半正定値行列の同値な4つの定義(性質)と証明

更新日時 2021/03/07

半正定値対称行列という重要な行列について解説します。4つの同値な定義(性質)とその証明をします。証明には線形代数の重要なテクニックがいくつも登場します。

半正定値行列

半正定値行列の定義

n×nn\times n の実対称行列 AA に対して以下の4つの条件は同値である。このうちの1つ(従って全て)を満たす行列を半正定値対称行列(または半正定値行列)と言い,A0A\succeq 0 などと書く。

1.全ての nn 次元実ベクトル xundefined\overrightarrow{x} に対して二次形式 xundefinedAxundefined\overrightarrow{x}^{\top}A\overrightarrow{x} が非負

2.AA の固有値が全て非負

3.ある実正方行列 UU が存在して A=UUA=U^{\top}U と表せる

4.AA の主小行列式(※)が全て非負

主小行列とは,正方行列に対して「同じ番号の行と列を選んでできる正方行列」のことです。主小行列の行列式を主小行列式と言います。

正定値対称行列

「半正定値行列」と似た「正定値行列」もあります。1または2を少し強くした以下の(同値な)条件を満たす対称行列のことを正定値行列と言います。

1.0undefined\overrightarrow{0} 以外の全ての nn 次元実ベクトル xundefined\overrightarrow{x} に対して二次形式 xundefinedAxundefined\overrightarrow{x}^{\top}A\overrightarrow{x}

2.AA の固有値が全て

半正定値行列の具体例

例題

A=(4221)A=\begin{pmatrix}4&2\\2&1\end{pmatrix} が半正定値対称行列であることを確認せよ。

解答

性質1〜4のどれを確認してもよい。ここでは勉強のために四通りの解法を示す。

性質1:二次形式 4x2+4xy+y204x^2+4xy+y^2\geq 0 を示せばよいが,左辺は (2x+y)2(2x+y)^2 となりOK

性質2:固有方程式は λ25λ=0\lambda^2-5\lambda=0 ,固有値は 0,50,5 となり非負

性質3: U=(2100)U=\begin{pmatrix}2&1\\0&0\end{pmatrix} とすれば A=UUA=U^{\top}U となる。

性質4:主小行列式は 4,1,04,1,0 となり非負。

応用例

など,半正定値対称行列はいろいろなところに登場します。

性質

定理

半正定値行列を合同変換しても半正定値。

つまり,n×nn\times n 実対称行列 AA が半正定値なら,任意の n×nn\times n 実行列に対して SASS^{\top}AS も半正定値。

証明

3通りの方法で証明できる。

  • (性質1:)xundefinedSASxundefined=(Sxundefined)A(Sxundefined)0\overrightarrow{x}^{\top}S^{\top}AS\overrightarrow{x}=(S\overrightarrow{x})^{\top}A(S\overrightarrow{x})\geq 0

  • (性質2:)合同変換で固有値の符号は不変。→シルベスターの慣性法則の意味と証明

  • (性質3:)A=UUA=U^{\top}U なら SAS=(US)A(US)S^{\top}AS=(US)^{\top}A(US)

証明

性質1(二次形式)と性質2(固有値)の同値性

ここから4つの性質が同値であることを証明していきます。

まずは二次形式と固有値について。

証明

AA は対称行列なので,直交行列 PP と実対角行列 DD を用いて A=PDPA=P^{\top}DP と対角化できる。 DD の対角成分には AA の固有値 λi\lambda_i が並ぶ。

よって,二次形式の値は Pxundefined=yundefinedP\overrightarrow{x}=\overrightarrow{y} とおくと,

xundefinedAxundefined=(Pxundefined)D(Pxundefined)=yundefinedDyundefined=i=1nλiyi2\overrightarrow{x}^{\top}A\overrightarrow{x}=(P\overrightarrow{x})^{\top}D(P\overrightarrow{x})\\ =\overrightarrow{y}^{\top}D\overrightarrow{y}\\ =\displaystyle\sum_{i=1}^n\lambda_iy_i^2

  • 性質1→性質2
    yundefined=eundefinedi\overrightarrow{y}=\overrightarrow{e}_i (第 ii 成分が 11 でそれ以外 00 であるベクトル)となるように,xundefined=Peundefinedi\overrightarrow{x}=P^{\top}\overrightarrow{e}_i とおけば λi0\lambda_i\geq 0 を得る。

  • 性質2→性質1
    λi0\lambda_i\geq 0 のとき二次形式は非負となる。

性質3も仲間に入れる

性質3→性質1 の証明

A=UUA=U^{\top}U と書けるとき,二次形式は以下のように非負となる:

xundefinedAxundefined=(Uxundefined)(Uxundefined)=Uxundefined20\overrightarrow{x}^{\top}A\overrightarrow{x}=(U\overrightarrow{x})^{\top}(U\overrightarrow{x})\\ =\|U\overrightarrow{x}\|^2\geq 0

性質2→性質3 の証明

さきほどの対角化した式: A=PDPA=P^{\top}DP において,DD の対角成分は非負なので,それぞれの平方根を取った実行列 D12D^{\frac{1}{2}} を持ってこれる。このとき,A=(D12P)D12PA=(D^{\frac{1}{2}}P)^{\top}D^{\frac{1}{2}}P となりOK。

性質1から3までが同値であることが示せました。

性質4(主小行列式)

性質1→性質4 の証明

AA の任意の主小行列を BB とする。

AA の二次形式が非負なので,BB の二次形式も非負である。よって(性質1と性質2の同値性から)BB の固有値は全て非負。行列式は全固有値の積なので,BB の行列式は非負。

一方,反対側はけっこう大変で長くなるので割愛しますm(__)m

性質4→性質1(or 性質2 or 性質3)の簡潔な証明方法をご存じの方はご一報ください!