三重対角行列の特殊形の固有値は綺麗

(12000345000678000910110001213)\begin{pmatrix}1&2&0&0&0\\3&4&5&0&0\\0&6&7&8&0\\0&0&9&10&11\\0&0&0&12&13\end{pmatrix} のように,

対角成分とそれに隣接する成分(副対角成分)以外が 00 であるような正方行列を三重対角行列と言う。

三重対角行列について

三重対角行列の例

やや抽象的ですが「自分と自分の両隣の現在の値の重みつき和」が1ステップ先の状態となるような系を,行列を用いて表現すると,三重対角行列が登場します。

なんとなく応用数学や物理で登場しそうな気がしますね。

三重対角行列は一般の行列よりも扱いやすいです。例えば,漸化式を用いることで行列式が O(n)O(n) で計算できます。Tridiagonal matrix (Wikipedia)

特殊形の固有値(前半)

三重対角行列の中でも対角成分が全て aa,副対角成分が全て bb であるようなものを T(a,b)T(a,b) と書くことにします。

この記事の残りでは T(a,b)T(a,b) の固有値,固有ベクトルについて考えます(美しいですよ!)。 →固有値,固有ベクトルの定義と具体的な計算方法

補題

xundefined\overrightarrow{x}T(0,1)T(0,1) の固有値 λ\lambda に対する固有ベクトルとする。

このとき,xundefined\overrightarrow{x}T(a,b)T(a,b) の固有値 a+bλa+b\lambda に対する固有ベクトルとなる。

つまり,T(0,1)T(0,1) の固有値と固有ベクトルが分かれば T(a,b)T(a,b) の固有値と固有ベクトルも分かるというわけです。

証明

同じサイズの単位行列を II とすると,

T(a,b)=aI+bT(0,1)T(a,b)=aI+bT(0,1)

となる。

よって,T(0,1)xundefined=λxundefinedT(0,1)\overrightarrow{x}=\lambda \overrightarrow{x} のとき,

T(a,b)xundefined=(a+bλ)xundefinedT(a,b)\overrightarrow{x}=(a+b\lambda)\overrightarrow{x}

となる。

特殊形の固有値(後半)

というわけで,サイズ nnT(0,1)T(0,1) の固有値と固有ベクトルについて考えてみましょう。

λi=2cos(iπn+1)\lambda_i=2\cos\left(\dfrac{i\pi}{n+1}\right)

xi,j=sin(ijπn+1)x_{i,j}=\sin\left(\dfrac{ij\pi}{n+1}\right)

とおくと,

i=1,2,,ni=1,2,\cdots,n に対して,xiundefined=(xi,1,xi,2,,xi,n)\overrightarrow{x_i}=(x_{i,1},x_{i,2},\cdots,x_{i,n})^{\top}T(0,1)T(0,1) の固有値 λi\lambda_i に対する固有ベクトルとなる。

固有値は単位円の上半分を n+1n+1 等分して xx 座標を見る(そして2倍する)というイメージです。三角関数が登場するのが面白いです。

証明

T(0,1)xiundefined=λixiundefinedT(0,1)\overrightarrow{x_i}=\lambda_i\overrightarrow{x_i}

を証明すればよい。

つまり,

  • xi,2=λixi,1x_{i,2}=\lambda_ix_{i,1}

  • xi,j1+xi,j+1=λixi,j(j=2,,n1)x_{i,j-1}+x_{i,j+1}=\lambda_ix_{i,j}\:(j=2,\cdots,n-1)

  • xi,n1=λixi,nx_{i,n-1}=\lambda_ix_{i,n}

を確認すればよい。

1つめは sin2θ=2sinθcosθ\sin 2\theta=2\sin\theta\cos\theta から分かる。2つめと3つめは三角関数の和積公式から分かる(xi,n+1=0x_{i,n+1}=0 より,3つめは2つめの特殊ケースとみなせる)。

なお,xiundefined\overrightarrow{x_i} の長さは n+12\sqrt{\dfrac{n+1}{2}} になります。位相が等差数列である三角関数の和の公式を使って計算できます。

ちなみに (123412541)\begin{pmatrix}1&2&3\\4&1&2\\5&4&1\end{pmatrix} のように左上右下ラインが同じ成分であるような行列を,テプリッツ行列と言います。記事の後半で扱った行列は「対称三重対角テプリッツ行列」です。