行列のトレースのいろいろな性質とその証明
正方行列 に対して,対角成分の和 を のトレース(跡)と言い, と書く。
行列のトレースについて,覚えておくべき公式を整理しました。
具体例
具体例
トレースは正方行列に対して定まる実数です。行列式と並ぶ重要な量です。ただし,行列式と違って定義は非常に単純です!
に対して,そのトレースは
基本性質
基本性質
以下,行列のサイズはよきにはからってください。 は任意の実数, は行列とします。
1.
2.
3.
1と2はトレースの線形性を表しています。
1〜3いずれもトレースの定義より明らかです。
行列の内積,可換性
行列の内積,可換性
次は,積 のトレースについて考えてみます。
4.
5.
4の右辺は,行列 と の内積であり,しばしばお目にかかります。サイズ2の場合に確認してみます(一般のサイズの証明も同様)。
, に対して
よりOK。
5はトレースの交換法則。これも重要です!4から証明できます。
4より,
注:3つの積について,
は成立しますが,
などは成立するとは限りません。
固有値の和
固有値の和
行列のトレースは「固有値の和」という重要な意味を持っています!
6. の固有値を とおくと,
特性方程式&解と係数の関係を使います。
特性方程式 について考える。
この左辺を展開したときの先頭の二項は, となる(分かりにくければ3×3の場合くらいでやってみるとよい)。
特性方程式の解が の固有値なので,解と係数の関係より6が示される。
ジョルダン標準形(対角化みたいなもの)を使って証明することもできます。
のジョルダン標準形を とおくと,正則行列 が存在して となる。
-
の対角成分には の固有値が並ぶので, は の固有値の和。
-
5より,
以上よりOK。
なんでトレースと言うのかはよく分かりません!