行列・関数・多項式に共通する有名な性質
このページでは,
という等式を使ったおもしろい性質を3つ紹介します。
この等式は「対称的なものと交代的(反対称的)なものに分解する」という文脈でいろいろな場面で登場します。この等式を背景とした入試問題もたまに出題されるので,覚えておくとよいでしょう。
行列:対称行列と交代行列の和に分解する
行列:対称行列と交代行列の和に分解する
任意の行列は対称行列と交代行列の和に分解できる
与えられた行列を,対称行列と交代行列の和で表すことができます。この事実は覚えておきましょう。
と分解できるが, は対称行列, は交代行列であることがそれぞれの転置を取ることで確認できる。
ちなみに,紫文字の式を思いつかなくても,以下のように導出できます。
対称行列 と交代行列 を使って
と分解できたとする。
両辺の転置を取ると
この2つの式を と についてそれぞれ解くと
,
よって,
実際に が対称行列で が交代行列であることも確認できる。
証明2では「もし表すことができたら」と仮定して式変形をして紫文字の式を導出しています。天下り的な証明1よりも自然ですね。
関数:奇関数と偶関数の和に分解する
関数:奇関数と偶関数の和に分解する
任意の関数は偶関数と奇関数の和に分解できる
この性質を背景とする入試問題もたまに出題されます。覚えておくとよいでしょう。
と分解できるが, は より偶関数, は より奇関数である。
多項式
ちなみに,このように多項式を偶数次の項と奇数次の項に分解する処理は,定積分の計算で使ったりします。
指数関数
指数関数でさえも,偶関数と奇関数の和で表せてしまいます。
実は,右辺の偶関数部分はカテナリー(懸垂線)と呼ばれる有名な曲線です。偶関数の部分は 奇関数の部分は とも表され,双曲線関数とも呼ばれます。
2変数多項式:対称式と交代式の和に分解する
2変数多項式:対称式と交代式の和に分解する
任意の2変数関数は対称式と交代式(反対称式)の和に分解できる
と分解できるが,第一項は と に関して対称であり,第二項は と に関して反対称である。
まとめ
まとめ
複数の分野において,似たような性質が成り立つことが分かりました。このように,複数の分野に共通する性質を抜き出すことを 抽象化と言ったりします。
複数の分野に共通する性質を知っていると
- 様々な分野を統一的に議論できる
- 他にもこの共通する性質を持つものが存在するのではないか?という視点を持ち,理論を拡張できる
といった嬉しい事があります。
共通する性質を追求するほど,具体的な議論から抽象的な話になっていくので難しく感じますが,抽象的な議論をする際も常に具体例をイメージしておくとよいです。
行列の分解の証明2は恩師のy先生に教えていただきました。
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