一次近似の意味とよく使う近似公式一覧

一次近似

xax\fallingdotseq a のとき,

f(x)f(a)+f(a)(xa)f(x)\fallingdotseq f(a)+f'(a)(x-a)

一次近似の意味,よく使う近似式,例題を解説します。

\fallingdotseq は「だいたい等しい」ことを表します(厳密な等式ではありません)。

一次近似について

関数 f(x)f(x) は複雑で扱いにくいので, その一部を一次関数という単純な関数で近似しようという発想です。近似したい部分で関数の接線を引き,それを近似関数とします。 一次近似の考え方

そして,x=ax=a における接線の方程式は微分係数を使って

y=f(a)(xa)+f(a)y=f'(a)(x-a)+f(a)

と書けます。これを xax\fallingdotseq a における f(x)f(x) の近似式とみなします。つまり,

f(x)f(a)+f(a)(xa)f(x)\fallingdotseq f(a)+f'(a)(x-a)

と考えます。

一次近似の例

f(x)=1+xf(x)=\sqrt{1+x}x=0x=0 付近で近似する。 f(0)=12f'(0)=\dfrac{1}{2} なので,1+x1+12x\sqrt{1+x}\fallingdotseq 1+\dfrac{1}{2}x という近似式を得る。

近似式と不等式

もとの関数と接線の共有点は多くの場合,その接点のみです。つまり「接線 - もとの関数」が0以上(または0以下)という不等式を得ることができます。

さっきの例の続き

1+x\sqrt{1+x} とその近似式 1+12x1+\dfrac{1}{2}x の間には,1+x1+12x\sqrt{1+x}\leq 1+\dfrac{1}{2}x という不等式が成立する。これはさきほどの図より分かる(厳密には微分すれば示せる)。

近似式とマクローリン展開

一次関数(接線)で近似するのが一次近似です。より一般に,f(x)f(x)nn 次関数で近似するのが nn 次近似です。当然ですが nn が大きいほど精密な近似になります。(乱暴な言い方ですが)nn\to\infty とするとテイラー展開(マクローリン展開)になります。→マクローリン展開

よく使う一次近似の公式(不等式)一覧

高校物理で登場する近似式の多くが一次近似の形です。一方,高校数学では「近似」は直接は問題にしにくいので不等式の形で活躍することが多いです。

近似式,関連する不等式,不等式が成立する範囲の3点セットで紹介します。

x0x\fallingdotseq 0 のとき,

  • 1+x1+x2\sqrt{1+x}\fallingdotseq 1+\dfrac{x}{2}, 1+x1+x2\sqrt{1+x}\leq 1+\dfrac{x}{2}, x>1x > -1
    →ベルヌーイの不等式

  • sinxx\sin x\fallingdotseq x, sinxx\sin x\leq x, x0x\geq 0
    →マクローリン型不等式(三角関数)

  • cosx1\cos x\fallingdotseq 1, cosx1\cos x\leq 1, 任意の実数

  • tanxx\tan x\fallingdotseq x, tanxx\tan x\geq x, x0x\geq 0

  • ex1+xe^x\fallingdotseq 1+x, ex1+xe^x \geq 1+x, 任意の実数
    →マクローリン型不等式(指数関数)

  • log(1+x)x\log (1+x)\fallingdotseq x, log(1+x)x\log (1+x)\leq x, x>1x > -1

xex\fallingdotseq e のとき,

  • logxxe\log x\fallingdotseq \dfrac{x}{e}, logxxe\log x \leq \dfrac{x}{e}, x>0x > 0

例題(東大入試の問題)

一次近似の考え方を知らないと厳しい入試問題です。1999年東大理系第6問です。

問題

0πexsin2xdx>8\displaystyle\int_0^{\pi}e^x\sin^2xdx > 8 を示せ。ただし,π=3.14\pi=3.14\cdotse=2.71e=2.71\cdots である。

解答

半角の公式より,左辺は

120πex(1cos2x)dx=12[ex]0π120πexcos2xdx=12(eπ1)120πexcos2xdx\begin{aligned} &\dfrac{1}{2}\int_0^{\pi}e^x(1-\cos 2x)dx\\ &= \dfrac{1}{2} \Big[ e^x \Big]_0^{\pi}-\dfrac{1}{2}\int_0^{\pi}e^x\cos 2xdx\\ &= \dfrac{1}{2} (e^{\pi}-1) -\dfrac{1}{2} \int_0^{\pi} e^x\cos 2xdx \end{aligned}

ここで,第二項は部分積分を用いることで(→三角関数と指数関数の積の積分

1215[excos2x+2exsin2x]0π=110(eπ1) \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{1}{5} \Big[ e^x\cos 2x+2e^x\sin 2x \Big]_0^{\pi} = \dfrac{1}{10} (e^{\pi}-1)

となる。つまり問題の左辺の定積分は,25(eπ1)\dfrac{2}{5} (e^{\pi}-1)

よって,目標の不等式は 2(eπ1)>402(e^{\pi}-1) > 40eπ>21e^{\pi} > 21 と同値。

ここで,f(x)=exf(x)=e^xx=3x=3 で一次近似すると,

eπ>e3+e3(π3)e^{\pi} > e^3+e^3(\pi-3) となる(f(x)=exf(x)=e^xx=3x=3 における接線が f(x)f(x) より下側にあることはグラフを書けば分かる)。

e3+e3(π3)=e3(π2)>2.731.1>21.6e^3+e^3(\pi-3)=e^3(\pi-2) > 2.7^3\cdot 1.1 > 21.6 より目標の不等式は示された。

注: eπ=23.14e^{\pi}=23.14\cdots です。 2.73=19.6832.7^3=19.683 では不十分なのでそれなりに厳しい評価が必要になります。

他にもよく使う一次近似の公式があればご一報ください!

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