行列式の3つの定義・性質・意味

行列式とは,正方行列に対して決まる重要な量(スカラー)である。行列 AA の行列式を detA\det AA|A| と表す。例えば

A=(a11a12a21a22)A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} \\ a_{21} & a_{22} \end{pmatrix}

の行列式は,a11a22a12a21a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21} のように定義される。

行列式の定義

この記事では,行列式の定義と性質について解説します。

置換による行列式の定義

まずは,行列式の定義をきちんと解説します。定義自体は抽象的で分かりにくいと思いますが,定義の後に 2×22\times 2 行列,3×33\times 3 行列の例を挙げるので,それを見ながら理解してください。

以下,AAn×nn\times n 行列で,AAijij 成分を aija_{ij} と書きます。

行列式は以下の式で定義されます:

行列式1

detA=σSnsgn(σ)i=1naiσ(i)\det A=\displaystyle\sum_{\sigma\in S_n}\mathrm{sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^na_{i\sigma(i)}

=σSnsgn(σ)a1σ(1)a2σ(2)anσ(n)=\displaystyle\sum_{\sigma\in S_n}\mathrm{sgn}(\sigma)a_{1\sigma(1)}a_{2\sigma(2)}\cdots a_{n\sigma(n)}

  • σ\sigma11 から nn の置換(順列)を表します。 σSn\displaystyle\sum_{\sigma\in S_n} というのは,「nn 次の全ての置換に関して和を取る」ことを表しています。
  • sgn(σ)\mathrm{sgn}(\sigma) は置換の符号を表しています。奇置換なら1-1,偶置換なら+1+1 です。置換については→置換の基礎(互換・偶置換・奇置換・符号の意味)を参照して下さい。

サイズ2,サイズ3の場合の行列式の公式

置換による行列式の定義は分かりにくいので,小さいサイズの行列を例に確認してみます。

サイズ2の例

A=(a11a12a21a22)A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} \\ a_{21} & a_{22} \end{pmatrix} の行列式は,a11a22a12a21a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21} である。

[1,2][1,2] の置換(並べ替え)は [1,2][1,2][2,1][2,1] の二つなのでそれに従って行列式には二つの項が出てきます。 [1,2][1,2] は偶置換なので符号はプラス,[2,1][2,1] は奇置換なので符号はマイナスです。

置換の表記について

1122 を交換する置換のことを (1,2)(1,2) と表記することも多いです。この記事ではそのような(互換や巡回置換の)表記は使わず,[1,2][1,2] をどのように並べ替えるかを表記することで置換を表しています。

サイズ3の例

A=(a11a12a13a21a22a23a31a32a33)A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} &a_{13}\\ a_{21} & a_{22} &a_{23}\\ a_{31} & a_{32} &a_{33}\\ \end{pmatrix} の行列式は,

a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32a11a23a32a12a21a33a13a22a31a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}\\ -a_{11}a_{23}a_{32}-a_{12}a_{21}a_{33}-a_{13}a_{22}a_{31}

である。

[1,2,3][1,2,3] の置換(並べ替え)は6つなのでそれに従って行列式には6つの項が出てきます。例えば三項目は [3,1,2][3,1,2] という置換に対応しています。置換の符号によってそれぞれの項がマイナスかプラスかが決まります。

同様に 44 次の行列の行列式には項数が 4!=244!=24 個出てくるのでもはや書き下すのは厳しいです。nn 次の行列式には n!n! 個の項が登場します。

行列式の性質

上記のように行列式を定義すると,以下の3つの性質が成立します。

行列式2

性質1:単位行列 II に関して detI=1\det I=1

性質2(交代性): ii 列と jj 列を交換すると行列式は 1-1 倍される

性質3(多重線形性):一つの列以外固定して一つの列の関数と見たときに線形性が成立する。

逆に上記の3つの性質を満たす関数は行列式のみです。つまり行列式とは上記の3つの性質を満たすものと定義することもできます。

これが行列式の二つ目の定義です。こちらを定義とみなせば,さきほどの定義1は行列式の性質として導かれます。

行列式の意味(平行六面体の体積)

行列式の非常に美しい性質(図形的な意味)です。

行列 AA を縦ベクトルを nn 本並べたものと見ます:

A=(a1undefined,a2undefined,,anundefined)A=(\overrightarrow{a_1},\:\overrightarrow{a_2},\cdots, \overrightarrow{a_n}) すると,

aiundefined\overrightarrow{a_i} たちが張る平行六面体の体積は行列式(の絶対値)と一致します。

n=2n=2 の場合,二本のベクトルが張る平行四辺形の面積の半分が三角形の面積。

n=3n=3 の場合,三本のベクトルが張る平行六面体の体積の 16\dfrac{1}{6} 倍が四面体の体積です。 →サラスの公式

n4n\geq 4 の場合,そもそも nn 次元空間中の立体の体積ってなんだ?って話になってしまいますが詳細は割愛します。

なお,この性質を使って行列式を定義することもできます。すなわち,列ベクトルたちが張る平行六面体の(符号付き)体積が行列式であると定義します。これが行列式の3つ目の定義(「行列式3」とする)です。

3つの定義

「行列式1(置換)」「行列式2(3つの性質)」「行列式3(体積)」の定義はいずれも同値です。

  • 1を認めれば2は簡単に確かめられます。
  • 2を認めたときに1を導くのはけっこう大変ですが計算でできます。
  • 符号付き体積が3つの性質を満たすことも確認できるので2と3は同値です。

よってどれを定義と思ってもOKです。一つの定義に固執することなく行列式は行列に関する重要な量でいろいろな見方があると覚えておきましょう。

私は置換による定義が好きです。

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