逆写像定理
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級関数 について,ある点 で微分が でない(ヤコビアンが でない)なら, の付近で逆関数 が存在して も 級
※ 級とは,微分可能かつ導関数が連続であることを表します。→C1級関数,Cn級関数などの意味と具体例
イメージ図
- 赤い点では微分係数が でないため, をうまくとれば ( を に制限したもの)の逆写像が取れます。
- 青い点では微分係数が であり,どのように を取っても は逆写像を持ちません。
1次元の逆写像定理の意味と例
1次元の逆写像定理の意味と例
を( の)開集合とする。
級写像 が で を満たすとする。
このとき, の開近傍 があって,(は 級の逆写像を持つ。
例:三角関数
を とします。
より, に逆写像定理を適用でき, とすると は逆写像 を持ちます。
例:指数関数
を とします。
より逆写像定理を用いると,ある があって, が逆写像を持ちます。
特に とでき,このとき逆写像 が得られます。
逆写像定理
逆写像定理
次は,多次元版です。まずは,定理の主張を述べます。
を の開集合とする。
を から への 級写像とする。
に対してヤコビアン とする(ヤコビアンが可逆とする)。
このとき,ある の開近傍 と の開近傍 があって, は 級微分同相写像となる。
逆写像定理の主張を理解するために,以下の1~3を説明します。
- 多変数関数が 級とは
- ヤコビアンとは
- 微分同相写像とは
1. 多変数関数が 級とは
, をそれぞれ開集合とする。
が 級であるとは,
と成分ごとに書いたときに,各成分 が 上で 級であること( 階の全ての種類の偏導関数が存在してそれらが連続)と定義する。
例
は, から への 級写像です。
2. ヤコビアンとは
ヤコビアンは,微分係数の多変数関数バージョンです。
偏微分を並べた行列(ヤコビ行列)の行列式です。詳しくはヤコビ行列,ヤコビアンの定義と極座標の例を参照してください。
3. 微分同相写像とは?
級写像 が 級微分同相写像であるとは, で
- は 級である。
- , はそれぞれ , 上の恒等写像である。
の2つを満たすものが存在することと定義する。
つまり 級の逆写像 が存在することを意味する。
また,このとき と は微分同相であるという。
例
先ほど紹介した は 級微分同相です。
逆写像として と取ることができます。
しかし, を 上で定義すると,これは微分同相ではありません。 と の周期性より, となるため,逆写像が取れません。
このように微分同相は,写像のみならず定義域・値域も含めて考えることで定まります。
ここまでで,逆写像定理の主張が理解できると思います。証明は非常に長いので割愛します。
逆写像とヤコビアン
逆写像とヤコビアン
逆写像定理と関連して,「逆関数の微分公式」の多変数バージョンを紹介します。
逆関数の微分公式は「逆関数の微分はもとの関数の微分の逆数」というものです。 →逆関数の微分公式を例題と図で理解する
, を開集合とする。
を微分同相写像として, をその逆写像とする。
を任意に取る。 とする。
は を逆行列に持つ。特に( が空集合でないとき) となる。
連鎖律(Chain rule)より, となる。
上式は の 成分と の 成分の積を足したものなので,まさしく行列 の 成分である。
は恒等写像であるため,そのヤコビアンは である。
こうして となる。
同様に である。
よって は を逆行列に持つ。
特にトレースを見ると である。
※3つめの等号では,トレースの性質 を用いました。→行列のトレースのいろいろな性質とその証明
次回予告
次回予告
のような と表示された関数を陰関数といい, のような と表示された関数を陽関数というのでした。 →陰関数と陽関数の意味と違いについて
陽関数を陰関数に変換する「陰関数定理」という定理があります。これは逆関数定理を用いて証明できます。
そしてこの定理が「多様体」の概念の扉になるのです。
ヤコビアンが多変数版の微分係数であることがよくわかりますね。