相加相乗平均の不等式を用いて関数の最小値を求める

相加相乗平均の不等式を用いて関数の最小値を求めるテクニックを紹介します。

相加相乗平均の不等式の活用(基礎)

00 以上の実数 a,ba,b に対して,a+b2ab\dfrac{a+b}{2} \geqq \sqrt{ab} が成立します。a=ba=b の場合にのみ等号が成立します。

これを相加相乗平均の不等式と言います。詳細は→相加相乗平均の不等式(AM-GM不等式)

相加相乗平均の不等式を用いて,特殊な形の関数の最小値を求めることができます。

例題1

x+1xx+\dfrac{1}{x}x>0x>0 における最小値を求めよ。

解答

xx1x\dfrac{1}{x} に相加相乗平均の不等式を使うと,

x+1x2x1x=2 x+\dfrac{1}{x} \geqq 2\sqrt{x\cdot\dfrac{1}{x}}=2

そして,等号成立条件は x=1xx=\dfrac{1}{x},つまり x=1x=1

よって,x=1x=1 のとき最小値2を取る。

このように,「かけ算したら変数が消えて定数になる」ような数たちに相加相乗平均の不等式を使うとうまくいきます。

相加相乗平均の不等式の活用(応用)

3つの数に対しても,相加相乗平均の不等式が成立します。つまり, 00 以上の実数 a,b,ca,b,c に対して,a+b+c3abc3\dfrac{a+b+c}{3} \geqq \sqrt[3]{abc} が成立します。a=b=ca=b=c の場合にのみ等号が成立します。

例題2

f(x)=x+1x2f(x)=x+\dfrac{1}{x^2}x>0x>0 の範囲での最小値とそのときの xx を求めよ。

xx1x2\dfrac{1}{x^2} はそのままかけ算しても定数になりません。相加相乗平均の不等式を活用するために「かけ算して定数になる数字たち」に分解します。

解答

x+1x2=x2+x2+1x2 x+\dfrac{1}{x^2}=\dfrac{x}{2}+\dfrac{x}{2}+\dfrac{1}{x^2}

と分解する。右辺の3つの数に相加相乗平均の不等式を適用すると,

x2+x2+1x23x2x21x23=3143\begin{aligned} &\dfrac{x}{2}+\dfrac{x}{2}+\dfrac{1}{x^2}\\ &\geqq 3\sqrt[3]{\dfrac{x}{2}\cdot \dfrac{x}{2}\cdot \dfrac{1}{x^2}}\\ &=3\sqrt[3]{\dfrac{1}{4}} \end{aligned}

等号成立条件は,x2=1x2\dfrac{x}{2}=\dfrac{1}{x^2} つまり x=23x=\sqrt[3]{2} のとき。

一般形

例題2までの方法を一般化します。

f(x)=axm+bxn(x>0)f(x)=ax^m+bx^{-n}\:(x > 0) (ただし m,nm,n は正の有理数で a,b>0a,b > 0)という関数の最小値は,相加相乗平均の不等式を使って求めることができる。

具体的には,nn 個の anxm\dfrac{a}{n}x^mmm 個の bmxn\dfrac{b}{m}x^{-n},つまり 積が定数になるように調節した (m+n)(m+n) 個の非負の数に相加相乗平均の不等式を用いる というものです。この説明は m,nm,n が整数のときのみ通用しますが,一般の有理数に対しても同様の手法が使えます。

実用上は微分法だけ知っていれば問題ありませんが,この方法を覚えると以下の様な嬉しい事があります。

  • 微分法を用いるよりも若干速く解ける
  • 検算に使える
  • 楽しい

さらに,この考え方を工夫すると「分母が二次,分子が一次」の分数関数の極値を求めることもできます。→分数関数の極値を求める2つのテクニック

また,a,b<0a,b < 0 の場合は関数の最大値を求めることができます:

例題3

f(x)=x21xf(x)=-x^2-\dfrac{1}{\sqrt{x}} の最大値とそのときの xx を求めよ。

解答

x2+1x=x2+14x+14x+14x+14x5x214x14x14x14x5=54455=5445\begin{aligned} &x^2+\dfrac{1}{\sqrt{x}}\\ &=x^2+\dfrac{1}{4\sqrt{x}}+\dfrac{1}{4\sqrt{x}}+\dfrac{1}{4\sqrt{x}}+\dfrac{1}{4\sqrt{x}}\\ &\geqq 5\sqrt[5]{x^2\cdot \dfrac{1}{4\sqrt{x}} \cdot\dfrac{1}{4\sqrt{x}}\cdot\dfrac{1}{4\sqrt{x}}\cdot\dfrac{1}{4\sqrt{x}}}\\ &=5\sqrt[5]{\dfrac{4}{4^5}}\\ &=\dfrac{5}{4}\sqrt[5]{4} \end{aligned}

等号成立条件は,x2=14xx^2=\dfrac{1}{4\sqrt{x}}である。 従って x=425x=4^{-\frac{2}{5}} のときに最大値 5445-\dfrac{5}{4}\sqrt[5]{4} を取る。

高校数学の問題集 ~最短で得点力を上げるために~ のT174では,普通に微分で解く方法も紹介しています。

数オリの問題に挑戦

1=12+121=\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2} のように 「分解する手法」は様々な応用例があります。例えば自然対数の底(ネイピア数)の定義:収束することの証明や,次に紹介する数学オリンピックの問題に見られます。

2012年国際数学オリンピックアルゼンチン大会の第2問です。

問題

33 以上の整数 nn と,正の実数 a2,a3,,ana_2,a_3,\cdots,a_na2a3an=1a_2a_3\cdots a_n=1 を満たしているとき以下の不等式を証明せよ:

(a2+1)2(a3+1)3(an+1)n>nn(a_2+1)^2(a_3+1)^3\cdots(a_n+1)^n > n^n

方針

両辺の対数を取りたくなりますが条件式がうまく使えません。そこで,相加相乗平均の不等式を用いて1項ずつ評価することを考えます。累乗根とべき乗が相殺するように 11 を分解します。

解答

相加相乗平均の不等式より,

(a2+1)2(2a2)2=22a2(a3+1)3=(a3+12+12)3(3a312123)3=3322a3(an+1)n=(an+1n1++1n1)nnn(n1)n1an\begin{aligned} (a_2+1)^2 &\geqq (2 \sqrt{a_2})^2 = 2^2 a_2\\ (a_3+1)^3 &= \left(a_3+\dfrac{1}{2}+\dfrac{1}{2}\right)^3 \geqq \left( 3\sqrt[3]{a_3 \cdot \dfrac{1}{2} \cdot \dfrac{1}{2}} \right)^3 = \dfrac{3^3}{2^2}a_3\\ &\vdots\\ (a_n+1)^n &= \left(a_n+\dfrac{1}{n-1}+\cdots+\dfrac{1}{n-1}\right)^n \geqq \dfrac{n^n}{(n-1)^{n-1}}a_n \end{aligned}

これらを辺々掛けあわせれば目標の不等式を得る。なお,等号成立条件が全て満たされることはないので \geqq>> になる。

項が3つ以上あると工夫が必要

項が3つ以上ある場合には注意が必要です。

x3+x+1xx^3+x+\dfrac{1}{x}x>0x>0 での最小値を求めよ。

この問題で,積が定数になるように相加相乗平均の不等式を用いると x3+x+14x+14x+14x+14x61446x^3+x+\dfrac{1}{4x}+\dfrac{1}{4x}+\dfrac{1}{4x}+\dfrac{1}{4x}\geq 6\sqrt[6]{\dfrac{1}{4^4}} となります。この不等式は正しいのですが, 等号を満たす xx が存在しません。

実際,等号成立条件を確認してみると,x3=x=14xx^3=x=\dfrac{1}{4x} となり,どのように xx を選んでも等号成立条件を満たすことはできません。そこで「積が定数になる」だけではなく「等号成立条件を満たす xx が存在する」ように工夫する必要があります。

この記事は,読者の方からのご指摘により改訂を繰り返しております。

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