行列が正則であることの意味と5つの条件
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正方行列 について,(単位行列)となる行列 が存在するとき, を正則行列と言う。
正則行列(正則な行列,可逆な行列,非特異行列)について,わかりやすくまとめました。
例
例
について考える。
とすると, となる。よって, は正則行列。
について考える。 をどのようにとっても の左上成分は になり,単位行列にはならない。よって, は正則でない。
正則行列の判定法
正則行列の判定法
が正則
つまり, の行列式 を計算することで正則かどうかわかります。行列式については,→行列式の3つの定義・性質・意味
は正則か?
の行列式を計算すると,
となり, なので は正則
特に,2×2や3×3などサイズが小さい場合は行列式が簡単に計算できます。
正則行列と逆行列
正則行列と逆行列
正則行列の定義: における を の逆行列と言います。
正方行列 に対して,
を満たす が存在するとき, を の逆行列と呼ぶ。
つまり,正則行列は逆行列が存在する行列とも言えます。詳しくは,逆行列の定義・逆行列を求める2通りの方法と例題でも解説しています。
正則行列を考える意味
高校数学では,以下のようなことがありませんでしたか?
- 数 で割り算をしたい。
- なら割り算できる。つまり, なら逆数 が存在して逆数をかけることで割り算できる。
- つまり, か否かで状況が変わる。 なら割り算できて嬉しい!
行列でも同じような状況です。
- 行列 で「割り算」をしたい。
- に「逆行列」が存在すれば,それをかけることで「割り算」ができる。
- つまり, に逆行列が存在するか否か(正則か否か)で状況が変わる。正則なら「割り算」できて嬉しい!
同値な条件
同値な条件
の正方行列 に対して以下の5つの条件は同値である:
- (単位行列)となる行列 が存在する(正則行列の定義)
- 全ての の固有値が でない
以下では1から5の同値性を証明していきます。
まずは1と2の同値性を証明します。
積の行列式は行列式の積と等しいので となるとき,
よって
のとき,
(ただし は の余因子行列,つまり 成分が「 から 行目と 列目を除いた行列の行列式に をかけたもの」である行列)
とおくと, となることが確認できる(→補足)。
補足:余因子展開(ラプラス展開)で確認できます。詳しくは →余因子と余因子行列
次に2と3の同値性です。前提知識:ランク標準形
行列式が でない行列 をうまく取ってくると
という形にできる(ランク標準形)。 の部分の行数(列数)がランクである。→行列のランクの意味(8通りの同値な定義)
また,積の行列式は行列式の積と等しいので
となる。よって, であることと のランクが であること(右辺の行列が単位行列になる)は同値。
次に3と4の同値性です。前提知識:次元定理
最後に2と5の同値性を証明することで5を仲間に入れます。
の証明です。
の固有値を とすると,
である(→補足)。
(行列式は固有値の積)
よって と,全ての の固有値が でないことは同値。
補足:固有値は 次方程式 の解です。→固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法
の 次の項が ,定数項が であることと解と係数の関係から分かります。
数学における「正則」という言葉にはいろいろな意味があります。(正則行列,正則関数,正則グラフなど)