半正定値対称行列の意味と性質【固有値・二次形式・分解・小行列式】
更新
実対称行列について,
- 固有値がすべて 以上であるとき,半正定値行列という。
- 固有値がすべて正であるとき,正定値行列という。
半正定値行列・正定値行列について
半正定値行列・正定値行列について
-
実対称行列の固有値は実数です。→対称行列の定義と性質~固有値と固有ベクトルの性質
-
これらがすべて 以上のとき半正定値,すべて正のとき正定値といいます。
は対称行列である。固有方程式は より固有値は と である。よって, は半正定値だが正定値ではない。
-
定義より,正定値なら半正定値です。
-
が半正定値のとき, という記号を使い,正定値のとき という記号を使うことが多いです。
半正定値行列の応用例
半正定値行列の応用例
-
統計
分散共分散行列や相関行列は半正定値行列なので,半正定値行列の性質を知っていると計算の見通しが良いです。
→分散共分散行列
→相関行列の定義と分散共分散行列との関係 -
関数の最大化・最小化
多変数関数の極値を求めるときに,ヘッセ行列が正定値かどうかを見ます。→多変数関数の極値判定とヘッセ行列 -
最適化
半正定値計画問題という,「表現力が高い」かつ「ソルバーで解ける」ような最適化問題の記述に使います。
→LP,QP,QCQP,SOCP,SDP -
二次曲線
→斜めの楕円の方程式(特に45度回転)
半正定値行列と二次形式
半正定値行列と二次形式
以下, は の対称行列とします。
-
が半正定値 全ての 次元実ベクトル に対して
-
が正定値 全ての 次元実ベクトル に対して
※ を二次形式と言います。→二次形式の意味,微分,標準形など
は半正定値であった。実際, とおくと,
半正定値 固有値がすべて 以上,を示す。正定値についても同様。
は対称行列なので,直交行列 と実対角行列 を用いて と対角化できる。 の対角成分には の固有値 が並ぶ。
よって,二次形式の値は とおくと,
よって,
-
が半正定値なら,二次形式は明らかに 以上
-
逆に,二次形式が 以上なら, (第 成分が でそれ以外 であるベクトル)となるようにする,つまり とおけば となり半正定値である。
半正定値行列の分解
半正定値行列の分解
が半正定値 ある実正方行列 が存在して
を証明する。
を対角化した式: において, の対角成分は非負なので,それぞれの平方根を取った実行列 を持ってこれる。このとき, となる。
を証明する。
と書けるとき,二次形式は以下のように非負となる:
よって,定理1より は半正定値。
半正定値行列と小行列式
半正定値行列と小行列式
-
が半正定値 の主小行列式が全て非負
-
が正定値 の首座小行列式が全て正。
※主小行列とは,正方行列に対して「同じ番号の行と列を選んでできる正方行列」のことです。主小行列の行列式を主小行列式と言います。
※首座小行列とは,正方行列に対して「左上の 行列」のこと()です。首座小行列の行列式を首座小行列式と言います。
「半正定値ならば主小行列式が非負」を示す。
の任意の主小行列を とする。
の二次形式が非負なので, の二次形式も非負である。よって定理1から の固有値は全て非負。行列式は全固有値の積なので, の行列式は非負。
半正定値行列と合同変換
半正定値行列と合同変換
半正定値行列を合同変換しても半正定値。
つまり, 実対称行列 が半正定値なら,任意の 実行列 に対して も半正定値。
定理3の簡潔な証明をご存知の方はご一報ください!