行列の積の定義とその理由
行列の(一般的な)積:
行列 に対してその積 を
ただし,
で定義する。ただし, の列数と の行数( とおく)が一致しているときのみ積 は定義される。
行列積計算の具体例,なぜこのように積が定義されるのか。
計算の具体例
行列積の定義の理由
線形写像
結論
計算の具体例
・2×2行列同士の積が特に重要です。
, のとき,
・ , のとき
となり, です。 行列積は交換法則を満たしません。
行列積の定義の理由
行列の足し算,引き算は成分同士の和,差でOKなのに,行列のかけ算はなぜこのようなめんどくさい定義になっているのでしょうか。(成分同士の積を定義とした方が計算が楽で,しかも交換法則を満たすのに!)
その答えは 「以下のとても嬉しい性質を満たすから」です。
行列積 を上記のように定義すると,
( の列数と等しいサイズの)任意の縦ベクトル に対して
が満たされる。
なぜこの性質が嬉しいのかは後述します。
とおく。
右辺を計算していくと,
となり左辺と一致した!
線形写像
なぜ上記の性質が嬉しいのか?
それは,「行列=線形写像(の表現)」という見方をすると,上記の性質は 線形写像の合成が行列の積に対応することを表しているからです。
線形写像と言うと難しそうですが,大雑把には 原点を通る一次関数 の多変数バージョンです。「原点を通る一次関数の多変数バージョン」と言うといろいろなところに登場しそうですよね!
つまり,上記の性質のおかげで「原点を通る一次関数の多変数バージョン」の合成を簡潔に記述することができるのです(もっと詳しい&厳密なことは線形代数で習って下さい)。
結論
・行列を扱うときには「単なる数字の羅列」ではなく「線形写像の表現」とみなすことが多い。そのときに(行列積と関数の合成が対応するという)便利な性質を満たすように行列積は定義されている。
・成分ごとの積による行列積も考えることもある(アダマール積と呼ばれる)が,役に立つことは少ない。
線形代数は大学に入って真っ先に好きになった分野です。