超越数の意味といくつかの例

超越数とは,代数方程式の解ではない数のこと。 超越数

超越数の意味と例を紹介します。例として ee が超越数であることの証明も説明します。

超越数とは

  • 「有理数係数多項式 =0=0」という形の方程式を代数方程式と言います。
  • つまり,複素数 α\alpha が超越数であるとは,どのような有理数係数多項式
    P(x)=qnxn+qn1xn1++q1x+q0P(x)=q_nx^n+q_{n-1}x^{n-1}+\cdots+q_1x+q_0(各 qiq_i は有理数で,00 でない qiq_i が存在)
    に対しても P(α)0P(\alpha)\neq 0 であるという意味です。
  • 有理数は超越数ではありません。有理数 qp\dfrac{q}{p}pxq=0px-q=0 という一次方程式の解だからです。
  • 無理数でも超越数とは限りません。例えば 2\sqrt{2}x22=0x^2-2=0 という二次方程式の解なので超越数ではありません(二次方程式の解である無理数を二次の無理数と言います)。無理数と超越数を混同する人が多いので注意して下さい。

超越数の例

  • 自然対数の底 ee(証明は後述)
  • 円周率 π\pi
  • 00 でない代数的数 θ\theta に対する sinθ,cosθ,tanθ\sin\theta,\cos\theta,\tan\theta
    (この二つが超越数であることは,リンデマンの定理という飛び道具から分かる)
  • 222^{\sqrt{2}}
  • eπe^{\pi}(ゲルフォントの定数)
    (この二つが超越数であることは,ゲルフォント=シュナイダーの定理という飛び道具から分かる)
  • リウヴィル数
  • チャンパーノウン定数

eが超越数であることの証明

自然対数の底eが超越数であることの証明は簡単ではありませんが,一応高校数学のみで理解できます。概略を紹介します。 The Transcendence of e and πを参考にしました。

証明の概略

ee が超越数でないと仮定する。

このとき,うまく整数 r,a0(0),a1,,arr,a_0\:(\neq 0),a_1,\cdots,a_r を選ぶと

a0+a1e+a2e2++arer=0a_0+a_1e+a_2e^2+\cdots +a_re^r=0 とできる(*)。

次に,十分大きい素数 pp を用いて f(x)=xp1(x1)p(x2)p(xr)pf(x)=x^{p-1}(x-1)^p(x-2)^p\cdots (x-r)^pI(t)=0tetuf(u)duI(t)=\displaystyle\int_0^te^{t-u}f(u)du とおき,J=a0I(0)+a1I(1)++arI(r)J=a_0I(0)+a_1I(1)+\cdots +a_rI(r) という数を考える。

pp が十分大きいとき,以下の不等式1,2は矛盾する(階乗の方が指数関数より強い)。よって背理法により ee は超越数である。

1. J(p1)!|J|\geq (p-1)!

証明: f(x)f(x) の次数を n=(r+1)p1n=(r+1)p-1 とおく。 I(t)I(t) は指数関数× nn 次式の積分なので nn 回部分積分すれば計算できる。結果は,I(t)=etj=0nf(j)(0)j=0nf(j)(t)I(t)=e^t\displaystyle\sum_{j=0}^nf^{(j)}(0)-\sum_{j=0}^nf^{(j)}(t)

となる。よって,

J=t=0ratI(t)=j=0nf(j)(0)t=0ratett=0rj=0natf(j)(t)J=\displaystyle\sum_{t=0}^ra_tI(t)\\ =\displaystyle\sum_{j=0}^nf^{(j)}(0)\sum_{t=0}^ra_te^t-\sum_{t=0}^r\sum_{j=0}^na_t\:f^{(j)}(t)

ここで,第一項は(*)より 00 になる。

また,ライプニッツルールを用いて f(j)(t)f^{(j)}(t) を実際に計算すると,j=p1,  t=0j=p-1,\;t=0 のときは (p1)!(1)rp(r!)p(p-1)!(-1)^{rp}(r!)^p となり,残りは p!p! の倍数(00 も含む)となる。

よって,JJ(p1)!(p-1)! の倍数であり,p!p! の倍数ではない。

2. 11 より大きい(pp には依存しない)実数 cc が存在して,Jc(rr+1)p|J| \leq c (r^{r+1})^p

証明: f(x)f(x) の定義より,0xr0\leq x\leq r のとき f(x)r(r+1)p|f(x)|\leq r^{(r+1)p}

これと I(t)I(t) の定義より,0tr0\leq t\leq r のとき I(t)tetr(r+1)pI(t) \leq te^tr^{(r+1)p}

これと JJ の定義より, J(a1e1+2a2e2+rarer)r(r+1)p |J| \leq (a_1 e^1 + 2a_2 e^2 + \cdots ra_r e^r) r^{(r+1) p}

c=(a1e1+2a2e2+rarer)c = (a_1 e^1 + 2a_2 e^2 + \cdots ra_r e^r) とすると,これは pp によらない定数であり, Jc(rr+1)p|J| \le c \cdot (r^{r+1})^p となる。

eが無理数であることの証明よりだいぶ難しいです。

リンデマンの定理とゲルフォント=シュナイダーの定理

先ほど少し紹介したリンデマンの定理ゲルフォント=シュナイダーの定理を紹介します。証明はガロア理論が必要なので省きます。

リンデマンの定理

リンデマンの定理

a1,a2,,ana_1 , a_2 , \cdots , a_n を相異なる代数的数とする。

c1ea1+c2ea2++cnean=0 c_1 e^{a_1} + c_2 e^{a_2} + \cdots + c_n e^{a_n} = 0 を満たす代数的数の組 c1,c2,,cnc_1 , c_2, \cdots , c_nc1==cn=0c_1 = \cdots = c_n = 0 のみである。

また,次の簡易版リンデマンの定理が知られています。

簡易版リンデマンの定理

代数的数 aa に対して,eae^a は超越数である。

先ほどの例を振り返ってみましょう。

  • e=e1e = e^1 より ee は超越数です。
  • 00 でない代数的数 θ\theta に対して,sinθ\sin \theta が代数的数と仮定しましょう。
    オイラーの公式 より 2isinθ=(eiθeiθ)2i \sin \theta = (e^{i\theta} - e^{-i\theta}) です。
    移項することで 2isinθe0eiθ+eiθ=02i \sin \theta e^{0} - e^{i\theta} + e^{-i\theta} = 0 となりますが,リンデマンの定理で n=3,a1=0,a2=iθ,a3=iθn = 3 , a_1 = 0 , a_2 = i \theta , a_3 = -i\theta としたときに反します。
    よって sinθ\sin \theta は超越数です。
  • 代数的数 aa に対して loga\log a は超越数です。eloga=ae^{\log a} = a と背理法により従います。

ゲルフォント=シュナイダーの定理

ゲルフォント=シュナイダーの定理

α\alpha0,10,1 ではない代数的数,β\beta を有理数ではない代数的数とする。

このとき αβ\alpha^\beta は超越数である。

  • 定理より 222^{\sqrt{2}} は超越数です。
  • eπ=(eiπ)1i=(eiπ)i=(1)ie^{\pi} = (e^{i\pi})^{\frac{1}{i}} = (e^{i\pi})^{-i} = (-1)^{-i} となります。定理において α=1,β=i\alpha = -1 , \beta = -i とおくことで,eπe^{\pi} が超越数であることが示されます。

「ゲルフォントシュナイダー」という名前,かっこいいですね。