。
※ とする理由は, だと積は になって自明なので取り除きたいからです。
関数列
関数列 に対して が収束するとは,ある自然数 があって,極限 が零点を持たない関数に収束することを指します。
このとき とします。
さらに が一様収束するとき, は一様収束するといいます。
重要な事実
収束する無限乗積については次の定理が知られています。
無限乗積 が収束するとき である。
が に収束するものとする。このとき である。
無限乗積の収束判定
ここでは無限乗積が収束するかどうか,直接証明するのは大変です。次の使いやすい定理があります。
関数列 が一様収束すれば, も一様収束する。
三角関数の無限乗積
三角関数の無限乗積
を証明しましょう。
収束性
は一様収束するため も一様収束する。
等式を示す
が であることを示す。
である。
三角関数の部分分数分解 で紹介した通り である。よって である。
ゆえに は定数である。ゆえに ( は定数)となる。
ここで
よって である。
の無限乗積展開の応用
の無限乗積展開の応用
バーゼル問題
バーゼル問題 を証明しましょう。
マクローリン展開により で と表される。特に の係数は である。
一方, の の係数は である。
上記2つを比較することで を得る。
ウォリスの公式
ウォリスの公式 を証明しましょう。
の両辺に を代入すると, となる。
こうして公式を得る。
ワイエルシュトラスの因数分解定理
ワイエルシュトラスの因数分解定理
無限乗積展開の一般論を紹介します。
整関数とは複素数平面全体で正則(微分可能)な関数でした。
例えば 多項式関数 は整関数でした。多項式は因数分解ができます。ワイエルシュトラスの因数分解定理は整関数が(指数関数の差を除けば)ほとんど多項式のようにふるまうことを意味します。
は複素数列とする。(特に は存在しないとする。)
零点が(重複含め) となる整関数 が存在する。
さらに のうち最初の 個のみが であるとする。
このとき, と表すことができる。
ただし,
- は零点を持たない整関数
- ( は での の零点の位数)
とする。
特に上の無限乗積は広義一様収束する。
整関数についてはこちらもどうぞ → リュウビルの定理と代数学の基本定理
定理の内容が長くやや難しいので の例を見て理解を深めましょう。
の零点は ()で零点の位数は です。
ワイエルシュトラスの因数分解定理より,ある零点を持たない整関数 を用いて と表される。
であるため, である。
以下は を最初の証明のときの として計算すればよい。
最初の証明は天下り的に等式を考えましたが,ワイエルシュトラスの因数分解定理を用いると,演繹的に無限乗積を計算することができます。
ワイエルシュトラスの因数分解定理を用いると,様々な関数の無限乗積展開ができます。やってみましょう。