指数関数の極限と爆発性

xx\to\infty の極限において,無限に大きくなるスピードは,

xx の対数関数 \ll xx の多項式 \ll xx の指数関数

\dfrac{\infty}{\infty} の不定形極限の重要な話題です。

なお,多項式というと指数が非負整数に限られますが,この記事に限っては x0.1x^{0.1} など指数が任意の非負実数のものを一般に多項式と呼ぶことにします。

指数関数と多項式の極限の勝負

「多項式 \ll 指数関数」を実際に極限の式で書き下してみます。

r0,a>1r\geqq 0,\: a > 1 のとき以下が成立する:

limxaxxr=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{a^x}{x^r}=\inftylimxxrax=0\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{x^r}{a^x}=0

上記の極限の式を丸ごと覚えるのではなく,「指数関数は無限大で多項式よりはるかに強い」と覚えておきましょう。

「どんな多項式よりも発散のスピードが速い」ということから,指数関数の発散を「爆発」と表現することがあります。

例1

limx2xx10000=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{2^x}{x^{10000}}=\infty

一見信じがたいですが,無限大では x10000x^{10000} よりも 2x2^x の方が強いです。

例2

limxex3x2+x+1=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{e^x}{3x^2+x+1}=\infty

例2のように aa がネイピア数 ee であるような場合が超頻出です。また,(当然ですが)多項式の項は複数あっても構いません(指数関数に勝てません)。

例3

limnn1.1n=0\displaystyle\lim_{n\to\infty}\dfrac{n}{1.1^n}=0

関数の極限を数列の極限にしても同様の公式が成立します。

対数関数と多項式の極限の勝負

r>0r > 0 のとき以下が成立する:

limxxrlogx=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{x^r}{\log x}=\inftylimxlogxxr=0\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{\log x}{x^r}=0

こちらも極限の式を丸ごと覚えるのではなく,「多項式は無限大で対数関数よりはるかに強い」と覚えておきましょう。

例4

limxxlogx=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{\sqrt{x}}{\log x}=\infty

r=12r=\dfrac{1}{2} としたものです。

指数関数の方の公式を認めてしまえば,対数関数の方の公式は簡単に導けます。実際,limy(er)yy=\displaystyle\lim_{y\to\infty}\dfrac{(e^r)^y}{y}=\infty において ey=xe^y=x とおけば limxxrlogx=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{x^r}{\log x}=\infty となり,対数関数の公式が導けます。逆も然りです。よって,指数関数バージョンの公式と対数関数バージョンの公式は本質的に同じものです。以下では指数関数バージョンを証明します。

指数関数の爆発性の証明

a>1a > 1r>0r > 0 に対して limxaxxr=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{a^x}{x^r}=\infty を証明します。以下では rr は整数とします。

二項定理を使って指数関数を展開します。二項定理を使うために xx を整数に限る必要があるためガウス記号を導入します。

証明

xx を超えない最大の整数を [x]\lbrack x \rbrack とおく。→ガウス記号の定義と3つの性質

すると,axa[x]a^x \geqq a^{\lbrack x \rbrack} なので,はさみうちの原理(追い出しの原理)より

limxa[x]xr=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{a^{\lbrack x \rbrack}}{x^r}=\infty を証明すればよい。

また,xx が十分大きいところでの挙動を考えているので,xr+1x\geqq r+1 としてよい。このとき,二項定理を用いると,

a[x]={1+(a1)}[x]=1+[x](a1)++([x][r]+1次式)(a1)[r]+1+a^{\lbrack x \rbrack} \\=\{1+(a-1)\}^{\lbrack x \rbrack} \\=1+[x](a-1)+\cdots+ ([x] の[r]+1次式) (a-1)^{[r]+1}+\cdots

この展開を [r]+1[r]+1 次の項で打ち切ったもの P(x)P(x)[x][x][r]+1[r]+1 次式であり,[r]+1[r]+1 次の係数は正である。

よって,a[x]xr>P(x)xr\dfrac{a^{\lbrack x \rbrack}}{x^r} > \dfrac{P(x)}{x^r} となり右辺は xx\to\infty で無限大に発散するので目標の式が示された。

注:なお,マクローリン型不等式:

ex>1+x+x22!++xnn!e^x > 1+x+\dfrac{x^2}{2!}+\cdots +\dfrac{x^n}{n!} を知っていれば

limxexxr=\displaystyle\lim_{x\to\infty}\dfrac{e^x}{x^r}=\infty はすぐに分かります。 →マクローリン型不等式(指数関数)

注2:ロピタルの定理を認めてしまえば,ロピタルの定理を繰り返し使うことでも証明できます。 →ロピタルの定理の条件と例題

注3: ex>xe^x>x という不等式に x=yr+1x=\dfrac{y}{r+1} を代入すると,eyr+1>yr+1e^{\frac{y}{r+1}}>\dfrac{y}{r+1} となります。これを変形すると,eyyr>y(r+1)r+1\dfrac{e^y}{y^r}>\dfrac{y}{(r+1)^{r+1}} となります。この式からも limyeyyr=\displaystyle\lim_{y\to\infty}\dfrac{e^y}{y^r}=\infty がわかります(読者の方に教えていただいた方法です)。

「爆発的に発散する」と言えば組み合わせ爆発ですね(「数え上げおねえさん」で検索してみてください)。