行列が正則であることの意味と5つの条件

更新日時 2022/02/16

正則行列の意味をわかりやすく説明します。まずは定義を一気に書きます。

正則行列の定義

n×nn\times n の正方行列 AA に対して以下の5つの条件は同値である:

  1. AB=BA=IAB=BA=I(単位行列)となる行列 BB が存在する
  2. detA0\det A\neq 0
  3. rankA=n\mathrm{rank}\:A=n
  4. KerA={0undefined}\mathrm{Ker}\:A=\{\overrightarrow{0}\}
  5. 全ての AA の固有値が 00 でない

この条件を満たす行列を正則行列(正則な行列,可逆な行列,非特異行列)と呼ぶ。

目次
  • 正則行列の例と判定法

  • 正則行列と逆行列

  • 5つの条件が同値であることの証明

正則行列の例と判定法

例題

A=(1213)A=\begin{pmatrix}1&2\\1&3\end{pmatrix} は正則か?

解答

AA の行列式を計算すると,

1×32×1=11\times 3-2\times 1=1

となり,detA0\det A\neq 0 なので正則行列の定義2より AA は正則

このように,行列が正則かどうかを判定するには,行列式かrankを計算するのがよいです。つまり,正則行列の定義の2か3を確認するのがよいです。特に,2×2や3×3などサイズが小さい場合は行列式が簡単に計算できます。

正則行列と逆行列

正則行列の定義の1における,BBAA の逆行列と言います。

逆行列の定義

正方行列 AA に対して,

AB=BA=IAB=BA=I を満たす BB が存在するとき,BBAA の逆行列と呼ぶ。

つまり,正則行列は逆行列が存在する行列と言えます。詳しくは,逆行列の定義・逆行列を求める2通りの方法と例題でも解説しています。

正則行列を考える意味

高校数学では,以下のようなことがありませんでしたか?

  • aa で割り算をしたい。
  • a0a\neq 0 なら割り算できる。つまり,a0a\neq 0 なら逆数 1a\dfrac{1}{a} が存在して逆数をかけることで割り算できる。
  • つまり,a=0a=0 か否かで状況が変わる。a0a\neq 0 なら割り算できて嬉しい!

行列でも同じような状況です。

  • 行列 AA で「割り算」をしたい。
  • AA に「逆行列」が存在すれば,それをかけることで「割り算」ができる。
  • つまり,AA に逆行列が存在するか否か(正則か否か)で状況が変わる。正則なら「割り算」できて嬉しい!

5つの条件が同値であることの証明

正則行列の定義(再掲)
  1. AB=BA=IAB=BA=I(単位行列)となる行列 BB が存在する
  2. detA0\det A\neq 0
  3. rankA=n\mathrm{rank}\:A=n
  4. KerA={0undefined}\mathrm{Ker}\:A=\{\overrightarrow{0}\}
  5. 全ての AA の固有値が 00 でない

以下では1から5の同値性を証明していきます。2ならば1の証明については概要のみ示します。

まずは1と2の同値性を証明します。

1ならば2の証明

積の行列式は行列式の積と等しいので AB=IAB=I となるとき,

detAdetB=detI=1\det A\det B=\det I=1

よって detA0\det A\neq 0

2ならば1の証明

detA0\det A\neq 0 のとき,B=A~detAB=\dfrac{\tilde A}{\det A}

(ただし A~\tilde AAA の余因子行列,つまり ijij 成分が「AA から jj 行目と ii 列目を除いた行列の行列式に (1)i+j(-1)^{i+j} をかけたもの」である行列)

とおくと,AB=BA=IAB=BA=I となることが確認できる(→補足)。

補足:ラプラス展開を使うことで確認できます。詳しくは線形代数の教科書を参照してください。

次に2と3の同値性です。前提知識:ランク標準形

証明

行列式が 00 でない行列 S,TS,T をうまく取ってくると

SAT=(IOOO)SAT=\begin{pmatrix}I&O\\O&O\end{pmatrix}

という形にできる(ランク標準形)。 II の部分の行数(列数)がランクである。→行列のランクの意味(8通りの同値な定義)

また,積の行列式は行列式の積と等しいので

detSdetAdetT=det(IOOO)\det S\det A\det T=\det \begin{pmatrix}I&O\\O&O\end{pmatrix}

となる。よって,detA0\det A\neq 0 であることと AA のランクが nn であること(右辺の行列が単位行列になる)は同値。

次に3と4の同値性です。前提知識:次元定理

証明

3    43 \iff 4の証明です。 次元定理より,rankA=ndim(KerA)\mathrm{rank}\:A=n-\mathrm{dim}(\mathrm{Ker} A)

よって,rankA=n\mathrm{rank}\: A=n であることと KerA\mathrm{Ker}\:A の次元が 00 であることは同値。

最後に2と5の同値性を証明することで5を仲間に入れます。

証明

2    52 \iff 5の証明です。

AA の固有値を λ1,,λn\lambda_1,\cdots,\lambda_n とすると,

detA=λ1λn\det A=\lambda_1\cdots \lambda_n である(→補足)。

(行列式は固有値の積)

よって detA0\det A\neq 0 と,全ての AA の固有値が 00 でないことは同値。

補足:固有値は nn 次方程式 det(AλI)=0\det (A-\lambda I)=0 の解です。→固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法

det(AλI)\det (A-\lambda I)nn 次の項が (1)nλn(-1)^n\lambda^n,定数項が detA\det A であることと解と係数の関係から分かります。

数学における「正則」という言葉にはいろいろな意味があります。(正則行列,正則関数,正則グラフなど)