行列の対角化の意味と具体的な計算方法

行列の対角化

与えられた正方行列 AA に対して,正則行列 PP をうまく取ってきて P1APP^{-1}AP を対角行列にする操作を対角化と言う。

対角化

行列の対角化について,例題を使って意味を説明したあと,対角化する方法を解説します。

対角化の例

2×22\times 2 行列を対角化してみます。

例題

A=(3122)A=\begin{pmatrix} 3&1\\2&2\end{pmatrix} を対角化せよ。

実は,AA の固有ベクトルを並べた行列を PP とすれば対角化できます。(理由は後で説明します)

解答

AA の固有値 λ\lambda を求める。固有方程式は λ25λ+4=0\lambda^2-5\lambda+4=0 より λ=1,4\lambda=1,4

固有値 11 に対応する固有ベクトルの1つは (12)\begin{pmatrix}1\\-2\end{pmatrix}

固有値 44 に対応する固有ベクトルの1つは (11)\begin{pmatrix}1\\1\end{pmatrix} より,

P=(1121)P=\begin{pmatrix}1&1\\-2&1\end{pmatrix} とおく。

すると,P1=13(1121)P^{-1}=\dfrac{1}{3}\begin{pmatrix}1&-1\\2&1\end{pmatrix} になり,頑張って計算すると

P1AP=(1004)P^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&0\\0&4\end{pmatrix}が得られる。P1APP^{-1}AP を対角行列にできた!

このように,対角化には固有値・固有ベクトルの計算が必要です。固有値,固有ベクトルの計算方法は,固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法を参照してください。

対角化の条件&計算方法

さきほどAA の固有ベクトルを並べた行列を PP とすれば対角化できると述べました。これについて,もう少し詳しく見ていきます。

AAn×nn\times n 行列とし,AA の固有値と固有ベクトルを λi,xi(i=1,,n)\lambda_i,x_i\:(i=1,\cdots, n) とします。→固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法

対角化の条件&方法
  1. AAnn 本の固有ベクトル x1,x2,,xnx_1, x_2,\cdots ,x_n が線形独立なら,AA は対角化可能である。

  2. 具体的には,固有ベクトルを並べて P=(x1,x2,,xn)P=(x_1,x_2,\cdots, x_n) とすれば P1APP^{-1}AP が対角行列になる。

  3. 得られる対角行列の対角成分は AA の固有値である。

証明

AA の固有ベクトル x1,x2,,xnx_1, x_2,\cdots ,x_n が線形独立なとき,PP は正則であり,P1P^{-1} が存在する。このとき,P1APP^{-1}AP を計算する。

まず,固有値,固有ベクトルの定義より,

AP=A(x1,x2,,xn)=(λ1x1,λ2x2,λnxn)AP=A(x_1,x_2,\cdots, x_n)=(\lambda_1x_1,\lambda_2x_2,\cdots \lambda_nx_n)

また,P1P^{-1} の第 ii 行目を yiy_i (横ベクトル)とおくと,

P1=(y1y2yn)P^{-1}=\begin{pmatrix}y_1\\y_2\\\vdots\\y_n\end{pmatrix} であり,逆行列の定義より内積 yixiy_ix_iiijj が等しいとき 11,そうでないとき 00 となる。

よって,P1AP=(y1y2yn)(λ1x1,λ2x2,λnxn)=DP^{-1}AP=\begin{pmatrix}y_1\\y_2\\\vdots\\y_n\end{pmatrix}(\lambda_1x_1,\lambda_2x_2,\cdots \lambda_nx_n)=D

(ただし,DD は第 iiii 成分が λi\lambda_i である対角行列)となる。

対角化の条件について補足

対角化の意味(嬉しさ)

対角化すると嬉しい理由を2つ紹介します。

簡単な表現を求めることができる

正則行列 PP を用いて B=P1APB=P^{-1}AP となる行列 BB は「ある意味で AA と同じ」とみなせます(AABB は相似であると言う,詳細は省略)。そこで「ある意味で同じ」行列の中で一番簡単な表現方法(標準形)を求めたくなります。対角行列はとてもシンプルな表現なので,対角化できると嬉しいです。

行列のn乗を計算できる

P1AP=DP^{-1}AP=D の両辺を nn 乗して変形すると,
An=(PDP1)n=(PDP1)(PDP1)(PDP1)=PDDDP1=PDnP1A^n=(PDP^{-1})^n\\ =(PDP^{-1})(PDP^{-1})\cdots(PDP^{-1})\\ =PDD\cdots DP^{-1}\\ =PD^nP^{-1}
となります。 DnD^n の計算は簡単なので,AnA^n も計算できます。

例題

A=(3122)A=\begin{pmatrix} 3&1\\2&2\end{pmatrix} に対して AnA^n を計算せよ。

解答

さきほどの例で計算したように,

P=(1121)P=\begin{pmatrix}1&1\\-2&1\end{pmatrix} とおくと,P1=13(1121)P^{-1}=\dfrac{1}{3}\begin{pmatrix}1&-1\\2&1\end{pmatrix} になり,

P1AP=(1004)=DP^{-1}AP=\begin{pmatrix}1&0\\0&4\end{pmatrix}=D と対角化できた。

よって,

An=PDnP1=(1121)(1n004n)13(1121)=13(1+24n1+4n2+24n2+4n)A^n=PD^nP^{-1}\\ =\begin{pmatrix}1&1\\-2&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1^n&0\\0&4^n\end{pmatrix}\dfrac{1}{3}\begin{pmatrix}1&-1\\2&1\end{pmatrix}\\ =\dfrac{1}{3}\begin{pmatrix}1+2\cdot 4^n&-1+4^n\\-2+2\cdot 4^n& 2+4^n\end{pmatrix}

行列のn乗の求め方については,より詳しく行列のn乗の求め方と例題で紹介しています。

P1APP^{-1}AP を実際に計算して対角行列になったら少し感動します。