同時対角化の練習問題~院試の問題を通して

この記事では,東大・京大の大学院入試の問題を通して同時対角化の理解を深めます。ぜひチャレンジしてみてください。

定理

対角化可能な行列 A,BA,B について次の2つは同値である。

  • AB=BAAB = BA を満たす。
  • A,BA,B は同時対角化である。つまり,ある正則行列 PP があって PAP1PAP^{-1}PBP1PBP^{-1} は対角行列にできる。

詳しくは

をご覧ください。

問題

第1問

問題(東大数理2022改題)

A=(a2002a4003a)A = \begin{pmatrix} a&2&0\\ 0&2a&4\\ 0&0&3a \end{pmatrix}B=(0300b6002b)B = \begin{pmatrix} 0&3&0\\ 0&b&6\\ 0&0&2b \end{pmatrix} とする。

  1. AA が対角化可能な aa の条件を求めよ。
  2. BB が対角化可能な bb の条件を求めよ。
  3. A,BA,B が同時対角化可能になる a,ba,b の条件を求めよ。

第2問

問題(京大数学教室2022改題)

S,TS,T を対角化可能な n×nn \times n 行列で ST=TSST = TS が成り立つものとする。

rr2rn2 \le r \le n である整数,α,βC\alpha , \beta \in \mathbb{C} を複素数,λ1,,λrC\lambda_1 , \ldots , \lambda_r \in \mathbb{C} を相異なる複素数とする。零ベクトルでない VV の元 v,u1,,urv , u_1 , \ldots , u_rv=u1+u2++ur v = u_1 + u_2 + \cdots + u_r を満たし,かつ 1jr1 \le j \le r なるすべての整数 jj について uju_j は固有値 λj\lambda_j に属する SS の固有ベクトルとする。さらに vv は固有値 α\alpha に属する TT の固有ベクトルであり,u1u_1 は固有値 β\beta に属する TT の固有ベクトルとする。このとき α=β\alpha = \beta が成り立つことを示せ。

解答

第1問

1,2

最小多項式が重根を持たないことと対角化可能であることの同値性を用いましょう。→行列の対角化の意味と具体的な計算方法

1の解答

AA の固有方程式は AtI=at2002at4003at=(at)(2at)(3at)\begin{aligned} &|A-tI| \\ &= \begin{vmatrix} a-t & 2 & 0\\ 0 & 2a-t & 4\\ 0 & 0 & 3a-t \end{vmatrix}\\ &= (a-t)(2a-t)(3a-t) \end{aligned} である。

a0a \neq 0 のとき,固有値が異なるため対角化可能である。

a=0a=0 のとき

A2=(008000000)A3=(000000000)\begin{aligned} A^2 &= \begin{pmatrix} 0&0&8\\ 0&0&0\\ 0&0&0 \end{pmatrix}\\ A^3 &= \begin{pmatrix} 0&0&0\\ 0&0&0\\ 0&0&0 \end{pmatrix} \end{aligned} より最小多項式は x3x^3 であるが,これは重解を持つためこのとき対角化可能ではない。

ゆえに a0a \neq 0 である。

2の解答

BB の固有多項式は BtI=t300bt6002bt=t(bt)(2bt)\begin{aligned} &|B-tI|\\ &= \begin{vmatrix} t & 3 & 0\\ 0 & b-t & 6\\ 0 & 0& 2b-t \end{vmatrix}\\ &= t(b-t)(2b-t) \end{aligned} である。

b0b \neq 0 のとき,固有値が異なるため対角化可能である。

b=0b=0 のとき,1と同様に計算すると最小多項式が重解を持つため,対角化可能ではない。

ゆえに b0b \neq 0 である。

3

可換性から条件を絞りましょう。

3の解答

ABBA=0AB-BA = 0 となる a,ba,b を計算するとよい。

ABBA=(a2002a4003a)(0300b6002b)(0300b6002b)(a2002a4003a)=(03a+2b1202ab12a+8b006ab)(06a1202ab18a+4b006ab)=(03a+2b0006a+4b000)\begin{aligned} &AB-BA\\ &= \begin{pmatrix} a&2&0\\ 0&2a&4\\ 0&0&3a \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 0&3&0\\ 0&b&6\\ 0&0&2b \end{pmatrix}\\ &\quad -\begin{pmatrix} 0&3&0\\ 0&b&6\\ 0&0&2b \end{pmatrix} \begin{pmatrix} a&2&0\\ 0&2a&4\\ 0&0&3a \end{pmatrix} \\ &= \begin{pmatrix} 0 & 3a+2b & 12\\ 0 & 2ab & 12a+8b\\ 0 & 0 & 6ab \end{pmatrix}\\ &\quad - \begin{pmatrix} 0 & 6a & 12\\ 0 & 2ab & 18a + 4b\\ 0 & 0 & 6ab \end{pmatrix}\\ &= \begin{pmatrix} 0 & -3a+2b & 0\\ 0 & 0 & -6a+4b\\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \end{aligned} であるため,ABBA=0AB-BA = 0 であることと 3a=2b3a=2b は同値である。

第2問

この問題では,「可換であれば同時対角化可能であることの証明」と同様な議論を用います。

解答

ST=TSST = TS より STvi=TSvi=λiTviST v_i = TS v_i = \lambda_i T v_i である。よって TviTv_i は固有値 λi\lambda_i に関する固有ベクトルである。

また, STv=Sαv=αi=1rSvi=i=1rαλiviTSv=Ti=1rSvi=Ti=1rλivi=βλ1v1+i=2rλiTvi\begin{aligned} ST v &= S \alpha v\\ &= \alpha \sum_{i=1}^r Sv_i\\ &= \sum_{i=1}^r \alpha \lambda_i v_i \\ TS v &= T \sum_{i=1}^r S v_i\\ &= T \sum_{i=1}^r \lambda_i v_i\\ &= \beta \lambda_1 v_1 + \sum_{i=2}^r \lambda_i T v_i \end{aligned} である。ST=TSST = TS より上の2つは等しい。移項することで 0=(αβ)v1+(αv2Tv2)++(αvr+Tvr) 0 = (\alpha - \beta) v_1 + (\alpha v_2 - T v_2) + \cdots + (\alpha v_r + T v_r) である。

ここで (αβ)v1(\alpha - \beta) v_1 は固有値 λ1\lambda_1 に属する SS の固有空間,αviTvi\alpha v_i - T v_iλi\lambda_i に属する SS の固有空間である。

さて,固有空間は直和に分かれるため, {(αβ)v1=0αv2Tv2=0    αvrTvr=0 \begin{cases} (\alpha - \beta) v_1 = 0\\ \alpha v_2 - T v_2 = 0\\ \;\; \vdots\\ \alpha v_r - T v_r = 0 \end{cases}

よって αβ=0\alpha -\beta = 0 である。

可換性と同時対角化可能の同値性はしっかりと覚えておきましょう。