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行列の無限等比級数

更新日時 2021/03/07

対角化可能な正方行列 AA について,全ての固有値が 1-1 より大きく 11 より小さいとき,

k=0Ak=I+A+A2+\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}A^k=I+A+A^2+\cdots

(IA)1(I-A)^{-1} に収束する。

行列の無限等比級数について考えます。記事の後半では,より一般的な主張を述べます。

目次
  • 部分和

  • 無限和

  • より一般的な定理

部分和

無限級数について考える前に,まずは項の数が有限の場合について考えてみます。

1+x+x2++xn1=1xn1x1+x+x^2+\dots +x^{n-1}=\dfrac{1-x^{n}}{1-x}

という等比数列の和の公式の行列版として(IAI-A に逆行列が存在するという条件のもとで),

I+A+A2++An1=(IAn)(IA)1I+A+A^2+\dots +A^{n-1}=(I-A^n)(I-A)^{-1}

という等式が成立します。

証明

(I+A++An1)(IA)=IAn(I+A+\cdots +A^{n-1})(I-A)=I-A^n

という式が成立することは,左辺を展開することで簡単に証明できる。

よって,(IA)(I-A) に逆行列が存在する場合は,両辺に (IA)1(I-A)^{-1} を右からかけて,

I+A+A2++An1=(IAn)(IA)1I+A+A^2+\dots +A^{n-1}=(I-A^n)(I-A)^{-1}

を得る。

無限和

AA が対角化可能であるという条件に注意して,冒頭の定理を証明してみましょう。

証明

まず,(IA)(I-A) が逆行列を持つことを確認する。

AA の固有値が 1-1 より大きく 11 より小さいので IAI-A の固有値は 00 より大きく 22 より小さい。よって,IAI-A は正則行列である(行列が正則であることの同値な条件と証明の5)。

次に,D=P1APD=P^{-1}AP のように対角化できるとすると,さきほどの部分和の式より

I+A+A2++An1=(IAn)(IA)1=P(IDn)P1(IA)1I+A+A^2+\dots +A^{n-1}\\ =(I-A^n)(I-A)^{-1}\\ =P(I-D^n)P^{-1}(I-A)^{-1}

となる。

ここで,AA の固有値が 1-1 より大きく 11 より小さいので DnD^nnn を大きくしていくと限りなく零行列 OO に近づく。よって,

k=0Ak=P(IO)P1(IA)1=(IA)1\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}A^k=P(I-O)P^{-1}(I-A)^{-1}\\ =(I-A)^{-1}

となる(※)。

※「高校数学ではイプシロンデルタを使わずに,限りなく近づく,という言葉でごまかした」と同じごまかしをしています。

→イプシロンデルタ論法とイプシロンエヌ論法

本当に厳密にやるには「行列が行列に限りなく近づくとはどういうことか」を考える必要があります。

より一般的な定理

任意の正方行列 AA について,以下の2つは同値。

  1. ρ(A)<1\rho(A)<1

  2. k=0Ak=I+A+A2+\displaystyle\sum_{k=0}^{\infty}A^k=I+A+A^2+\cdots(IA)1(I-A)^{-1} に収束

  • ρ(A)\rho(A)AA の絶対値最大固有値の絶対値です。AA のスペクトル半径と呼ばれることもあります。「全ての固有値が 1-1 より大きく 11 より小さい」を言い換えただけです。
  • AA が対角化不可能な場合にも,冒頭の主張は成り立ちます。証明にはジョルダン標準形を使います。
  • 冒頭の主張の逆も成立します。

詳細は参考文献:The Geometric Series of a Matrixをどうぞ。

「行列の等式だけど,1×11\times 1 行列の場合は普通の見慣れた公式になる」というタイプの式,好きです。

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