Hlawka's Inequality とその証明

Hlawka’s Inequality

任意の複素数 x,y,zx,\:y,\:z に対して, x+y+z+x+y+zx+y+y+z+z+x |x|+|y|+|z|+|x+y+z| \geq |x+y|+|y+z|+|z+x| が成立する。

Hlawka’s Inequality(フラカの不等式)について紹介します。

Hlawka’s Identity

Hlawka’s Inequality を証明する前に,関連する恒等式である Hlawka’s Identity(フラカの恒等式)を紹介します。

Hlawka’s Identity

任意の複素数 x,y,zx,\:y,\:z に対して, x2+y2+z2+x+y+z2=x+y2+y+z2+z+x2 |x|^2+|y|^2+|z|^2+|x+y+z|^2 = |x+y|^2+|y+z|^2+|z+x|^2 が成立する。

実際,両辺をそれぞれ展開すると,一致することが簡単に確認できます。

また,Hlawka’s Identity で z=yz=-y として整理すると, 2x2+2y2=x+y2+xy22|x|^2+2|y|^2=|x+y|^2+|x-y|^2 あるいは x2+y2=2x+y22+2xy22\displaystyle |x|^2+|y|^2=2\left|\frac{x+y}{2}\right|^2+2\left|\frac{x-y}{2}\right|^2 となり,中線定理(を複素数平面で表現したもの)と一致します。

Hlawka’s Inequality の証明

両辺2乗して,三角不等式を使います。Hlawka’s Identity を知っていると見通しが良いです。

証明

x=y=z=0x=y=z=0 のときは不等式は成立する。そうでないとき,両辺は正なので2乗しても大小関係は変わらない。

左辺の2乗は,

(x+y+z+x+y+z)2=x2+y2+z2+x+y+z2+2xy+2yz+2zx+2(x+y+z)x+y+z\begin{aligned} &(|x|+|y|+|z|+|x+y+z|)^2 \\ &=|x|^2+|y|^2+|z|^2+|x+y+z|^2\\ &\quad\quad +2|x||y|+2|y||z|+2|z||x|+2(|x|+|y|+|z|)|x+y+z| \end{aligned}

である。一方で右辺の2乗は,

(x+y+y+z+z+x)2=x+y2+y+z2+z+x2+2x+yy+z+2y+zz+x+2z+xx+y\begin{aligned} &(|x+y|+|y+z|+|z+x|)^2\\ &=|x+y|^2+|y+z|^2+|z+x|^2\\ &\quad\quad +2|x+y||y+z|+2|y+z||z+x|+2|z+x||x+y| \end{aligned}

となる。Hlawka’s Identity より,それぞれの1行目が打ち消し合う。さらに,xy=xy|x||y|=|xy| より,示したい不等式は, xy+yz+zx+z(x+y+z)+x(x+y+z)+y(x+y+z)(x+y)(y+z)+(y+z)(z+x)+(z+x)(x+y)\begin{aligned} &|xy|+|yz|+|zx|\\ &\quad\quad+|z(x+y+z)|+|x(x+y+z)|+|y(x+y+z)|\\ &\geq |(x+y)(y+z)|+|(y+z)(z+x)|+|(z+x)(x+y)| \end{aligned}

となる。

これは,以下の3つの三角不等式を足し上げることで導かれる:

xy+z(x+y+z)(z+x)(z+y)yz+x(x+y+z)(x+y)(x+z)zx+y(x+y+z)(y+x)(y+z) |xy|+|z(x+y+z)|\geq |(z+x)(z+y)|\\ |yz|+|x(x+y+z)|\geq |(x+y)(x+z)|\\ |zx|+|y(x+y+z)|\geq |(y+x)(y+z)|

AB+C(A+B+C)=(C+A)(C+B)AB+C(A+B+C)=(C+A)(C+B) という式はたまに使うので覚えておくとよいでしょう。

集合の要素数についての等式との関係

三角不等式

x+yx+y0 |x|+|y|-|x+y|\geq 0 と,集合の要素数についての公式から導かれる不等式:

AB=A+BAB0 |A\cup B|=|A|+|B|-|A\cap B|\geq 0 はなんとなく似ています。

Hlawka’s Inequality:

x+y+z+x+y+zx+yy+zz+x0 |x|+|y|+|z|+|x+y+z| -|x+y|-|y+z|-|z+x|\geq 0

と,集合の要素数についての公式から導かれる不等式:

ABC=A+B+C+ABCABBCCA0\begin{aligned} &|A\cup B\cup C|\\ &=|A|+|B|+|C|+|A\cap B\cap C| -|A\cap B|-|B\cap C|-|C\cap A|\geq 0 \end{aligned}

はなんとなく似ています。

※「または」と「かつ」を交換した等式:

ABC=A+B+C+ABCABBCCA0\begin{aligned} &|A\cap B\cap C|\\ &=|A|+|B|+|C|+|A\cup B\cup C|-|A\cup B|-|B\cup C|-|C\cup A|\geq 0 \end{aligned}

の方が,より Hlawka’s Identity に似ていると感じる方もいるでしょう。

包除原理の2通りの証明の記事末参照)

Hlawka’s Inequality の一般化

内積空間 VV とその任意の元 x,y,zVx,y,z\in V に対して,

x+y+z+x+y+zx+y+y+z+z+x\|x\|+\|y\|+\|z\|+\|x+y+z\| \geq \|x+y\|+\|y+z\|+\|z+x\|

(ただし,\|\cdot\| は内積により誘導されるノルム)

参考文献:

[1]Hlawka’s Inequality

[2]CONVEX FUNCTIONS AND THEIR APPLICATIONS P101

基本的には3変数で対称な不等式が好きですが,こういう違うタイプの不等式も楽しいです。