ヴァンデルモンド行列式の証明と応用例

ヴァンデルモンド行列の意味と,その行列式の計算・応用例を紹介します。

ヴァンデルモンド行列とは

ヴァンデルモンド行列の定義

i=1,,ni=1,\cdots, n について,ii 列目が 1,xi,xi2,,xin11,x_i,x_i^2,\cdots,x_i^{n-1} である n×nn\times n 行列:

Vn=(1111x1x2x3xnx12x22x32xn2x1n1x2n1x3n1xnn1)V_n=\begin{pmatrix}1&1&1&\cdots&1\\x_1&x_2&x_3&\cdots&x_n\\x_1^2&x_2^2&x_3^2&\cdots&x_n^2\\ \vdots&\vdots&\vdots&\ddots&\vdots\\x_1^{n-1}&x_2^{n-1}&x_3^{n-1}&\cdots&x_{n}^{n-1}\end{pmatrix}

ヴァンデルモンド行列と呼ぶ。

ヴァンデルモンド行列の行列式はおもしろいです。

n=2 の場合の例

V2=(11x1x2)V_2=\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ x_1 & x_2 \end{pmatrix}

行列式は detV2=x2x1\det V_2=x_2-x_1

なお,行列式については→行列式の3つの定義と意味

n=3 の場合の例

V3=(111x1x2x3x12x22x32)V_3=\begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 \\ x_1 & x_2 & x_3\\ x_1^2 & x_2^2 & x_3^2 \end{pmatrix}

行列式はサラスの公式を用いて求めると,

detV3=(x2x1)(x3x1)(x3x2)\det V_3=(x_2-x_1)(x_3-x_1)(x_3-x_2)

よって,大きさ nn のヴァンデルモンド行列の行列式は

detVn=1i<jn(xjxi)\det V_n=\displaystyle\prod_{1\leq i <j\leq n}(x_j-x_i)

と予想できます(この式の右辺は差積と呼ばれる量です→差積の意味と性質)。次にこの公式を証明してみます。

ヴァンデルモンド行列式の証明

定理1

ヴァンデルモンド行列 VnV_n の行列式について,

detVn=1i<jn(xjxi)\det V_n=\displaystyle\prod_{1\leq i <j\leq n}(x_j-x_i)

因数定理を用いたおもしろい証明を紹介します。

証明1

ヴァンデルモンド行列の行列式 detVn\det V_n は変数 x1,x2,,xnx_1, x_2,\cdots, x_n に関する多項式である。行列式の性質「22 つの列が同じなら行列式は 00」より x1=x2x_1=x_2 のときは行列式が 00 となるので因数定理より detVn\det V_nx2x1x_2-x_1 を因数に持つ。

同様に考えると,detVn\det V_n は,ある多項式 f(x)f(x) を用いて

detVn=f(x)1i<jn(xjxi)\det V_n=f(x)\displaystyle\prod_{1\leq i <j\leq n}(x_j-x_i)

と書けることがわかる。

あとは f(x)=1f(x)=1 を示せばよい。

行列式の定義 detAn=σSnsgn(σ)i=1naiσ(i)\det A_n=\displaystyle\sum_{\sigma\in S_n}\mathrm{sgn}(\sigma)\prod_{i=1}^na_{i\sigma(i)}

より detVn\det V_nx1,x2,,xnx_1, x_2,\cdots, x_n に関して 12n(n1)\dfrac{1}{2}n(n-1) 次式である。よって f(x)f(x) は定数:

detVn=C1i<jn(xjxi)\det V_n=C\displaystyle\prod_{1\leq i <j\leq n}(x_j-x_i)

あとは x2x32x43xnn1x_2x_3^2x_4^3\cdots x_{n}^{n-1} (対角線上の数を掛けあわせたもの,σ\sigma が恒等置換に対応)の係数を比較すれば C=1C=1 となる。

帰納法とラプラス展開を用いて証明することもできます。

証明2

n=1n=1 のとき,detV1=1\det V_1=1 となり成立。

n=k1n=k-1 のときを仮定して n=kn=k でも成り立つことを示す。一般の場合に書くと複雑なので k=4k=4 の場合を書く。

det(1111x1x2x3x4x12x22x32x42x13x23x33x43)\det\begin{pmatrix}1&1&1&1\\x_1&x_2&x_3&x_4\\x_1^2&x_2^2&x_3^2&x_4^2\\x_1^3&x_2^3&x_3^3&x_4^3\end{pmatrix}

について,2~4列目から1列目を引くことにより

det(1000x1x2x1x3x1x4x1x12x22x12x32x12x42x12x13x23x13x33x13x43x13)\det\begin{pmatrix}1&0&0&0\\x_1&x_2-x_1&x_3-x_1&x_4-x_1\\x_1^2&x_2^2-x_1^2&x_3^2-x_1^2&x_4^2-x_1^2\\x_1^3&x_2^3-x_1^3&x_3^3-x_1^3&x_4^3-x_1^3\end{pmatrix}

と等しい。ラプラス展開すると,右下 3×33\times 3 部分が残って

det(x2x1x3x1x4x1x22x12x32x12x42x12x23x13x33x13x43x13)\det\begin{pmatrix}x_2-x_1&x_3-x_1&x_4-x_1\\x_2^2-x_1^2&x_3^2-x_1^2&x_4^2-x_1^2\\x_2^3-x_1^3&x_3^3-x_1^3&x_4^3-x_1^3\end{pmatrix}

と等しい。3行目から2行目の x1x_1 倍を引いて,そのあとで2行目から1行目の x1x_1 倍を引くと,

det(x2x1x3x1x4x1x22x1x2x32x1x3x42x12x4x23x1x22x33x1x32x43x1x42)\det\begin{pmatrix}x_2-x_1&x_3-x_1&x_4-x_1\\x_2^2-x_1x_2&x_3^2-x_1x_3&x_4^2-x_1^2x_4\\x_2^3-x_1x_2^2&x_3^3-x_1x_3^2&x_4^3-x_1x_4^2\end{pmatrix}

と等しい。ii 行目の各要素は xi+1x1x_{i+1}-x_1 を因数に持つので,上式は (x2x1)(x3x1)(x4x1)×(x_2-x_1)(x_3-x_1)(x_4-x_1)\times
det(111x2x3x4x22x32x42)\det\begin{pmatrix}1&1&1\\x_2&x_3&x_4\\x_2^2&x_3^2&x_4^2\end{pmatrix}

となりサイズが1つ小さいヴァンデルモンド行列式に帰着できた。

ヴァンデルモンド行列の応用

ヴァンデルモンド行列は数学的におもしろいだけでなくラグランジュ補間の礎となっている定理の証明にも役立ちます:

定理

nn(xi,yi):(i=1,2,n(x_i,y_i):(i=1,2,\cdots nxix_i は互いに異なる)を通る n1n-1 次以下の関数はただ1つ。

証明

n1n-1 次以下の関数は y=a0+a1x+an2xn2+an1xn1y=a_0+a_1x\cdots+a_{n-2}x^{n-2}+a_{n-1}x^{n-1} と置ける。

与えられた nn 点を通るとき,それぞれの値を代入して,nn 本の式を得る:

yi=a0+a1xi+an2xin2+an1xin1y_i=a_0+a_1x_i\cdots+a_{n-2}x_i^{n-2}+a_{n-1}x_i^{n-1}

この nn 本をまとめてかくと,

yundefined=Vnaundefined\overrightarrow{y}=V_n^{\top}\overrightarrow{a}

ただし,yundefined,aundefined\overrightarrow{y},\overrightarrow{a}yi,aiy_i, a_i を縦に並べたベクトルで,VnV_n^{\top} はヴァンデルモンド行列の転置。

よって detVn0\det V_n^{\top}\neq 0 なら逆行列が存在して係数 aundefined\overrightarrow{a} が一意に存在する。

実際 xix_i たちは異なるので,ヴァンデルモンド行列式の定理より detVn0\det V_n\neq 0 であり,転置行列の行列式はもとのと等しい(detVn=detVn\det V_n=\det V_n^{\top} )ので detVn0\det V_n^{\top}\neq 0

行列式に関する様々な性質を理解していないと読みきれない記事ですが,とてもおもしろいです!