対称行列の固有値と固有ベクトルの性質の証明
任意の実対称行列 について,
1.固有値は実数である
2.異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交する
対称行列の重要で美しい2つの性質の証明を解説します。
具体例
固有値が実数であることの証明
固有ベクトルが直交することの証明
具体例
証明の前にまずは具体例から。
固有値と固有ベクトルの定義,求め方については固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法を参照して下さい。
の固有値と固有ベクトルを求めよ。
固有方程式は なので,固有値は
に対応する固有ベクトルは
に対応する固有ベクトルは
固有値は実数で,二本の固有ベクトルは直交する!
固有値が実数であることの証明
の一つの固有値を ,対応する固有ベクトルを とおく。
固有値,固有ベクトルの定義より
両辺の共役転置を取ると
ここで,二次形式 について二通りの変形をする。
一つ目の式より,
二つ目の式より,
以上から
固有ベクトルの定義より は ベクトルではないので よって となる。つまり は実数。
- は のノルム(長さ)。つまり各成分の二乗和のルート。
- は の共役転置。が成立する。実対称行列については
固有ベクトルが直交することの証明
の固有値 に対応する固有ベクトルを , に対応する固有ベクトルを とおく:
二つ目の式の共役転置を取る
ここで,二次形式 について二通りの変形をする。
についての式より,
についての式より,
よって,
のとき となり と は直交する。
注:この定理をベースに「対称行列は直交行列で対角化できる」という非常に重要な定理が導出されます。対称行列はいろいろなところに登場する&固有値,固有ベクトルに関して美しい理論があるために重宝します。
二つの定理の証明が似ているのも趣深いです。