ヤコビ行列,ヤコビアンの定義と極座標の例

微分係数の多変数関数バージョンであるヤコビ行列,およびヤコビアンについて解説します。具体例として,二次元・三次元極座標変換のヤコビアンを求めてみます。

ヤコビ行列,ヤコビアンの定義

状況設定

  • xundefined=(x1,x2,,xn)\overrightarrow{x}=(x_1,x_2,\cdots,x_n)^{\top} を決めると yundefined=(y1,y2,,ym)\overrightarrow{y}=(y_1,y_2,\cdots,y_m)^{\top} が定まる状況(nn 変数関数が mm 個あると考えてもよい,nn 変数の mm 次元ベクトル値関数と考えてもよい)
  • yiy_ixjx_j偏微分可能

ヤコビ行列の定義

yixj\dfrac{\partial y_i}{\partial x_j}ijij 成分とする m×nm\times n 行列 JJ をヤコビ行列と言います。

例えば m=n=2m=n=2 のとき,ヤコビ行列は J=(y1x1y1x2y2x1y2x2)J=\begin{pmatrix}\frac{\partial y_1}{\partial x_1}&\frac{\partial y_1}{\partial x_2}\\\frac{\partial y_2}{\partial x_1}&\frac{\partial y_2}{\partial x_2}\end{pmatrix} です。

ヤコビアンの定義

ヤコビ行列の行列式をヤコビ行列式,またはヤコビアンと言います。ヤコビアンは変換の「拡大率」を表す重要な量です。ヤコビアン(の絶対値)は重積分の変数変換公式に現れます。

表記について

ヤコビアンを (x1,,xn)(y1,,ym)\dfrac{\partial (x_1,\cdots , x_n)}{\partial (y_1,\cdots ,y_m)} と書くこともあります。

ヤコビ行列の意味

一変数の場合,微分係数は関数の一次近似(の接線の傾き)という意味がありました(一次近似の意味とよく使う近似公式一覧):

y(x)y(x0)+y(x0)(xx0)y(x)\fallingdotseq y(x_0)+y'(x_0)(x-x_0)

多変数の場合,接線の傾きに相当するのがヤコビ行列です:

yundefined(xundefined)yundefined(x0undefined)+J(x0undefined)(xundefinedx0undefined)\overrightarrow{y}(\overrightarrow{x})\fallingdotseq\overrightarrow{y}(\overrightarrow{x_0})+J(\overrightarrow{x_0})(\overrightarrow{x}-\overrightarrow{x_0})

以下では,ヤコビ行列の計算に慣れるために例を2つ解説します。

例1.二次元極座標

二次元極座標 (r,θ)(r,\theta) から直交座標 (x,y)(x,y) への変数変換を考えます。二変数関数2つ組なのでヤコビ行列のサイズは2×2です。

変換式は x=rcosθ,y=rsinθx=r\cos\theta,\:y=r\sin\theta です。変換式をそれぞれ偏微分するとヤコビ行列が求まります:

(xrxθyryθ)\begin{pmatrix}\frac{\partial x}{\partial r}&\frac{\partial x}{\partial \theta}\\\frac{\partial y}{\partial r}&\frac{\partial y}{\partial \theta}\end{pmatrix}

=(cosθrsinθsinθrcosθ)=\begin{pmatrix}\cos\theta&-r\sin\theta\\\sin\theta&r\cos\theta\end{pmatrix}

ヤコビアンは,cosθ(rcosθ)sinθ(rsinθ)\cos\theta(r\cos\theta)-\sin\theta(-r\sin\theta)=r=r

重積分の変数変換の文脈では dxdy=rdrdθdxdy=rdrd\theta と表記することもあります。

例2.三次元極座標

三次元極座標 (r,θ,ϕ)(r,\theta,\phi) から直交座標 (x,y,z)(x,y,z) への変数変換を考えます。三変数関数3つ組なのでヤコビ行列のサイズは3×3です。→三次元極座標についての基本的な知識

変換式は x=rsinθcosϕ,y=rsinθsinϕ,z=rcosθx=r\sin\theta\cos\phi,\:y=r\sin\theta\sin\phi,\:z=r\cos\theta です。変換式をそれぞれ偏微分するとヤコビ行列が求まります:

(xrxθxϕyryθyϕzrzθzϕ)\begin{pmatrix}\frac{\partial x}{\partial r}&\frac{\partial x}{\partial \theta}&\frac{\partial x}{\partial \phi}\\\frac{\partial y}{\partial r}&\frac{\partial y}{\partial \theta}&\frac{\partial y}{\partial \phi}\\\frac{\partial z}{\partial r}&\frac{\partial z}{\partial \theta}&\frac{\partial z}{\partial \phi}\end{pmatrix}

=(sinθcosϕrcosθcosϕrsinθsinϕsinθsinϕrcosθsinϕrsinθcosϕcosθrsinθ0)=\begin{pmatrix}\sin\theta\cos\phi&r\cos\theta\cos\phi&-r\sin\theta\sin\phi\\\sin\theta\sin\phi&r\cos\theta\sin\phi&r\sin\theta\cos\phi\\\cos\theta&-r\sin\theta&0\end{pmatrix}

ヤコビアンは(3×3の行列式を頑張って計算すると) r2sinθr^2\sin\theta となります。

重積分の変数変換の文脈では dxdydz=r2sinθdrdθdϕdxdydz=r^2\sin\theta drd\theta d\phi と表記することもあります。

三次元極座標のヤコビアンは一回は手計算しておきましょう。