重積分を用いたバーゼル問題の美しい証明

更新日時 2022/10/01
バーゼル問題

n=11n2=π26 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} = \dfrac{\pi^2}{6}

この記事ではバーゼル問題を重積分を用いて証明します。

変数変換のテクニックが大変美しい証明となっています。

重積分については

を参照してください。

バーゼル問題については

バーゼル問題の初等的な証明

もどうぞ。

目次
  • 証明

  • 証明の歴史と参考文献

証明

n=11n2=k=01(2k+1)2+m=11(2m)2=k=01(2k+1)2+14m=11m2\begin{aligned} \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} + \sum_{m=1}^{\infty} \dfrac{1}{(2m)^2}\\ &= \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} + \dfrac{1}{4} \sum_{m=1}^{\infty} \dfrac{1}{m^2} \end{aligned} と変形することで n=11n2=43k=01(2k+1)2 \sum_{n=1}^{\infty} \dfrac{1}{n^2} = \dfrac{4}{3} \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} が得られます。

よって次の式を証明すればよいことになります。

定理

k=01(2k+1)2=π28 \sum_{k=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2k+1)^2} = \dfrac{\pi^2}{8}

重積分 III=010111x2y2dxdy I = \int_0^1 \int_0^1 \dfrac{1}{1-x^2 y^2} dxdy とおく。

積分を変形して,積分値が求める値になることを確認する。

0<x,y<10 < x,y < 1 より 11x2y2=n=0(xy)2n \dfrac{1}{1-x^2 y^2} = \sum_{n=0}^{\infty} (xy)^{2n} とでき,この極限と積分の順序は入れ替えることができる。→ 積分と極限(無限和)の交換

よって I=0101n=0(xy)2ndxdy=n=00101x2ny2ndxdy=n=001x2ndx01y2ndy=n=01(2n+1)2\begin{aligned} I &= \int_0^1 \int_0^1 \sum_{n=0}^{\infty} (xy)^{2n} dxdy\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \int_0^1 \int_0^1 x^{2n} y^{2n} dxdy\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \int_0^1 x^{2n} dx \int_0^1 y^{2n} dy\\ &= \sum_{n=0}^{\infty} \dfrac{1}{(2n+1)^2} \end{aligned} と変形される。

II の計算のために変数変換を導入する。

cosu=1x21x2y2\cos u = \sqrt{\dfrac{1-x^2}{1-x^2 y^2}}cosv=1y21x2y2\cos v = \sqrt{\dfrac{1-y^2}{1-x^2 y^2}} とおく。定義から 0<u,v<π20 < u,v < \dfrac{\pi}{2} である。

このとき sinu=x1y21x2y2\sin u = x \sqrt{\dfrac{1-y^2}{1-x^2 y^2}}sinv=y1x21x2y2\sin v = y \sqrt{\dfrac{1-x^2}{1-x^2 y^2}} であるため, x=sinucosv,  y=sinvcosu x = \dfrac{\sin u}{\cos v} , \; y = \dfrac{\sin v}{\cos u} である。

この変数変換によって積分範囲がどのように変化するか調べる。

0<x<10 < x < 10<y<10 < y < 1 に上の式を代入すると

0<sinucosv<1    sinu>0,  cosv>sinu0<sinvcosu<1    sinv>0,  cosu>sinv\begin{aligned} &0 < \dfrac{\sin u}{\cos v} < 1\\ &\iff \sin u > 0 , \; \cos v > \sin u\\ &0 < \dfrac{\sin v}{\cos u} < 1\\ &\iff \sin v > 0 , \; \cos u > \sin v \end{aligned}

となる。

{cosv>sinucosu>sinv \begin{cases} \cos v > \sin u\\ \cos u > \sin v \end{cases} を解けば良い。対称性より1つめの式のみの考察でよい。

cosv=sin(π2v)\cos v = \sin \left( \dfrac{\pi}{2} - v \right)0<u,v<π20 < u,v < \dfrac{\pi}{2} に注意すると π2v>u \dfrac{\pi}{2} - v > u すなわち u+v<π2 u+v < \dfrac{\pi}{2} を得る。

以上をまとめると,u>0u > 0v>0v > 0u+v<π2u+v < \dfrac{\pi}{2} を得る。

pic01

ヤコビアンを計算する。

J=det(dxdudxdvdydudydv)=det(cosucosvsinusinvcos2vsinvsinucos2ucosucosv)=cosucosvcosucosvsinvsinucos2usinusinvcos2v=1x2y2\begin{aligned} J &= \det \begin{pmatrix} \dfrac{dx}{du} & \dfrac{dx}{dv}\\ \dfrac{dy}{du} & \dfrac{dy}{dv} \end{pmatrix}\\ &= \det \begin{pmatrix} \dfrac{\cos u}{\cos v} & \dfrac{\sin u \sin v}{\cos^2 v}\\ \dfrac{\sin v \sin u}{\cos^2 u} & \dfrac{\cos u}{\cos v} \end{pmatrix}\\ &= \dfrac{\cos u}{\cos v} \dfrac{\cos u}{\cos v} - \dfrac{\sin v \sin u}{\cos^2 u}\dfrac{\sin u \sin v}{\cos^2 v}\\ &= 1 - x^2 y^2 \end{aligned} と計算される。

II を計算する。

S={(u,v)u>0,v>0,v+v<π2}S = \{ (u,v) \mid u > 0 , v > 0 , v+v < \frac{\pi}{2} \} とおく。

I=S11x2y2(1x2y2)dudv=Sdudv=12π2π2=π28\begin{aligned} I &= \iint_S \dfrac{1}{1-x^2 y^2} (1-x^2 y^2) dudv\\ &= \iint_S dudv\\ &= \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{\pi}{2} \cdot \dfrac{\pi}{2}\\ &= \dfrac{\pi^2}{8} \end{aligned} を得る。

証明の歴史と参考文献

もともと 11xy=n=0(xy)n\displaystyle \dfrac{1}{1-xy} = \sum_{n=0}^{\infty} (xy)^n と変形することで 0101dxdy1xy=ζ(2) \int_0^1 \int_0^1 \dfrac{dxdy}{1-xy} = \zeta (2) という式が得られることが知られていました。

この事実をより広く ζ(2n)\zeta (2n) の計算に応用したいと思うのが数学者の性というものでしょう。

その後,ζ(2n)\zeta (2n) の代わりに 1(2m+1)2n\displaystyle \sum \dfrac{1}{(2m+1)^{2n}} を考えるとシンプルに左辺の積分が計算されることが,Beukers・Calabi・Kolk の3人によって発表されます。

この証明は Aigner・Ziegler の Proof from THE BOOK(邦訳:天書の証明)で ζ(2)=π26\zeta (2) = \dfrac{\pi^2}{6} の証明の1つとして紹介されています。

  • F. Beukers, E. Calabi and J.A.C. Kolk,Sums of generalized harmonic series and volumes,1993.
  • M. Aigner, G.M. Ziegler,Proof from THE BOOK 6th edition,Springer-Verlag,2018.(邦訳 蟹江幸博訳,天書の証明 原著6版,丸善出版,2022.)

『天書の証明』にはその他様々な証明が記載されているため,是非読んでみてください。