包除原理の2通りの証明
見た目がごついですが,とてもおもしろい公式です。包除原理の意味・証明・応用例を紹介します。
包除原理の意味
包除原理の意味
- 包除原理は,集合の要素数に関する等式です。
- の場合はおなじみの式になります:
- の場合もおなじみです:
- 包除原理の左辺は, 個の集合の「または」の要素数です。右辺の各項は「かつ」の要素数です。「または」を「かつ」に変換する公式と言えます。場合の数や確率の問題では,「AまたはB」という条件は「AかつB」よりも扱いにくいことが多いです。そのような場合に包除原理を用いて「または」を「かつ」に変換できます。
- 右辺を日本語で書くとわかりやすいです:
包除原理を自分で作る
包除原理を自分で作る
「または」を「かつ」に変換する包除原理を自分で作ってみましょう。
「 または 」が扱いにくいので,扱いやすい「」や「 かつ 」を用いてどう表されるか考えます。
対称性から,うまくいくとしたら, と表されることがわかります。
ベン図を見ながら を求めます。
- 図の1の部分が右辺でも1回カウントされる:
- 図の2の部分については:
よって, が分かります。
次に, の場合です。
「 または または 」が扱いにくいので,扱いやすい「」や「 かつ 」や「 かつ かつ を用いてどう表されるか考えます。
対称性から,
と表されることは分かるので,ベン図を見ながら を求めます。
- 図の1の部分が右辺でも1回カウントされる:
- 2の部分については:
- 3の部分については:
よって,,, が分かります。
同じ流れで一般の について包除原理を導けます。
包除原理の証明1:二項定理による方法
包除原理の証明1:二項定理による方法
さきほどの議論の順番を工夫してスマートに証明します。
包除原理の右辺で「集合ちょうど 個の共通部分」が何回現れているかを数え,それがどんな に対しても1に等しいことを示す。
まず,右辺第一項で 回足され,第二項で 回引かれ,第三項で 回足され, なので,
数えたい回数は, である。
一方,二項定理より,
よって, となり包除原理が示された。
包除原理の証明2:数学的帰納法による方法
包除原理の証明2:数学的帰納法による方法
集合の数が 個の場合に包除原理が成立すると仮定して 個の場合にも成立することを示します。 の場合の包除原理を使って帰納法の仮定が使えるように変形して3つの項をそれぞれ計算します。
の場合は簡単なので省略,帰納法で示す。
第一項と第三項を帰納法の仮定を用いて計算:
-
第一項
-
第二項
-
第三項
3つの項を加える事により,包除原理が証明される:
包除原理の応用
包除原理の応用
「または」と「かつ」を交換した包除原理
「または」と「かつ」を交換した包除原理
実は「または」と「かつ」を交換した包除原理も成立します:
より一般に,
一般の場合も同様なので,集合が3つの場合について証明する。全体集合を
として,それぞれの補集合に「普通の包除原理」を適用する:
ド・モルガンの法則を使うと「または」と「かつ」がひっくり返る:
最後にそれぞれの項について,補集合の要素数公式 を使うと,求める公式になる。
「または」と「かつ」を交換した包除原理は,読者の方に教えていただくまで知りませんでした!