自然対数の底(ネイピア数)の定義:収束することの証明

ネイピア数の定義

数列 an=(1+1n)na_n=\left(1+\dfrac{1}{n}\right)^nnn \to \infty での極限は存在する。その値を自然対数の底(ネイピア数)と呼び,ee と書く。

自然対数の底(ネイピア数) ee の定義についてくわしく説明します。前半では定義式とその性質をわかりやすく紹介し,後半では極限が存在する(収束する)ことを証明します。

自然対数の底(ネイピア数) ee の定義

自然対数の底(ネイピア数)ee は,以下の極限で定義されます。

自然対数の底eの定義1

e=limn(1+1n)n e = \lim_{n \to \infty} \left (1+\dfrac{1}{n} \right)^{n}

実は,nn\to-\infty(負の無限大)とした場合も同じ値に収束することが知られています。つまり,以下を ee の定義としてもよいです。

自然対数の底(ネイピア数)eの定義2

e=limn(1+1n)n e = \lim_{n \to -\infty} \left (1+\dfrac{1}{n} \right)^{n}

また,上記の定義で n=1xn = \dfrac{1}{x} とおいた以下の式を定義と考えることもできます。

自然対数の底eの定義3

e=limx0(1+x)1x e = \lim_{x \to 0} (1+x )^{\frac{1}{x}}

ee の値

ee の具体的な値は, e=2.71828182845... e = 2.71828182845...

となります。

  • e2.7e\fallingdotseq 2.7 までは覚えておきましょう。検算などで役立ちます。
  • それ以上覚えてもあまり役立ちませんが, 「フナ一鉢二鉢一鉢二鉢至極惜しい」という有名な覚え方があります。

なぜ「自然対数の底」というのか?

ax=ba^x=b を満たす xx のことを logab\log_a b と書き,対数 と呼ぶのでした。

このうち底が ee である logeb\log_e b なるものを自然対数といいます。これが何故自然なのかというと

  • (logex)=1x(\log_e x)' = \dfrac{1}{x} というシンプルな微分公式がある
  • loge(1+x)=x12x2+13x3\log_e (1+x)=x-\dfrac{1}{2}x^2+\dfrac{1}{3}x^3\cdots ときれいに展開できる。

→ 数学のいろいろな場所に自然に登場するからです。

ee に関する重要な極限公式

ee に関する極限の公式を紹介します。数3で超頻出です。

公式
  1. limx0ex1x=1\displaystyle \lim_{x \to 0} \dfrac{e^x-1}{x} =1

  2. limx0xlog(1+x)=1\displaystyle \lim_{x \to 0} \dfrac{x}{\log{(1+x)}} =1

指数関数と対数関数の極限の公式 で詳しく説明してありますので,ぜひご覧ください。

eの著しい性質

微分公式

ネイピア数 ee の最も重要な特徴として「指数関数 exe^x の微分が自分自身に一致する」ことが挙げられます。つまり,

ddxex=ex \dfrac{d}{dx}e^x = e^{x}

です。

証明

微分の定義より, ddxex=limh0ex+hex(x+h)x=exlimh0eh1h=ex \dfrac{d}{dx}e^x = \lim_{h \to 0} \dfrac{e^{x+h}-e^x}{(x+h)-x} \\ =e^x \lim_{h \to 0} \dfrac{e^h -1}{h} =e^x

最後の式変形には,上述の極限公式を用いた。

微分しても自分自身と同じものとなるということは,当然自身を積分してもまた元通りになるということです。

無理数であること

ee無理数です。

詳しい証明は ネイピア数eが無理数であることの証明 をご覧ください。

ee超越数(複素数係数の方程式の解にならない)であることも知られています。

詳しくは 超越数の意味といくつかの例 をご覧ください。

【発展】自然対数の底の収束:数列

自然対数の底 ee の(同値な)定義はいくつかありますが,上記の定義1 e=limn(1+1n)ne=\displaystyle\lim_{n\to\infty}\left(1+\dfrac{1}{n}\right)^n が広く知られています。しかし,高校数学では数列 an=(1+1n)na_n=\left(1+\dfrac{1}{n}\right)^n の極限が存在することを認めて進んでしまう場合が多いです。

そこで,このページでは「ana_n が収束すること」をきちんと証明します。

以下の3ステップで証明します。

定理1:単調増加で上に有界な数列は収束する

定理2:ana_n は単調増加

定理3:ana_n は上に有界

後で説明するように,定理1は高校数学の範囲で厳密な証明はできませんが,直感的には納得できる事実です。定理2と3は証明方法も美しく入試問題のテーマとしてちょうどよい難易度なのでオススメです。

定理1:単調で有界なら収束する

「上から抑えられている増え続ける数列は収束する」というのは直感的には当たり前です。同様に「下から抑えられている減り続ける数列は収束する」というのも成立します。

この場合の単調性は広義単調でOKです。つまり an<an+1a_n< a_{n+1} という強い条件が成立していなくても anan+1a_n\leq a_{n+1} という条件でOKです。 こんなの証明するまでもなく自明だと感じられるかもしれませんが,厳密に証明するには実数の連続性の公理を使って収束先が実数から飛び出さないことを言う必要があります。

有理数の世界では単調有界でも収束しないこともある!

2\sqrt{2} の近似数列 a1=1,a2=1.4,a3=1.41,a_1=1,a_2=1.4,a_3=1.41,\cdots は単調増加で上に有界だが収束先は 2\sqrt{2} となり有理数の世界から飛び出している。

定理2:ana_n は単調増加

anan+1a_n\leq a_{n+1} であること,つまり (1+1n)n(1+1n+1)n+1\left(1+\dfrac{1}{n}\right)^n\leq\left(1+\dfrac{1}{n+1}\right)^{n+1} であることを,4通りの方法で証明します。

証明1

二項定理を使って展開し,各項を比較する。

an=k=0nnCknkan+1=k=0nn+1Ck(n+1)k+1(n+1)n+1\begin{aligned} a_n &= \sum_{k=0}^n\dfrac{{}_n\mathrm{C}_{k}}{n^k}\\ a_{n+1} &= \sum_{k=0}^n\dfrac{{}_{n+1}\mathrm{C}_{k}}{(n+1)^k}+\dfrac{1}{(n+1)^{n+1}} \end{aligned}

よって,nCknkn+1Ck(n+1)k\dfrac{{}_n\mathrm{C}_{k}}{n^k}\leq\dfrac{{}_{n+1}\mathrm{C}_{k}}{(n+1)^k} を示せば十分。

分母を払って二項係数を整理した不等式:

(n+1)kn!k!(nk)!nk(n+1)!k!(nk+1)! (n+1)^{k}\dfrac{n!}{k!(n-k)!}\leq n^k\dfrac{(n+1)!}{k!(n-k+1)!}

つまり

(n+1)k1(nk+1)nk (n+1)^{k-1} (n-k+1) \leq n^k

を示せば十分。

これは,(k1)(k-1) 個の (n+1)(n+1)11 個の (nk+1)(n-k+1)相加相乗平均の不等式を使うことで証明できる:

(k1)(n+1)+(nk+1)k(n+1)k1(nk+1)k\begin{aligned} &(k-1)(n+1)+(n-k+1)\\ &\geq k\sqrt[k]{(n+1)^{k-1} (n-k+1)} \end{aligned}

証明2

証明1の途中で出てきた nCknkn+1Ck(n+1)k\dfrac{{}_n\mathrm{C}_{k}}{n^k}\leq\dfrac{{}_{n+1}\mathrm{C}_{k}}{(n+1)^k} を相加相乗平均の不等式を使わずに示す。

f(n)=nCknk=1k!n(n1)(nk+1)nk=1k!1(11n)(12n)(1k1n)\begin{aligned} f(n)&=\dfrac{{}_n\mathrm{C}_k}{n^k}\\ &=\dfrac{1}{k!}\dfrac{n(n-1)\cdots(n-k+1)}{n^k}\\ &=\dfrac{1}{k!}\cdot 1\cdot \left(1-\dfrac{1}{n}\right)\left(1-\dfrac{2}{n}\right)\cdots\left(1-\dfrac{k-1}{n}\right) \end{aligned}

カッコは k1k-1 個ある。この各カッコの部分は nn に関する増加関数なので,f(n)<f(n+1)f(n) < f(n+1) である。

証明2は読者の方に教えていただきました。

証明3

二項定理を使わずに,直接証明する方法もある。

nn 個の n+1n\dfrac{n+1}{n}11 個の 11 に相加相乗平均の不等式を用いると,

n+1nn+1n+1>(n+1n)nn+1 \dfrac{\frac{n+1}{n}\cdot n+1}{n+1} > \sqrt[n+1]{\left(\dfrac{n+1}{n} \right)^n}

この式を整理すると an+1>ana_{n+1} > a_n となる。

証明3は,微積分/基礎の極意という本で知り,感動した記憶があります。

証明4

数列をつなげた関数 f(x)=(1+1x)xf(x)=\left(1+\dfrac{1}{x} \right)^x を考えて,微分して不等式を示すという方針。このままでは計算しにくいので対数を取ってから微分する。

g(x)=xlog(1+1x)=xlog(1+x)xlogxg(x)=x\log\left(1+\dfrac{1}{x} \right)\\ =x\log(1+x)-x\log x

x>0x > 0 での単調増加性を示せばよい。

g(x)=log(1+x)+x1+xlogx1=log(1+x)logx11+x\begin{aligned} g'(x)&=\log(1+x)+\dfrac{x}{1+x}-\log x-1\\ &=\log(1+x)-\log x-\dfrac{1}{1+x} \end{aligned}

g(x)=11+x1x+1(1+x)2=x(1+x)(1+x)2+xx(1+x)2=1x(x+1)2<0\begin{aligned} g''(x)&=\dfrac{1}{1+x}-\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{(1+x)^2}\\ &=\dfrac{x(1+x)-(1+x)^2+x}{x(1+x)^2}\\ &= -\dfrac{1}{x(x+1)^2}< 0 \end{aligned}

となり,g(x)g'(x) は減少関数で limxg(x)=0\displaystyle\lim_{x\to\infty}g'(x)=0 なので,x>0x > 0g(x)>0g'(x) > 0 が分かる。よって g(x)g(x) は単調増加。

証明4はわりと自然なのですが,「自然対数の底の存在を示す!」というこのページの目標を考えると,上記の定理の証明で対数関数の微分を用いるのは循環論法に陥っているので,良い証明とは言えないかもしれません。

→高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~のT95でも,この証明に関する補足をしています。

定理3:ana_n は上に有界

方針

二項定理を用いて ana_n を評価します。具体的な値で上からおさえるためには等比数列を作りだす必要があります。

証明

二項定理より,

an=(1+1n)n=k=0nnCk1nk=k=0n1k!1(11n)(12n)(1k1n)k=0n1k!1+1+12+122+123+1+1112=3\begin{aligned} a_n&=\left(1+\dfrac{1}{n} \right)^n\\ &= \sum_{k=0}^n{}_n\mathrm{C}_{k}\dfrac{1}{n^k}\\ &= \sum_{k=0}^n\dfrac{1}{k!}1\cdot\left(1-\dfrac{1}{n} \right)\cdot\left(1-\dfrac{2}{n} \right)\cdots\left(1-\dfrac{k-1}{n} \right)\\ &\leq \sum_{k=0}^n\dfrac{1}{k!}\\ &\leq 1+1+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2^2}+\dfrac{1}{2^3}+\cdots\\ &\leq 1+\dfrac{1}{1-\tfrac{1}{2}}=3 \end{aligned}

ana_n が上に有界であることを示した副産物として,ネイピア数が3より小さいことも示せました。

ちなみに,私は 2.71828」「18282.7「1828」「1828」 まで覚えやすいので丸暗記しています。

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