ケーリー・ハミルトンの定理(2次,3次,n次)

更新日時 2021/03/07
ケーリー・ハミルトンの定理

正方行列 AA に対して,det(AλI)\det(A-\lambda I) という λ\lambda の多項式の λ\lambda の部分を AA に変えたものはゼロ行列になる。

ケーリー(Cayley)とハミルトン(Hamilton)の順番を入れ替えて「ハミルトン・ケーリーの定理」と言うこともあります。

二次の場合

ケーリー・ハミルトンの定理の意味を理解するために,2×2の場合について考えてみます。行列式についての知識が必要です。

この節では A=(abcd)A=\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} とします。

固有多項式は,det(AλI)=λ2(a+d)λ+(adbc)λ0\det(A-\lambda I)=\lambda^2-(a+d)\lambda+(ad-bc)\lambda^0 です。

これは λ\lambda についての二次多項式ですが,λ\lambda の部分に強引に行列 AA を入れたものを考えるとゼロ行列になる,というのがケーリー・ハミルトンの定理です。

サイズ2の場合

A2(a+d)A+(adbc)I=OA^2-(a+d)A+(ad-bc)I=O

トレースと行列式を用いて A2(trA)A+(detA)I=OA^2-(\mathrm{tr}\: A)A+(\det A)I=O と書くこともできます。

サイズ2の場合については成分計算で簡単に証明できます。

証明

A2=(a2+bcab+bdac+cdbc+d2)A^2=\begin{pmatrix}a^2+bc&ab+bd\\ac+cd&bc+d^2\end{pmatrix}

(a+d)A=(a2adabbdaccdadd2)-(a+d)A=\begin{pmatrix}-a^2-ad&-ab-bd\\-ac-cd&-ad-d^2\end{pmatrix}

(adbc)I=(adbc00adbc)(ad-bc)I=\begin{pmatrix}ad-bc&0\\0&ad-bc\end{pmatrix}

これらを全て足すと確かにゼロ行列になる。

三次の場合

AA が3×3行列の場合は固有多項式 det(AλI)\det(A-\lambda I)λ\lambda の三次多項式になります。計算はやや煩雑なので,結果のみ書いておきます。

サイズ3の場合

A3(trA)A2+cA(detA)I=OA^3-(\mathrm{tr}\:A)A^2+cA-(\det A)I=O

ただし,ccAA の二次の主小行列式の和: a11a22a12a21+a22a33a23a32+a11a33a13a31a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}+a_{22}a_{33}-a_{23}a_{32}+a_{11}a_{33}-a_{13}a_{31}

n次,対角化できる場合の証明

ケーリー・ハミルトンの定理を証明します。

証明

AAn×nn\times n 行列とし,その固有多項式を det(AλI)=ϕ(λ)\det (A-\lambda I)=\phi(\lambda) とおく。

λ\lambda の部分に AA を入れたものを ϕ(A)\phi(A) と書く(ϕ(λ)\phi(\lambda) は多項式,ϕ(A)\phi(A) は行列)。

AA が対角化できる場合

P1AP=diag(λ1,,λn)P^{-1}AP=\mathrm{diag}(\lambda_1,\cdots ,\lambda_n) なる正則行列 PP が存在する。ただし,diag(λ1,,λn)\mathrm{diag}(\lambda_1,\cdots ,\lambda_n) は対角行列で,対角成分には AA の固有値 λ1,,λn\lambda_1,\cdots,\lambda_n が並んだものである。

よって,任意の正の整数 kk に対して,P1AkP=diag(λ1k,,λnk)P^{-1}A^kP=\mathrm{diag}(\lambda_1^k,\cdots,\lambda_n^k) が分かる。

これらの線形結合をうまく取ることで,P1ϕ(A)P=diag(ϕ(λ1),,ϕ(λn))P^{-1}\phi (A)P=\mathrm{diag}(\phi(\lambda_1),\cdots,\phi(\lambda_n)) となるが,λi\lambda_iAA の固有値なので ϕ(λi)=0\phi(\lambda_i)=0 である。よって,上式の右辺はゼロ行列。

つまり,P1ϕ(A)P=OP^{-1}\phi (A)P=O より,ϕ(A)=O\phi(A)=O

・対角化できない場合

摂動を加えると対角化できる場合に帰着できる。摂動 0\to 0 の極限を考えればOK(det\det は連続関数)。

対角化できない場合をごまかしました。完璧な証明をご所望の方は線形代数の本を参照して下さい。

高校数学で行列を扱っていたころは,2×2のケーリー・ハミルトンが活躍していました。

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