同時対角化可能⇔交換可能の意味と証明
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2つの対角化可能な行列 について,
と は同時対角化可能
線形代数の重要な定理です。この定理の証明および量子力学における意味を解説します。
同時対角化可能とは
同時対角化可能とは
- ある正則行列 が存在して が対角行列になるとき,行列 は対角化可能であると言います。
- ある正則行列 が存在して と がともに対角行列になるとき,行列 と は同時対角化可能であると言います。
定理のバリエーション
定理のバリエーション
- 物理においては,上記の定理で「対称行列」や「エルミート行列」の場合を考えることが多いです。(量子力学で使うのはエルミートのとき)。
- 特に対称行列は常に対角化可能(→対称行列の固有値と固有ベクトルの性質の証明)であることに注意しましょう。
「同時対角化可能なら可換」の証明
「同時対角化可能なら可換」の証明
こちらは簡単です。
の証明
と が同時対角化可能なとき,ある正則行列 が存在して と がともに対角行列となる。
対角行列どうしは交換可能なので,
整理する:
「交換可能なら同時対角化可能」の証明
「交換可能なら同時対角化可能」の証明
のサイズを とします。
を対角化する行列 をもとに, と を同時対角化する行列 を構成します。
, が対称行列の場合の証明
対象行列の場合は簡単に証明ができます。
の固有値 に対応する固有ベクトルの一つを とおくと,
つまり も の固有値 に対応する固有ベクトルである。
次に, の固有値 に対応する固有空間の正規直交基底を とすると,上の議論により は の線形結合で表せるので,
と書ける( は の行列)。
この議論は他の固有値 についても成立する。
よって, の線形独立な固有ベクトルを(同じ固有値に対応する固有ベクトルは隣り合うような順番で)並べた行列を とおくと, は直交行列であり,
となる。
つまり はブロック対角行列になる。
また, は対称行列(→補足)なので,各 も対称行列となり,対角化可能である:
よって, とおくと,
は対角行列になる。つまり は を対角化する。
一方, は の固有ベクトルを並べた行列 を「ブロック対角行列 で混ぜたもの(各固有空間内で混ぜるだけ)」であり, の列ベクトルたちも の線形独立な固有ベクトルである。つまり は も対角化する。
補足:
は直交行列, は対称行列なので,
一般的な場合
一般的なケースの証明では,ベクトル空間が固有空間の直和によって分解されることを用います。
を対角化可能な 行列として, をその固有値とする。
とおく。
このとき,任意のベクトル に対して が存在して と表される。またこの表示は一意である。
この定理の証明は飛ばします。
前述の通り, を の固有値 に対する固有ベクトルとすると もまた に対する固有ベクトルである。
の固有値 である固有ベクトルによる部分空間を で表す。
の固有値を とする。()
任意の
を の固有ベクトルであるとする。
ここで が存在して と表すことができるのであった。
を固有値 の の固有ベクトルとしたとき(つまり )各 もまた固有値 の の固有ベクトルとなる。
実際, と2通りで表される。各 について , である。 ここで, について に注意すると である。
この議論により が , を満たすベクトルであるように取ることができ,こうしたベクトルを並べた行列を とすると とでき,この によって と は対角化されることが分かった。
この定理および証明を知っていれば解ける大学院入試の問題として,同時対角化の練習問題~院試の問題を通してもどうぞ。
量子力学における意味
量子力学における意味
量子力学では物理量はエルミート行列(演算子)に対応します。
また, と が同時対角化可能というのは, に対応する物理量と に対応する物理量が同時観測可能(一回の測定で両方分かる)であることを表しています。
つまりこの記事で紹介した定理は同時観測可能かどうかを判定するには が かどうかを確認すればよいことを表しています。
量子力学では無限次元の行列が登場します。