相加相乗平均の不等式:意味・例題・おもしろい証明

相加相乗平均の不等式についてくわしく解説します。 相加相乗平均の不等式

相加平均相乗平均の意味からはじめて,応用問題・n変数の証明まで紹介します。

相加平均・相乗平均

  • 2つの正の数 a,ba,b に対して,a+b2\dfrac{a+b}{2} のことを相加平均と言います。「普通の平均」です。
  • 一方,ab\sqrt{ab} のことを相乗平均と言います。
  • 2288相加平均2+82=5\dfrac{2+8}{2}=5
  • 2288相乗平均2×8=16=4\sqrt{2\times 8}=\sqrt{16}=4 相加相乗平均の不等式の例

この例では,相加平均55 で,相乗平均44 よりも大きいです。実は,これはいつでも成立します。

相加相乗平均の不等式

相加平均\geqq相乗平均
つまり,すべての a,b>0a,b>0 に対して a+b2ab\dfrac{a+b}{2}\geqq\sqrt{ab}

「相加平均・相乗平均の不等式」「AM-GM不等式」など他にもいろいろな言い方があります。

等号成立条件

相加相乗平均の不等式において,等号が成立する必要十分条件は,a=ba=b です。

  • a=ba=b のとき,相加平均は a+a2=a\dfrac{a+a}{2}=a,相乗平均は a×a=a\sqrt{a\times a}=a で同じ値になります。

  • 逆に「等号を満たすなら a=ba=b である」ことは,後述の証明を読めばわかります。

相加相乗平均の不等式の証明(2変数)

証明

(ab)20(\sqrt{a}-\sqrt{b})^2\geqq 0

は明らかに成立。左辺を展開すると,

a+b2ab0a+b-2\sqrt{ab}\geqq 0

移項して 22 で割ると,

a+b2ab\dfrac{a+b}{2}\geqq\sqrt{ab}

となり相加相乗平均の不等式を得る。

等号成立条件は,ab=0\sqrt{a}-\sqrt{b}=0,つまり a=ba=b

応用問題

  • 相加相乗平均の不等式の a+b2ab\dfrac{a+b}{2}\geqq\sqrt{ab} の両辺を2倍して a+b2aba+b\geqq 2\sqrt{ab} という形で使われることが多いです。
例題

x>0x>0 のとき,x+9x6x+\dfrac{9}{x}\geqq 6 を証明せよ。

解答

a=x,b=9xa=x,b=\dfrac{9}{x} とした相加相乗平均の不等式より,x+9x2x×9x=6x+\dfrac{9}{x}\geqq 2\sqrt{x\times\dfrac{9}{x}}=6

このように,かけ算して定数になるような2つの数に対して相加相乗平均の不等式が使われることが多いです。

他の応用例

3変数・n変数への拡張

相加相乗平均の不等式(3変数)

a,b,c0a, b, c \geqq 0 のとき, a+b+c3abc3 \dfrac{a+b+c}{3} \geqq \sqrt[3]{abc} が成立する。等号成立条件は,a=b=ca=b=c

左辺が相加平均で,右辺が相乗平均です。3変数の場合の証明は,因数分解の公式とテクニック一覧の記事の後半で紹介しています。

相加相乗平均の不等式(n変数)

a1,a2,,an0a_1, a_2, \cdots, a_n \geqq 0 のとき, 1ni=1naii=1nain \dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n a_{i} \geqq \sqrt[n]{\prod_{i=1}^n a_i} が成立する。等号成立条件は, a1=a2==ana_1=a_2=\cdots=a_n

ただし,n\sqrt[n]{\:}nn 乗根を表し,i=1nai\displaystyle{{\prod_{i=1}^n a_i}}a1a_1 から ana_n までの全ての積を取ったものを表します。

相加相乗平均の不等式の証明(n変数)

相加相乗平均の不等式はとても有名であり,証明方法はたくさんあります。例えば,

  • 一般的な数学的帰納法を用いる方法
  • forward-backward-induction(双方向帰納法)を用いる方法
  • (左辺)ー(右辺)を ana_n の関数だと思って微分する方法
  • 指数関数を用いる方法

などがあります(参照:wikipedia)。

今回はその中でも,個人的に好きな「指数関数を用いる方法」を紹介します。

※数Ⅲの知識が必要です。見やすくするために exe^x のことを exp(x)\exp(x) と書きます。

証明

指数関数の有名な不等式

exx+1() e^x\geqq x+1 \quad\cdots\cdots (\ast)

を用いる。この不等式は有名なマクローリン型不等式である。

表記簡略化のため, m=1ni=1nai\displaystyle m=\dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^{n}a_i とおき,x=aim1x=\dfrac{a_i}{m}-1()(\ast) に代入する。

exp(aim1)aim \exp\left( \dfrac{a_i}{m}-1 \right) \geqq \dfrac{a_i}{m}

この式を i=1i=1 から nn までつくり辺々掛け合わせると以下のようになる。

exp(1mi=1nain)1mni=1nai \exp \left( \dfrac{1}{m} \sum_{i=1}^{n} a_{i} -n \right) \geqq \dfrac{1}{m^n}\prod_{i=1}^n a_i

上の不等式において,左辺の指数の中身は mm の定義より 00 と等しいので以下の式を得る。

mni=1nai m^n \geqq {\displaystyle \prod_{i=1}^n a_i}

両辺の nn 乗根をとると

1ni=1naii=1nain \dfrac{1}{n} \sum_{i=1}^n a_{i} \geqq \sqrt[n]{\prod_{i=1}^n a_i}

となる。

次に等号成立条件について考える。()(\ast) の等号成立条件は x=0x=0 である。つまり,全ての ii に対して aim1=0\dfrac{a_i}{m}-1=0 が成立することであり,これは a1=a2==ana_1=a_2=\cdots=a_n であることと同値である。

横浜市立大学や徳島大学の入試問題として,この証明に関連する出題があったようです。

相加平均は一般的によく使う平均です。算術平均とも言います。相乗平均は「成長率」や「収益率」の計算のときなどに使います。幾何平均とも言います。

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