対称行列の定義と性質~固有値と固有ベクトルの性質

対称行列

行列 AA が対称行列であるとは,転置しても変わらないことをいう。

つまり,AAiijj 列の成分を aija_{ij} としたとき,aij=ajia_{ij} = a_{ji} が成立する行列のことをいう。

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この記事では対称行列とその性質を解説します。線型代数で頻繁に登場する概念なのでマスターしましょう!

対称行列と固有値・固有ベクトル

対称行列の性質

任意の実対称行列 AA について,

  • 固有値は実数である
  • 異なる固有値に対応する固有ベクトルは直交する

対称行列の重要な2つの性質を証明します。

具体例

証明の前にまずは具体例からです。

固有値と固有ベクトルの定義,求め方については固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法を参照して下さい。

例題

A=(5222)A=\begin{pmatrix}5 &2\\2 & 2\end{pmatrix} の固有値と固有ベクトルを求めよ。

解答

固有方程式は λ27λ+6=0\lambda^2-7\lambda+6=0 なので,固有値は λ=1,6\lambda=1,6

λ=1\lambda=1 に対応する固有ベクトルは (12)\begin{pmatrix}1\\-2\end{pmatrix}

λ=6\lambda=6 に対応する固有ベクトルは (21)\begin{pmatrix}2\\1\end{pmatrix}

固有値は実数で,2本の固有ベクトルは直交している!

固有値が実数であることの証明

証明

AA の1つの固有値を λ\lambda,対応する固有ベクトルを xx とおく。

  • 固有値,固有ベクトルの定義より Ax=λxAx=\lambda x
  • 両辺の共役転置を取ると xA=λxx^{*}A=\overline{\lambda}x^*

ここで,二次形式 xAxx^*Ax について二通りの変形をする。

  • 1つ目の式より,xAx=λxx=λx2x^*Ax=\lambda x^*x=\lambda\|x\|^2
  • 2つ目の式より,xAx=λxx=λx2x^*Ax=\overline{\lambda}x^*x=\overline{\lambda}\|x\|^2

以上から x2(λλ)=0\|x\|^2(\lambda-\overline{\lambda})=0

固有ベクトルの定義より xx00 ベクトルではないので x0\|x\|\neq 0

よって λ=λ\lambda=\overline{\lambda} となる。つまり λ\lambda は実数。

補足:

  • x\|x\|xx のノルム(長さ)。つまり各成分の二乗和のルート。
  • xx^*xx の共役転置。(Ax)=xA(Ax)^*=x^*A^*が成立する。実対称行列については A=AA^*=A

固有ベクトルが直交することの証明

証明

AA の固有値 λ1\lambda_1 に対応する固有ベクトルを xxλ2\lambda_2 に対応する固有ベクトルを yy とおく:

Ax=λ1x,Ay=λ2yAx=\lambda_1x,\:Ay=\lambda_2y

2つ目の式の共役転置を取る yA=λ2yy^{*}A=\lambda_2 y^{*}

ここで,二次形式 yAxy^{*}Ax について2通りの変形をする。

  • xx についての式より,yAx=λ1yxy^{*}Ax=\lambda_1y^{*}x
  • yy についての式より,yAx=λ2yxy^{*}Ax=\lambda_2y^{*}x

よって,yx(λ1λ2)=0y^{*}x(\lambda_1-\lambda_2)=0

λ1λ2\lambda_1\neq \lambda_2 のとき yx=0y^{*}x=0 となり xxyy は直交する。

注:この定理をもとに「対称行列は直交行列で対角化できる」という非常に重要な定理を証明できます。対称行列はいろいろなところに登場する&固有値,固有ベクトルに関して美しい理論があるため大事です。

交代行列との関連

交代行列

転置をしたとき,1-1 倍される行列を 交代行列(歪対称行列・反対称行列)という。

交代行列の定義と性質

行列の「分解」

「対称行列は偶関数のようなもの」「交代行列は奇関数のようなもの」といえます。

特に次の定理が成立します。

定理

任意の実数係数行列は 対称行列と交代行列の和で表される

証明

行列 AA に対して 12(A+A)\dfrac{1}{2} (A+ A^{\top}) は対称行列,12(AA)\dfrac{1}{2} (A- A^{\top}) は交代行列である。

A=12(A+A)+12(AA) A = \dfrac{1}{2} (A+ A^{\top}) + \dfrac{1}{2} (A- A^{\top}) より題意は示された。

参考:行列・関数・多項式に共通する有名な性質

二つの定理の証明が似ているのもおもしろいです。