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交代行列の定義と性質

更新日時 2021/04/24
交代行列の定義

正方行列 AA が, AT=AA^T = -A を満たすとき,AA を「交代行列反対称行列歪対称行列,英:alternating matrix, antisymmetric matrix, skew symmetric matrix)」と呼ぶ。

この記事では,交代行列(反対称行列,歪対称行列)について解説します。この行列は対称行列同様さまざまな性質を持ちます。そのうちのいくつかを紹介します。

目次
  • 交代行列の例

  • 交代行列の対角成分は0

  • 交代行列かつ対称行列ならば零行列

  • 任意の正方行列は一意に対称行列と交代行列の和に分解できる

  • 実交代行列の固有値の実部は0

  • 交代行列が固有値を持つとき(-1)倍も固有値になる

交代行列の例

交代行列の定義は AT=AA^T = -A,つまり「転置するとマイナス1倍になる」です。交代行列の例をいくつか挙げてみます。

(0110) \left(\begin{array}{cc} 0 & 1\\ -1 & 0 \end{array}\right)

(012103230) \left(\begin{array}{ccc} 0 & 1 & 2\\ -1 & 0 & 3\\ -2 & -3 & 0\\ \end{array}\right)

(0124+i1032i23054i2+i50) \left(\begin{array}{cccc} 0 & 1 & -2 & 4 + i\\ -1 & 0 & 3 & 2 - i\\ 2 & -3 & 0 & -5\\ -4-i & -2+i & 5 & 0 \end{array}\right)

上記のようなものが交代行列です。左下が右上のマイナス1倍になっています。

交代行列の対角成分は0

上記の例をみていると,対角成分が必ず 00 であることに気づくと思います。これは交代行列が一般に持つ性質です。証明はとても簡単です。

交代行列の対角成分は 00 である。

証明

交代行列の定義より, AT=AA+AT=0A^T = -A\\ A + A^T = 0 これより,行列の対角成分を aiia_{ii} で表せば, aii+aii=0aii=0 a_{ii} + a_{ii} = 0\\\therefore a_{ii} = 0

交代行列かつ対称行列ならば零行列

対称行列と交代行列は裏表のような関係(違うものだけど,切り離せない関係)にあります。対称行列と交代行列の組で議論すると,たびたび面白い性質が見つかります。下の定理はその一例です。

対称行列かつ交代行列である行列は「零行列」のみである。

証明

行列 AA が対称行列であるとすると, AT=A A^T = A それに加えて,AA が交代行列であるとすると, AT=A A^T = -A 二式より, A=AA=O\begin{aligned} A &= -A\\ \therefore A &= O \end{aligned}

任意の正方行列は一意に対称行列と交代行列の和に分解できる

以下の定理も有名です。「行列・関数・多項式に共通する有名な性質」の記事でも紹介しています。合わせて見てみてください。

任意の正方行列は A=A+AT2+AAT2 A = \dfrac{A + A^T}{2} + \dfrac{A - A^T}{2} という形で一意に対称行列と交代行列の和に分解できる。

証明

まず,A+AT2\dfrac{A + A^T}{2} が対称行列であることは以下のように確認できる。 (A+AT2)T=AT+(AT)T2=A+AT2\begin{aligned} \left(\dfrac{A + A^T}{2}\right)^T = \dfrac{A^T + (A^T)^T}{2} = \dfrac{A + A^T}{2} \end{aligned} また,AAT2\dfrac{A - A^T}{2} が交代行列であることは以下のように確認できる。 (AAT2)T=AT(AT)T2=(AAT2)\begin{aligned} \left(\dfrac{A - A^T}{2}\right)^T = \dfrac{A^T - (A^T)^T}{2} = - \left(\dfrac{A - A^T}{2}\right) \end{aligned} A=A+AT2+AAT2A = \dfrac{A + A^T}{2} + \dfrac{A - A^T}{2} は任意の行列に対して成り立つので,AA は必ず対称行列と交代行列の和に分解できることがわかった。

次に,この分解以外に方法がないこと(一意性)を示す。行列 AA の分解が一意でない,つまり,対称行列 M1,N1M_1, N_1,交代行列 M2,N2M_2,N_2 を用いて A=M1+M2=N1+N2(ただし,(M1,M2)(N1,N2)) A = M_1 + M_2 = N_1 + N_2 \quad(\text{ただし,}(M_1, M_2) \neq (N_1, N_2)) とかけると仮定する。この式から, M1N1=N2M2 M_1 - N_1 = N_2 - M_2 が成立することがわかる。左辺は対称行列であり,右辺は交代行列であるから,M1N1,N2M2M_1 - N_1, N_2 - M_2 はどちらも対称行列かつ交代行列である。前節の定理より,対称行列かつ交代行列であるような行列は零行列であるから, M1=N1,M2=N2 M_1 = N_1, M_2 = N_2 これは「行列 AA の分解が一意でない」という仮定に矛盾する。よって,行列 AA の分解は一意である。

実交代行列の固有値の実部は0

実対称行列の固有値は,必ず実数であることを別の記事で紹介しています(→対称行列の固有値と固有ベクトルの性質の証明)。実交代行列にも同様に,固有値に面白い性質があります。

実交代行列の固有値は全て実部が 00 である。

実数であることと,虚部が 00 であることは同値ですから,実対称行列の性質は「固有値の虚部が 00 である」と言い換えられます。この節の定理にとても似ていますね。証明の仕方も,上記記事のものとほとんど同じです。

証明

AA の一つの固有値を λ\lambda ,対応する固有ベクトルを x\boldsymbol{x} とおく。定義より, Ax=λx A\boldsymbol{x} = \lambda \boldsymbol{x} 両辺の共役転置を取ると xA=xA=λx \boldsymbol{x}^* A^* = -\boldsymbol{x}^* A = \overline{\lambda} \boldsymbol{x}^* 一つ目の式より, xAx=xλx=λx2 \boldsymbol{x}^* A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{x}^*\lambda \boldsymbol{x} = \lambda \|\boldsymbol{x}\|^2 二つ目の式より, xAx=λxx=λx2 -\boldsymbol{x}^* A\boldsymbol{x} = -\overline{\lambda} \boldsymbol{x}^* \boldsymbol{x} =-\overline{\lambda}\|\boldsymbol{x}\|^2 これら二式より, λ=λ \lambda = -\overline{\lambda} これより, Re(λ)=λ+λ2=0 \mathrm{Re} (\lambda) = \dfrac{\lambda + \overline{\lambda}}{2} = 0

交代行列が固有値を持つとき(-1)倍も固有値になる

もう一つ,交代行列に関する定理を紹介します。

交代行列が固有値 λ\lambda を持つとき,λ-\lambda も固有値になる。

「実数係数多項式 =0= 0 という方程式に関して,zz が解なら z\overline{z} も解である。」という共役複素数の話がありましたが,なんだかそれに似ていますね(→共役複素数の覚えておくべき性質)。

証明

ATx=Ax=λx A^T \boldsymbol{x} = -A \boldsymbol{x} = -\lambda \boldsymbol{x} より,λ-\lambdaATA^T の固有値であることがわかる。転置しても固有値は変化しないので,λ-\lambdaAA の固有値でもある。

数学や物理には,ペアとしてみると似たような性質が発見できるような概念が多くあります。

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