懸垂線の2通りの導出

懸垂線(カテナリー)

懸垂線

ひもの両端を手で持ってたらした曲線の式は y=a(exa+exa)2 y=\dfrac{a(e^{\tfrac{x}{a}}+e^{-\tfrac{x}{a}})}{2} この曲線を懸垂線またはカテナリーと呼ぶ。

懸垂線に関する入試問題はたまに出題されます。懸垂線の知っておくべき性質と導出を紹介します。

懸垂線の有名な性質

  1. 懸垂線はひもの両端を持ってたらした式です。
    これは性質というより定義です。鎖や橋など,町中で懸垂線を見かけたら嬉しくなります(^ω^)

  2. 懸垂線は放物線で近似できます。
    マクローリン展開を用いて原点付近で2次近似してみます。具体的には, exa1+xa+x22a2exa1xa+x22a2\begin{aligned} e^{\tfrac{x}{a}} &\fallingdotseq 1+\dfrac{x}{a}+\dfrac{x^2}{2a^2}\\ e^{-\tfrac{x}{a}} &\fallingdotseq 1-\dfrac{x}{a}+\dfrac{x^2}{2a^2} \end{aligned} より,懸垂線は y=x22a+ay=\dfrac{x^2}{2a}+a と近似できます。

  3. 懸垂線は双曲線関数です。
    双曲線関数と呼ばれる有名な関数 sinhx,coshx\sinh x, \cosh x が存在します: sinhx=exex2coshx=ex+ex2\begin{aligned} \sinh x &= \dfrac{e^x-e^{-x}}{2}\\ \cosh x &= \dfrac{e^x+e^{-x}}{2} \end{aligned} 双曲線関数は三角関数のように様々な関係式が成立し,楽しい関数なのですが,高校ではあまり取りあげられません。カテナリーは双曲線関数 acoshxaa\cosh \dfrac{x}{a} と同じと覚えておくとよいでしょう。 →双曲線関数

微分方程式を用いた導出

ひもの両端を手で持ってたらした曲線の式が y=a(exa+exa)2y=\dfrac{a(e^{\tfrac{x}{a}}+e^{-\tfrac{x}{a}})}{2} になることを2通りの方法で導出します。

まずは,微分方程式を使う方法です。微分方程式は高校範囲外ですが,数3まで知っていれば以下の導出はなんとなく理解できると思います。

懸垂線の導出(前半:微分方程式をつくる)

長いひもの一部 0xx00\leq x \leq x_0 の区間を考える。両端にかかる張力を T0,TT_0, T,ひもにかかる重力を WWx0x_0 でのひもの角度を θ\theta とおく。

懸垂線の導出

T0T_0x0x_0 によらない定数なので(注),力の釣り合いから以下の式が成立する:

Tcosθ=T0,Tsinθ=W T\cos\theta=T_0, T\sin\theta=W

よって, tanθ=WT0 \tan\theta=\dfrac{W}{T_0}

ここで,WW は線の長さ ss に比例するので, dydx=tanθ=sa \dfrac{dy}{dx}=\tan\theta=\dfrac{s}{a} aa は定数)と書ける。

注:もし x0x_0x0+Δxx_0+\Delta x にしたときに T0T_0T0T_0' に変化してしまうと,ひもの x0x_0 から x0+Δxx_0+\Delta x の部分に関して水平方向の釣り合いが成り立ちません。なぜなら,その部分では左側に T0T_0 の力が,右側には T0T_0' の力がかかるからです。よって,T0T_0x0x_0 によらず定数です。

懸垂線の導出(後半:微分方程式を解く)

ds2=dx2+dy2ds^2=dx^2+dy^2 より,

dsdx=1+(dydx)2=s2+a2a\begin{aligned} \dfrac{ds}{dx}&=\sqrt{1+\left(\dfrac{dy}{dx}\right)^2}\\ &=\dfrac{\sqrt{s^2+a^2}}{a} \end{aligned}

よって,

dss2+a2=dxa \int \dfrac{ds}{\sqrt{s^2+a^2}}=\displaystyle\int \dfrac{dx}{a}

左辺の積分計算がめんどうなので詳細は省略するが,両辺積分して整理すると, s=xa=a(exaexa)2\begin{aligned} s &= \frac{x}{a}\\ &= \dfrac{a(e^{\tfrac{x}{a}}-e^{-\tfrac{x}{a}})}{2} \end{aligned}

(境界条件は x=0x=0s=0s=0)

同様に, dsdy=1+(dxdy)2=s2+a2s\begin{aligned} \dfrac{ds}{dy} &= \sqrt{1+\left(\dfrac{dx}{dy}\right)^2}\\ &= \dfrac{\sqrt{s^2+a^2}}{s} \end{aligned}

から, sdss2+a2=dy \int \dfrac{sds}{\sqrt{s^2+a^2}}=\displaystyle\int dy

の両辺を積分して y=a2+s2y=\sqrt{a^2+s^2}

以上2式より ss を消去すれば懸垂線の式が得られる。

微分方程式を解く部分は,変数分離形の微分方程式の解法と例題 を知っていると理解しやすいです。

変分法を用いた導出

こちらの証明方法は高校範囲では理解できないかもしれません。大学の数学で習う「変分法」という汎関数の値を停留させる関数を求める手法を用います。

懸垂線の導出

ひもに蓄えられた位置エネルギーは以下の式で表される:

mgyds=ρgy1+y2dx \int mgyds=\rho g\int y\sqrt{1+y^{\prime 2}}dx

よって,f=y1+y2f=y\sqrt{1+y^{\prime 2}} とおいてオイラーラグランジュ方程式を用いるのが筋。

ただし,ffxx を含まないので,ベルトラミの公式 fyfy=Cf-y^{\prime}\dfrac{\partial f}{\partial y^{\prime}}=C が使える:

y1+y2=C \dfrac{y}{\sqrt{1+y^{\prime 2}}}=C

上式を整理する:

Cdyy2C2=dx \int \dfrac{Cdy}{\sqrt{y^2-C^2}}=\displaystyle\int dx

よって,この式を積分することにより,懸垂線の一般式が得られる:

y=Ccosh(xAC) y=C\cosh \left(\dfrac{x-A}{C}\right)

特に,xx 軸対称な場合が重要で,そのときには積分定数は A=0A=0 となり,目標の式を得る。

懸垂線の弧長

懸垂線の長さを計算してみましょう。

計算

x=0x = 0 から x=tx = t までの長さを L(t)L(t) とおく。

曲線の長さを計算する積分公式 より L(t)=0t1+(dydx)2dx L(t) = \int_0^t \sqrt{1+\left( \dfrac{dy}{dx} \right)^2} dx である。

1+(dydx)2=1+e2xa2+e2xa4=e2xa+2+e2xa4=(exa+exa2)2\begin{aligned} &1 + \left( \dfrac{dy}{dx} \right)^2\\ &= 1 + \dfrac{e^{\tfrac{2x}{a}}-2+e^{-\tfrac{2x}{a}}}{4}\\ &= \dfrac{e^{\tfrac{2x}{a}}+2+e^{-\tfrac{2x}{a}}}{4}\\ &= \left( \dfrac{e^{\tfrac{x}{a}}+e^{-\tfrac{x}{a}}}{2} \right)^2 \end{aligned} と計算されるため L(t)=0texa+exa2dx=a2[exaexa]0t=a(etaeta)2\begin{aligned} L(t) &= \int_0^t \dfrac{e^{\frac{x}{a}} + e^{-\frac{x}{a}}}{2} dx\\ &= \dfrac{a}{2} \left[ e^{\frac{x}{a}} - e^{-\frac{x}{a}} \right]_0^t\\ &= \dfrac{a(e^{\frac{t}{a}} - e^{-\frac{t}{a}})}{2} \end{aligned} となる。

ひもを垂らしたら指数関数が出てくるってなんか感動します!

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