マクローリン展開にまつわる指数関数の不等式

(i) ex1e^x\geqq 1

(ii) ex1+xe^x\geqq 1+x

(iii) ex1+x+x22e^x\geqq 1+x+\dfrac{x^2}{2}

(iv) ex1+x+x22+x36e^x\geqq 1+x+\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^3}{6}

ただし,(i)と(iii)は,x0x\geqq 0 の範囲で成立する不等式で,(ii)と(iv)はすべての実数 xx に対して成立します。

上記の4つの不等式について,背景を紹介します。後半では,対数関数の場合の似たような不等式とその応用例も紹介します。

4つの不等式について

  • 下に行くほど複雑ですが,強い不等式です。

  • 「指数関数 exe^x が多項式よりも大きい」ことを表す不等式です。

  • 特に,(ii)は有名な重要公式なので,覚えておくとよいでしょう。

  • いずれも「指数関数のマクローリン展開」と関係がある不等式です。詳細は後述します。

マクローリン展開との関係

4つの不等式は「指数関数のマクローリン展開」と関係しています。

指数関数のマクローリン展開を考えると,

ex=k=0xkk!=1+x+x22+x36+e^x={\displaystyle \sum_{k=0}^{\infty}}\dfrac{x^k}{k!}\\ =1+x+\dfrac{x^2}{2}+\dfrac{x^3}{6}+\dots

という等式が成立します。

(詳細は,マクローリン展開に記載しています。)

4つの不等式の右辺は,マクローリン展開を途中で打ち切った形になっています。

実際,x>0x>0 のとき,マクローリン展開の各項は正なので,途中で打ち切ったほうが確かに小さくなることがわかります。

不等式の証明

4つの不等式は,(左辺)ー(右辺)を何回も微分することで証明できます。例として,(iii)を証明してみます。

(iii)の略証(同時に(i), (ii)の証明にもなっている)

f(x)=ex1xx22f(x)=e^x-1-x-\dfrac{x^2}{2} とおくと,

f(x)=ex1xf'(x)=e^x-1-x

f(x)=ex1f^{\prime\prime}(x)=e^x-1

f(x)f^{\prime\prime}(x) の関数形と f(0)=0f'(0)=0 から f(x)0f'(x)\geq 0 が分かる。

これと f(0)=0f(0)=0 より

f(x)0(x0)f(x)\geqq 0\qquad(x\geqq 0)

が分かる。

→高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~のT10も参照してください。

マクローリン型不等式を覚えて嬉しい事

微分法を用いて不等式を証明するときに,そのまま(左辺)ー(右辺)を何回も微分しても,導関数がどんどん複雑になってしまう場合が多いです。そのため何かしらの工夫をしなければならず,そこが不等式証明の難しいところです。

しかし,マクローリン展開を途中で打ち切ったタイプの不等式の場合は,愚直に(左辺)ー(右辺)を何回も微分していけば簡単な関数形になり,必ず証明は成功します。

マクローリン型の不等式を証明せよという問題を見たら,何も考えずにそのまま両辺の差をひたすら微分していけばよいのです。 マクローリン型不等式(三角関数)も全く同様に証明できます。比較してみてください。

対数関数の場合のマクローリン型不等式

x>0x>0xx22log(1+x)xx-\dfrac{x^2}{2}\leqq \log(1+x)\leqq x

これは対数関数 log(1+x)\log(1+x) のマクローリン展開を途中で打ち切った式です。同様に,両辺の差を微分することで証明できます。

この不等式が活躍する問題の例を紹介します。yama先生に教えていただきました。

応用例

limnk=1n(1+kn2)\displaystyle\lim_{n\to\infty}\prod_{k=1}^n\left(1+\dfrac{k}{n^2}\right) を求めよ。

解答

極限の中身の対数を取ると,

an=logk=1n(1+kn2)=k=1nlog(1+kn2)a_n=\displaystyle\log\prod_{k=1}^n\left(1+\dfrac{k}{n^2}\right)\\ =\displaystyle\sum_{k=1}^n\log\left(1+\dfrac{k}{n^2}\right)

よって,上の不等式より

k=1n(kn2k22n4)ank=1nkn2\displaystyle\sum_{k=1}^n\left(\dfrac{k}{n^2}-\dfrac{k^2}{2n^4}\right)\leqq a_n\leqq \sum_{k=1}^n\dfrac{k}{n^2}

最左辺と最右辺はべき乗の和の公式より 12\dfrac{1}{2} に収束する。よって,答えは e12e^{\frac{1}{2}}

マクローリン型不等式の使い道は他にもあるので,ぜひ覚えてください!(例.→指数関数の極限と爆発性の記事末)

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