数学オリンピック突破のための不等式証明のコツ

3変数の対称な(または巡回的な)不等式証明の問題は,2変数の不等式を3つ足し合わせる,または掛け合わせることで証明できることが多い。

必ずうまくいくわけではありませんが,3変数の不等式証明の問題では,やみくもに式をいじるのではなく,3つに分解できないか考えると突破できることが多いです。

具体例を3つ紹介するのでコツを掴んでください。

分解で証明する不等式の例

例題1

1x+1y+1z=1x,y,z>0\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}+\dfrac{1}{z}=1,x,y,z>0 のとき (x1)(y1)(z1)8(x-1)(y-1)(z-1)\geqq 8 を示せ。

方針

右辺の8を見たときに,232^3 だ! と気づけば不等式を3つ掛け合わればうまく行きそうな気がします。

解答

条件式が使いやすくなるように示すべき不等式の両辺を xyzxyz で割る: (11x)(11y)(11z)8xyz\left(1-\dfrac{1}{x}\right)\left(1-\dfrac{1}{y}\right)\left(1-\dfrac{1}{z}\right)\geqq \dfrac{8}{xyz} つまり, (1y+1z)(1z+1x)(1x+1y)8xyz\left(\dfrac{1}{y}+\dfrac{1}{z}\right)\left(\dfrac{1}{z}+\dfrac{1}{x}\right)\left(\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}\right)\geqq \dfrac{8}{xyz} を示せばよい。

上の不等式は,相加相乗平均の不等式から導かれる以下の3つの不等式を掛けあわせれば示される: 1y+1z21yz\dfrac{1}{y}+\dfrac{1}{z}\geqq 2\dfrac{1}{\sqrt{yz}} 1z+1x21zx\dfrac{1}{z}+\dfrac{1}{x}\geqq 2\dfrac{1}{\sqrt{zx}} 1x+1y21xy\dfrac{1}{x}+\dfrac{1}{y}\geqq 2\dfrac{1}{\sqrt{xy}}

例題2

x+y+z=1x,y,z>0x+y+z=1,x,y,z>0 のとき xyz+yzx+zxy1\dfrac{xy}{z}+\dfrac{yz}{x}+\dfrac{zx}{y}\geqq 1 を示せ。

方針

左辺の項をかけ合わせると分母分子でキャンセルされるので相加相乗平均の不等式が使えそうです。しかし,いきなり3変数の相加相乗平均の不等式を用いてもうまく行かないので,2項ずつのセットにして考えてみます。

解答

相加相乗平均の不等式より導かれる以下の3つの不等式を足しあわせて両辺2で割ると求める不等式を得る:

xyz+yzx2y\dfrac{xy}{z}+\dfrac{yz}{x}\geqq 2y yzx+zxy2z\dfrac{yz}{x}+\dfrac{zx}{y}\geqq 2z zxy+xyz2x\dfrac{zx}{y}+\dfrac{xy}{z}\geqq 2x

例題3

x,y,z>0x,y,z>0 のとき 2x3x2+y2+2y3y2+z2+2z3z2+x2x+y+z\dfrac{2x^3}{x^2+y^2}+\dfrac{2y^3}{y^2+z^2}+\dfrac{2z^3}{z^2+x^2}\geqq x+y+z を示せ。

方針

2変数の3つの不等式を足しあわせたらうまく行きそうです。 2x3x2+y2ax+by,(a+b=1)\dfrac{2x^3}{x^2+y^2}\geqq ax+by,\:(a+b=1) となる a,ba, b が発見できれば同様な不等式を3つ足しあわせて証明できます。

そこで,3次の項が消えるように a=2a=2 としてやるとうまく行きます。

解答

不等式: 2x3x2+y22xy\dfrac{2x^3}{x^2+y^2}\geqq 2x-y は分母を払い整理すると y(xy)20y(x-y)^2\geqq 0 と同値であり,簡単に証明できる。

同様にして, 2y3y2+z22yz\dfrac{2y^3}{y^2+z^2}\geqq 2y-z 2z3z2+x22zx\dfrac{2z^3}{z^2+x^2}\geqq 2z-x も成立し,以上3つの不等式を足しあわせて求める不等式を得る。

この他にも3つに分解して証明する方法として,isolated fudgingCauchy Reverse Technique があります。