以下,A の余因子行列を A~ と書きます。
定理1
A が正則なら,
AdetAA~=I
つまり,A の逆行列は,余因子行列 A~ を定数倍(detA1 倍)
したもの)
著しい性質です。余因子行列を計算することで,逆行列が計算できます!
余因子の定義で「なぜ (−1)i+j をつけるの?」と思ったり,余因子行列の定義で「なぜ転置するの?」と思った人もいるでしょうが,これらのおかげで定理1が成り立ちます!
以下,定理1の証明が目標です。そのために「余因子展開」を紹介します。
余因子展開
A を n×n 行列とします。
定理2(余因子展開)
任意の i に対して,
j=1∑naijΔij=detA
- AA~ の ii 成分が detA であることを表しています。つまり,定理1の対角成分に対応します。
- 行列式を分解しています。この式を余因子展開と言います。
例
一般の場合の定理2の証明は少し込み入っているので,n=3,i=2 の場合の例を見てみる。つまり,
a21Δ21+a22Δ22+a23Δ23=detA
を確認する。
detA=a11a22a33+a12a23a31+a13a21a32−a11a23a32−a12a21a33−a13a22a31
であるが,a21,a22,a23 のどれが登場するかで3グループにわけると,
- まず,a21 が登場する部分は a21(a13a32−a12a33) となる。これを変形すると a21×(−1)2+1(a12a33−a13a32)=a21Δ21 となる。
- 同様に a22 が登場する部分は a22Δ22 になる。
- 同様に a23 が登場する部分は a23Δ23 になる。
定理2の証明の概要
行列式の置換による定義
detA=σ∈Sn∑sgn(σ)k=1∏nakσ(k)
を思い出そう。この右辺の和の中で σ(i)=j の値で n グループに分けて足し上げると,
detA=j=1∑naijσ(i)=j∑sgn(σ)k=i∏akσ(k)
実は,上式のシグマ以降は余因子と一致する:
σ(i)=j∑sgn(σ)k=i∏akσ(k)=Δij
(A の i 行目と j 列目を除いた行列の行列式を考えると,符号× k=i∏akσ(k) が出てくる。符号部分が難しいが,少し考えると sgn(σ)×(−1)i+j−2 と一致することがわかる)
定理2から定理1を証明
定理1における対角成分は定理2そのもの。
あとは,非対角の ij 成分 i=j を示す。示したい式は,
k=1∑naikΔjk=0
である。実は,これは定理2からわかる。
「A の j 行目を i 行目で置き換えた行列」を B とする。B に定理2を適用すると,
k=1∑nbjkΔjk=detB
となるが,bjk=aik であることと,(2つの行が同じ行列の行列式は 0 より)detB=0 であることから 緑色の式がわかる。