isolated fudging

isolated fudging

f(a,b,c)+f(b,c,a)+f(c,a,b)k f(a, b, c)+f(b, c, a)+f(c, a, b)\geqq k を証明する代わりに f(a,b,c)karar+br+cr f(a, b, c)\geqq \dfrac{ka^r}{a^r+b^r+c^r} を証明する手法。

isolated fudging

分解したものを「isolated」こしらえる「fudging」という意味です。不等式の片方の辺が巡回式でもう一方が定数のときにしばしば使えるテクニックです。

isolated fudging は不等式証明のコツ(3つに分解する)の特別なパターンです。

rr はなんでもよいので,うまくいく rr をなんとかして見つけてきます。rr の見つけ方は後ほど解説するとして,まずは isolated fudging の応用例を見てみましょう。

以下は2001年の国際数学オリンピックアメリカ大会の問題です。

問題

a,b,c>0a,b,c>0 のとき aa2+8bc+bb2+8ca+cc2+8ab1\dfrac{a}{\sqrt{a^2+8bc}}+\dfrac{b}{\sqrt{b^2+8ca}}+\dfrac{c}{\sqrt{c^2+8ab}}\geqq 1 を示せ。

方針

左辺は巡回式で右辺が定数なので isolated fudging を疑います。後述する方法で rr を見つけてくると r=43r=\dfrac{4}{3} でうまくいきます。

解答

左辺第一項を下からおさえる不等式

aa2+8bca43a43+b43+c43(1) \dfrac{a}{\sqrt{a^2+8bc}}\geqq \dfrac{a^{\tfrac{4}{3}}}{a^{\tfrac{4}{3}}+b^{\tfrac{4}{3}}+c^{\tfrac{4}{3}}}\quad\cdots (1) を示せばそのような不等式(第二項,第三項を下からおさえる不等式)を3つ足しあわせて証明できる。

(1)の両辺を2乗して整理する。 b83+c83+2(ab)43+2(bc)43+2(ca)438a23bcb^{\tfrac{8}{3}}+c^{\tfrac{8}{3}}+2(ab)^{\tfrac{4}{3}}+2(bc)^{\tfrac{4}{3}}+2(ca)^{\tfrac{4}{3}}\geqq 8a^{\tfrac{2}{3}}bc これは,b83b^{\frac{8}{3}}c83c^{\frac{8}{3}} を1つずつと (ab)43,(bc)43,(ca)43(ab)^{\frac{4}{3}}, (bc)^{\frac{4}{3}}, (ca)^{\frac{4}{3}} を2つずつ計8個に相加相乗平均の不等式を適用した不等式である!

なお,この問題はイェンゼンの不等式を用いても証明できます。練習問題にどうぞ!

微分を用いたrの見つけ方

解答としては上記で十分ですが,うまくいく rr をどのように見つけるかという問題があります。そこで,rr を見つける一般的な方法を紹介します。

rr を見つける方法:偏微分を用いる

f(a,b,c)=aa2+8bcarar+br+crf(a,b,c)=\dfrac{a}{\sqrt{a^2+8bc}}-\dfrac{a^r}{a^r+b^r+c^r} とおきます。任意の a,b,ca,b,c に対して ff が非負となるような rr を求めたいわけです。

f(1,1,1)=0f(1,1,1)=0 なので,f(a,b,c)0f(a,b,c)\geqq 0 が成立するためには f(1,1,1)f(1,1,1) が(例えば aa の一変数関数と見たときに)極小値であることが必要です。そこで,fa(1,1,1)=0\dfrac{\partial f}{\partial a}(1,1,1)=0 を計算して解くと r=43r=\dfrac{4}{3} であることが分かります(ffaa の関数とみて頑張って微分して全ての変数に1を代入すると,fa(1,1,1)=31393rr9\dfrac{\partial f}{\partial a} (1,1,1)=\dfrac{3-\frac{1}{3}}{9}-\dfrac{3r-r}{9} となる)。

よって,r=43r=\dfrac{4}{3} が isolated fudging が成功する候補となります。

なお,偏微分については偏微分の意味と計算例・応用を参照して下さい。

日本数学オリンピックの問題

JMO2010の第4問です。

問題

正の実数 x,y,zx,y,z に対して以下の不等式が成立することを証明せよ:

1+xy+xz(1+y+z)2+1+yz+yx(1+z+x)2+1+zx+zy(1+x+y)21 \dfrac{1+xy+xz}{(1+y+z)^2}+\dfrac{1+yz+yx}{(1+z+x)^2}+\dfrac{1+zx+zy}{(1+x+y)^2}\geqq 1

方針

左辺が交代式で右辺が定数なので isolated fudging です。偏微分を用いて rr を求めると r=1r=1 となります。

解答

うまく rr を持ってきて,

第一項 xrxr+yr+zr\geqq \dfrac{x^r}{x^r+y^r+z^r} を示せばよいがこれを整理すると, (1+xy+xz)(xr+yr+zr)xr(1+y+z)20 (1+xy+xz)(x^r+y^r+z^r)-x^r(1+y+z)^2\geqq 0 である。この左辺を f(x,y,z)f(x,y,z) とおくと,f(1,1,1)=0f(1,1,1)=0 なので,さきほどの例と同様に fx(1,1,1)=0\dfrac{\partial f}{\partial x}(1,1,1)=0 が必要。

これを頑張って計算すると,6+3r9r=06+3r-9r=0 より r=1r=1 となる。

あとは,r=1r=1 とした式 (1+xy+xz)(x+y+z)x(1+y+z)20 (1+xy+xz)(x+y+z)-x(1+y+z)^2\geqq 0 を示せば良い。示すべき不等式は展開して整理すると,x2(y+z)2x(y+z)+(y+z)0x^2(y+z)-2x(y+z)+(y+z)\geqq 0 つまり (x1)2(y+z)0(x-1)^2(y+z)\geqq 0 となり確かに成立している。

rを見つける部分は解答に書く必要はありません。

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