三角関数の部分分数分解

三角関数と部分分数分解

π2sin2πz=n=1(zn)2πcotπz=1z+n=12zz2n2 \dfrac{\pi^2}{\sin^2 \pi z} = \sum_{n = - \infty}^{\infty} \dfrac{1}{(z-n)^2}\\ \pi \cot \pi z = \dfrac{1}{z} + \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{2z}{z^2 - n^2}

ただし cotz=1tanz\cot z = \dfrac{1}{\tan z} である。

三角関数に関する(無限項からなる)部分分数分解を紹介します。

上の2つの式の応用例と証明をそれぞれ紹介します。

応用例1:バーゼル問題

証明は少し大変なので,まずは応用例です。

π2sin2πz=n=1(zn)2 \dfrac{\pi^2}{\sin^2 \pi z} = \sum_{n = - \infty}^{\infty} \dfrac{1}{(z-n)^2}

を使って,有名な級数(バーゼル問題) n=11n2=π26 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} = \dfrac{\pi^2}{6} を証明してみます。

証明

証明の前半は重積分を用いたバーゼル問題の美しい証明 でも述べた式変形。

n=11n2=k=01(2k+1)2+m=11(2m)2=k=01(2k+1)2+14m=11m2\begin{aligned} \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} + \sum_{m=1}^{\infty} \dfrac{1}{(2m)^2}\\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} + \dfrac{1}{4} \sum_{m=1}^{\infty} \dfrac{1}{m^2} \end{aligned} と変形することで n=11n2=43k=01(2k+1)2 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} = \dfrac{4}{3} \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} がわかる。よって, k=11(2k1)2=π28 \sum_{k=1}^{\infty} \dfrac{1}{(2k-1)^2} = \dfrac{\pi^2}{8} を示せば OK。これは,sin\sin の公式: π2sin2πz=n=1(zn)2 \dfrac{\pi^2}{\sin^2 \pi z} = \sum_{n = - \infty}^{\infty} \dfrac{1}{(z-n)^2}z=12z = \dfrac{1}{2} を代入するだけ。

左辺は π2sin2π2=π2\dfrac{\pi^2}{\sin^2 \dfrac{\pi}{2}} = \pi^2

右辺の各項は 1(12n)2=4(2n1)2 \dfrac{1}{\left( \frac{1}{2} - n \right)^2} = \dfrac{4}{(2n-1)^2} よって n=1(12n)2=4n=1(2n1)2=8n=11(2n1)2\begin{aligned} \sum_{n = -\infty}^{\infty} \dfrac{1}{\left( \frac{1}{2} - n \right)^2} &= 4 \sum_{n = -\infty}^{\infty} \dfrac{1}{(2n-1)^2}\\ &= 8 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{(2n-1)^2} \end{aligned}

応用例2

次は,πcotπz=1z+n=12zz2n2\pi \cot \pi z = \displaystyle\dfrac{1}{z} + \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{2z}{z^2 - n^2} をもとに n=11n2+1=π2tanhπ12 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2+1} = \dfrac{\pi}{2 \tanh \pi} - \dfrac{1}{2} を証明します。

証明

cot\cot の公式に z=iz = i を代入する。

左辺はオイラーの公式 より, πcotπi=πcosπisinπi=πiei(πi)+ei(πi)ei(πi)ei(πi)=iπeπ+eπeπeπ\begin{aligned} \pi \cot \pi i &= \pi \dfrac{\cos \pi i}{\sin \pi i}\\ &= \pi i \dfrac{e^{i \cdot (\pi i)} + e^{-i \cdot (\pi i)}}{e^{i \cdot (\pi i)} - e^{-i \cdot (\pi i)}}\\ &= -i \pi \dfrac{e^{\pi} + e^{-\pi}}{e^{\pi} - e^{-\pi}} \end{aligned}

右辺は 1i+n=12i1n2=(1+2n=11n2+1)i\begin{aligned} \dfrac{1}{i} + \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{2i}{-1 - n^2} &= -\left( 1 + 2 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2+1} \right) i \end{aligned}

よって n=11n2+1=π2eπ+eπeπeπ12 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2+1} = \dfrac{\pi}{2} \dfrac{e^{\pi} + e^{-\pi}}{e^{\pi} - e^{-\pi}} - \dfrac{1}{2}

双曲線関数 を用いると n=11n2+1=π2tanhπ12 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2+1} = \dfrac{\pi}{2 \tanh \pi} - \dfrac{1}{2} と表せる。

証明

それでは,冒頭の公式2つを証明します。

証明には複素解析の知識が必要になります。

sin の公式

f(z)=π2sin2πzf(z) = \dfrac{\pi^2}{\sin^2 \pi z}F(z)=f(z)n=1(zn)2\displaystyle F(z) = f(z) - \sum_{n=-\infty}^{\infty} \dfrac{1}{(z-n)^2} とおきます。F(z)=0F(z)=0 を示すのが目標です。

証明は以下の3ステップでやります。

  1. F(z)F(z) が整関数であることを示す。
  2. F(z)F(z) の(部分的な)有界性を示す。
  3. 「有界な整関数は定数関数のみ」というリュービルの定理を使って F(z)=0F(z)=0 を示す。
証明

ステップ1

まず F(z)F(z) に現れる無限級数が(広義一様)収束することを確認する。zN|z| \leqq N において n>N1z+n2n>N1N+n22n=11n2<\begin{aligned} \sum_{|n| > N} \dfrac{1}{|z+n|^2} &\leqq \sum_{|n| > N} \dfrac{1}{|N+n|^2}\\ &\leqq 2\sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} < \infty \end{aligned} より ワイエルシュトラスのM判定法 から収束する。

sinπz\sin \pi zz=nz = nnn は整数)を零点とするため,f(z)f(z)z=nz=n で2位の極を持つ。よって FF の極の候補は z=nz=n のみである。→ z=nz=n での正則性を示せば十分である

特に sinπzπ=z+z3ϕ(z) \dfrac{\sin \pi z}{\pi} = z + z^3 \phi (z) ϕ\phiϕ(0)0\phi (0) \neq 0 となる正則関数)と表されるため f(z)=1z2(1+z2ϕ(z))2=1z2+ψ(z) f(z) = \dfrac{1}{z^2} (1+z^2 \phi (z))^{-2} = \dfrac{1}{z^2} + \psi (z) ψ\psi は正則関数)と表される。

よって f(z)f(z)z=0z=0 近傍で ローラン展開 したときの主要部は 1z2\dfrac{1}{z^2} である。ゆえに(主要部同士が打ち消し合い) F(z)=f(z)1(zn)2\displaystyle F(z) = f(z) - \sum \dfrac{1}{(z-n)^2}z=0z=0 で正則になる。

周期性より z=nz=nF(z)F(z) は正則である。こうして FF は整関数である。

以下 z=x+yiz = x+yix,yx,y は実数) と表す。

ステップ2-1limyf(x+yi)\displaystyle \lim_{|y| \to \infty} f(x+yi)00 に(一様)収束することを示す。

2sinπ(x+iy)=eπi(x+yi)eπi(x+yi)eπeπy\begin{aligned} &|2 \sin \pi (x+iy)|\\ &= |e^{\pi i (x+yi)} - e^{-\pi i (x+yi)}|\\ &\geqq |e^{-\pi} - e^{\pi y}| \end{aligned} であるため f(x+yi)π2221eπyeπy2 |f(x+yi)| \leqq \dfrac{\pi^2}{2^2} \dfrac{1}{|e^{-\pi y} - e^{\pi y}|^2} となる。よって y|y| \to \infty とすると f(x+yi)f(x+yi)00 に収束する。

ステップ2-20x10 \leqq x \leqq 1 において,x+yin2\displaystyle \sum |x+yi-n|^200 に(一様)収束することを示す。

ε>0\varepsilon > 0 を任意に取る。

n01xn2<\displaystyle \sum_{n \neq 0} \dfrac{1}{|x-n|^2} < \infty であるため,ある自然数 NN があって n>N1x+yin2n>N1xn2<12ε \sum_{|n| > N} \dfrac{1}{|x+yi-n|^2} \leqq \sum_{|n| > N} \dfrac{1}{|x-n|^2} < \dfrac{1}{2} \varepsilon とできる。

次に n<N|n| < N において,y>δ|y| > \delta とすると nN1x+yin2<2N+1δ2 \sum_{|n| \leqq N} \dfrac{1}{|x+yi-n|^2} < \dfrac{2N+1}{\delta^2} とできるため,δ\delta を十分大きくとると nN1x+yin2<12ε \sum_{|n| \leqq N} \dfrac{1}{|x+yi-n|^2} < \dfrac{1}{2} \varepsilon とできる。

以上より,任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して,十分大きな δ\delta を取ると,y>δ|y| > \deltanZ,n01x+yin2<ε \sum_{n \in \mathbb{Z} , n \neq 0} \dfrac{1}{|x+yi-n|^2} < \varepsilon となる。こうして示された。

ステップ3

ステップ 2 より F(x+yi)F(x+yi)0x1,yR0 \leqq x \leqq 1, y \in \mathbb{R} で有界である。

F(z)F(z) の周期性より,これは任意の実数 xx 上に拡張できる。

よって F(z)F(z) は複素平面全体で有界である。リュービルの定理 より F(z)F (z) は定数関数である。

F(0)=0F(0) = 0 であるため,特に F(z)F(z) は恒等的に 00 である。

cot の公式

g(z)=πcotπz1zn=12zz2n2\displaystyle g(z) = \pi \cot \pi z - \dfrac{1}{z} - \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{2z}{z^2 - n^2} とおきます。

次のステップで証明します。

  1. gg が整関数であることを示す。
  2. 導関数が 00 になることを示す。
  3. gg00 であることを示す。
証明

ステップ1

まずは級数が広義一様収束する(zN|z| \leqq N で一様収束する)ことを確認する。

zN|z| \leqq N で各項が 1n2\dfrac{1}{n^2} で抑えることができることから,ワイエルシュトラスのM判定法より,一様収束することが従う。

cotπz\cot \pi z の極は z=nz = n で,それぞれ一位の極を持つ。sin\sin のときと同様に,主要部は 2zz2n2=1zn+1z+n \dfrac{2z}{z^2 - n^2} = \dfrac{1}{z - n} + \dfrac{1}{z + n} と打ち消し合うため,g(z)g(z)z=nz = n で正則である。

こうして整関数であることが従う。

ステップ2

級数部分は(広義)一様収束するため,項別微分できる。また (cotπz)=(cosπzsinπz)=πsin2πz (\cot \pi z)' = \left( \dfrac{\cos \pi z}{\sin \pi z} \right)' = - \dfrac{\pi}{\sin^2 \pi z} である。

よって g(z)=π2sin2πz1z2n01(zn)2\begin{aligned} g'(z) &= - \dfrac{\pi^2}{\sin^2 \pi z}- \dfrac{1}{z^2} - \sum_{n \neq 0} \dfrac{1}{(z-n)^2} \end{aligned} である。sin\sin の部分分数分解より g(z)=0g'(z) = 0 である。

ステップ3

g(z)=0g'(z) = 0 より,g(z)g(z) は定数関数 CC である。

さて,cot\cot2zz2n2\dfrac{2z}{z^2 - n^2} は奇関数であるため,gg も奇関数である。

よって C=0C = 0 となる。

三角関数の部分分数分解を用いることで sin\sin の無限乗積展開を計算できます。→sin の無限乗積展開とワイエルシュトラスの因数分解定理

cotの証明の最後で使った「奇関数かつ定数関数は 00 のみ」という性質,ちょっとおもしろいです。