ブロカール点の意味とブロカール角の性質

ブロカール点(Brocard Point)

任意の三角形 ABCABC に対して, PAB=PBC=PCA\angle PAB=\angle PBC=\angle PCA を満たす点 PP が(三角形 ABCABC の内部に)ただ1つ存在する。点 PP を三角形 ABCABCブロカール点と呼ぶ。

ブロカール点

ブロカール点が存在することの証明

接弦定理とその逆を使います。

証明

BC\angle B\geqq \angle C としても一般性を失わない。

  1. AA を通り辺 BCBCBB で接する円 Γ1\Gamma_1 の弧 ABAB(で直線 ABAB に関して CC と同じ側にある方)
  2. BB を通り辺 CACACC で接する円 Γ2\Gamma_2 の弧 BCBC(で BB と同じ側にある方)

ブロカール点の存在証明

を考える。この2つは三角形 ABCABC の内部で交わる(→理由は後述の補足)。この交点を PP とおくと,接弦定理より PAB=PBC=PCA\angle PAB=\angle PBC=\angle PCA である。逆に,三角形の内部の点 PP' について,3つの角度が等しいなら接弦定理の逆より PP' は上記2つの弧の上にある。よって,ブロカール点はただ一つ。

補足:円 Γ1\Gamma_1Γ2\Gamma_2 は2点で交わります。なぜなら「両方とも BB を通る」かつ「BBΓ1\Gamma_1 の中心と Γ2\Gamma_2 の中心は一直線上にはない」からです。その2つの交点のうち BB でないものは三角形 ABCABC の内部にあります。なぜなら「1より BCBC に対して AA 側にある」かつ「2より CACA に対して BB 側にある」かつ「2と BC\angle B\geqq\angle C より ABAB に対して CC 側にある」ためです。

ブロカール角

ブロカール点の定義に現れる角度の大きさ ω\omega をブロカール角と言います: PAB=PBC=PCA=ω\angle PAB=\angle PBC=\angle PCA=\omega

ブロカール角の性質1

1tanω=1tanA+1tanB+1tanC\dfrac{1}{\tan\omega}=\dfrac{1}{\tan A}+\dfrac{1}{\tan B}+\dfrac{1}{\tan C}

※例えば A=90A=90^{\circ} のときは 1tanA=0\dfrac{1}{\tan A}=0 とみなすことで成立します。

証明

1tanA=b2+c2a24S()\dfrac{1}{\tan A}=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{4S}\cdots(*) である。これは余弦定理とサインの面積公式からわかる。そして,

  • 1の右辺は ()(*) のような式を3つ足し合わせることで a2+b2+c24S\dfrac{a^2+b^2+c^2}{4S} と等しいことがわかる。ここまでの流れはタンジェントの美しい関係式の(iii)にもあるように比較的有名。
  • 1の左辺は,3つの小さい三角形にそれぞれ ()(*) を使うと, 4SPABtanω=PA2+c2PB24SPBCtanω=PB2+a2PC24SPCAtanω=PC2+b2PA2\dfrac{4S_{PAB}}{\tan\omega}=PA^2+c^2-PB^2\\ \dfrac{4S_{PBC}}{\tan\omega}=PB^2+a^2-PC^2\\ \dfrac{4S_{PCA}}{\tan\omega}=PC^2+b^2-PA^2 これらをたし合わせると, 4Stanω=a2+b2+c2\dfrac{4S}{\tan\omega}=a^2+b^2+c^2 となり 4S4S で割ると1の左辺も a2+b2+c24S\dfrac{a^2+b^2+c^2}{4S} と等しいことがわかる。

1の結果を使って,以下を証明できます。

ブロカール角の性質2

ω30\omega\leqq 30^{\circ}

証明を2通り紹介します。

証明(方法1)

1の証明の途中式より 1tan2ω=(a2+b2+c2)216S2\dfrac{1}{\tan^2\omega}=\dfrac{(a^2+b^2+c^2)^2}{16S^2} ここで,ヘロンの公式の「辺の長さが無理数の場合」版より

1tan2ω=(a2+b2+c2)22(a2b2+b2c2+c2a2)(a4+b4+c4)\dfrac{1}{\tan^2\omega}=\dfrac{(a^2+b^2+c^2)^2}{2(a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2)-(a^4+b^4+c^4)}

次に,a4+b4+c4=x,a2b2+b2c2+c2a2=ya^4+b^4+c^4=x,a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2=y とおくと,

1tan2ω=x+2y2yx\dfrac{1}{\tan^2\omega}=\dfrac{x+2y}{2y-x}

目標は,ω30\omega\leqq 30^{\circ} だが,明らかに tanω<90\tan\omega< 90^{\circ} なので 1tan2ω3\dfrac{1}{\tan^2\omega}\geqq 3 を示せば十分。つまり,示すべき式は x+2y3(2yx)x+2y\geqq 3(2y-x) これは xyx\geqq y と同値だが,有名不等式a^2+b^2+c^2≧ab+bc+ca より成立。

※方法1の後半の議論は三角形における距離の二乗の和の公式の応用問題と非常に似ていておもしろいです。

証明(方法2)

鋭角三角形の場合で証明する。

f(x)=1tanxf(x)=\dfrac{1}{\tan x} とおく。

f(x)=2tanxsin2xf''(x)=\dfrac{2}{\tan x\sin^2 x}

より,0<x<π20< x< \dfrac{\pi}{2} では二階微分は正。つまり上に凸。よって,イェンゼンの不等式より,

f(A)+f(B)+f(C)3f(A+B+C3)f(A)+f(B)+f(C)\geqq 3f\left(\dfrac{A+B+C}{3}\right)

つまり,

1tanA+1tanB+1tanC33\dfrac{1}{\tan A}+\dfrac{1}{\tan B}+\dfrac{1}{\tan C}\geqq \dfrac{3}{\sqrt{3}}

これと 11 より tanω13\tan\omega\leqq\dfrac{1}{\sqrt{3}}

つまり ω30\omega\leqq 30^{\circ}

第1・第2ブロカール点

  • ここまで紹介したブロカール点ですが,より正確には, PAB=PBC=PCA\angle PAB=\angle PBC=\angle PCA を満たす点 PP第1ブロカール点と言います。逆順にして,QBA=QCB=QAC\angle QBA=\angle QCB=\angle QAC を満たす点 QQ もただ1つ存在しますが,これを第2ブロカール点と言います。

  • 「ブロカール角の性質1,2」は第2ブロカール点でも成立します。つまり,第1でも第2でもブロカール角は等しいです。

  • したがって,第1ブロカール点と第2ブロカール点は互いに等角共役点であることがわかります。→等角共役点とその証明

「ブロカール角の性質2の証明方法2」を鈍角三角形の場合に拡張する方法があれば教えてください!