上の観察を一般化すると次の定理が得られます。
定理
A を n×n 行列とする。A は対角化可能であるとする。(→ ※)
n 次元ベクトルは,A の固有空間の元の和で表される。またその表示は一意である。
A の固有値を λ1,⋯,λk としたとき,
Cn=W(λ1)⊕⋯⊕W(λk)
と表現することもできる。
※ 対角化可能の条件は
- 固有値がすべて異なる。
- 最小多項式が重解を持たない。
などがあります。詳しくは 行列の対角化の意味と具体的な計算方法 をご覧ください。
固有空間による分解の例
例1
例
A=⎝⎛102210100⎠⎞ の固有空間による分解を調べていく。
固有多項式を計算する。
∣∣1−t0221−t010−t∣∣=(1−t)2(−t)−2(1−t)=(1−t)(t2−t−2)=(1−t)(t−2)(t+1)
より固有値は 1,2,−1 である。
それぞれの固有空間を計算しよう。
-
W(1)
⎩⎨⎧x+2y+z=xy=y2x=z
を解くことで
W(1)=⎩⎨⎧⎝⎛t−t2t⎠⎞∣t∈C⎭⎬⎫
を得る。
-
W(2)
⎩⎨⎧x+2y+z=2xy=2y2x=2z
を解くことで
W(2)=⎩⎨⎧⎝⎛t0t⎠⎞∣t∈C⎭⎬⎫
を得る。
-
W(−1)
⎩⎨⎧x+2y+z=−xy=−y2x=−z
を解くことで
W(−1)=⎩⎨⎧⎝⎛t0−2t⎠⎞∣t∈C⎭⎬⎫
を得る。
それでは実際に3次元ベクトルの分解を見よう。
⎝⎛214⎠⎞ は
⎝⎛214⎠⎞=⎝⎛−11−2⎠⎞+⎝⎛404⎠⎞+⎝⎛−102⎠⎞
と分解される。
今回の行列は固有値がすべて異なっていたため対角化可能です。よって,固有空間で分解することができたのです。
例2
次は固有値に重複がある場合を見てみましょう。
例
A=⎝⎛200−2416−6−1⎠⎞ の固有空間による分解を調べていく。
固有方程式を計算する。
∣∣2−t00−24−t16−6−1−t∣∣=(2−t)(4−t)(−1−t)+6(2−t)=(2−t){(4−t)(−1−t)+6}=(2−t)(t2−3t+2)=(2−t)(2−t)(1−t)
よって固有値は t=1,2 である。
それぞれの固有値の固有空間を計算する。
-
W(1)
⎩⎨⎧2x−2y+6z=x4y−6z=yy−z=z
を解くと y=2z,x=−2z を得るため
W(1)=⎩⎨⎧⎝⎛−2t2tt⎠⎞∣t∈C⎭⎬⎫
となる。
-
W(2)
⎩⎨⎧2x−2y+6z=2x4y−6z=2yy−z=2z
を解くと y=3z(x は任意)を得るため
W(2)=⎩⎨⎧⎝⎛s3tt⎠⎞∣s,t∈C⎭⎬⎫
となる。
前と同じベクトル ⎝⎛214⎠⎞ の分解を見る。
⎝⎛214⎠⎞=⎝⎛−222211⎠⎞+⎝⎛24−21−7⎠⎞
と分解される。
A の最小多項式は (t−1)(t−2) です。
実際,
A2−3A+2I=⎝⎛200−2416−6−1⎠⎞2−3⎝⎛200−2416−6−1⎠⎞+2I=⎝⎛400−610318−18−5⎠⎞−3⎝⎛200−2416−6−1⎠⎞+2I=O
であり,最小多項式が1次でないことは明らかなので,これが最小多項式となります。
例3
最後に固有空間で分解できない例を見て終わりにします。
対角化可能ではない行列の場合は分解ができるとは限りません。
例
A=⎝⎛1110−2−1−110⎠⎞ の固有空間を調べる。
固有方程式は
∣∣1−t110−2−t−1−11−t∣∣=(1−t)(−2−t)(−t)−(1−t)⋅1⋅(−1)+(−1)⋅1⋅(−1)−(−1)⋅1⋅(−2−t)=−t3−t2+2t+1−t+1−2−t=−t3−t2=−t2(t+1)
であるため,固有値は 0,−1 である。
-
W(−1)
⎩⎨⎧x−z=−xx−2y+z=−yx−y=−z
を解くと z=2x,y=3x より
W(1)=⎩⎨⎧⎝⎛t3t2t⎠⎞∣t∈C⎭⎬⎫
-
W(0)
⎩⎨⎧x−z=0x−2y+z=0x−y=0
を解くと x=y=z より
W(0)=⎩⎨⎧⎝⎛ttt⎠⎞∣t∈C⎭⎬⎫
である。
よって W(−1)⊕W(0)⊊C3 であり,ベクトルの分解をすることはできない。
今回の場合,最小多項式は t2(t+1) となり重解を含むため対角化ができず,固有空間による分解が出来なくなります。
最後の例も取り扱えるよう広義固有空間というものが定義されます。これは次回にしましょう。