楕円積分の意味と身近な4つの例

楕円積分の意味と,楕円積分が現れる4つの例を紹介します。

楕円積分(ルジャンドルの標準形)
  • E(k,ϕ)=0ϕ1k2sin2θdθE(k,\phi)=\displaystyle\int_0^{\phi}\sqrt{1-k^2\sin^2\theta}d\theta
    のことを第二種楕円積分という。

  • F(k,ϕ)=0ϕ11k2sin2θdθF(k,\phi)=\displaystyle\int_0^{\phi}\dfrac{1}{\sqrt{1-k^2\sin^2\theta}}d\theta
    のことを第一種楕円積分という。

  • k(0k1)k\:(0\leq k\leq 1)ϕ(0ϕπ2)\phi\:(0\leq\phi\leq\dfrac{\pi}{2}) はパラメータです。
  • ただの定積分に見えますが,一般に,楕円積分は解析的に計算できません(原始関数が簡単な形で書けません)。

第二種楕円積分が活躍する例

楕円の周の長さ

曲線の長さを計算する積分公式(弧長積分)を使って楕円の周の長さを計算してみます。

楕円積分が現れる例1

楕円の周の長さは,第二種楕円積分で表される。

証明

楕円 x2a2+y2b2=1(a>b>0)\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}=1\:(a>b>0) の周の長さを計算する。x=asinθ,y=bcosθx=a\sin\theta,y=b\cos\theta と媒介変数表示すると,0θϕ0\leq\theta\leq \phi の部分の長さは,

0ϕ(acosθ)2+(bsinθ)2dθ=a0ϕ(1sin2θ)+b2a2sin2θdθ=a0ϕ1(a2b2)a2sin2θdθ=aE(a2b2a,ϕ)\begin{aligned} &\int_{0}^{\phi} \sqrt{(a\cos\theta)^2 + (-b\sin\theta)^2} d\theta\\ &= a \int_0^{\phi} \sqrt{(1-\sin^2\theta)+\dfrac{b^2}{a^2} \sin^2\theta} d\theta\\ &= a \int_0^{\phi} \sqrt{1-\dfrac{(a^2-b^2)}{a^2} \sin^2\theta} d \theta\\ &= a E \left( \dfrac{\sqrt{a^2-b^2}}{a} , \phi \right) \end{aligned}

特に,楕円全体の長さは 4aE(a2b2a,π2)4aE\left(\dfrac{\sqrt{a^2-b^2}}{a},\dfrac{\pi}{2}\right)

正弦曲線の長さ

楕円積分が現れる例2

正弦曲線の長さは,第二種楕円積分で表される。

証明

y=asinxy=a\sin xx=0x=0 から x=ϕx=\phi までの長さは,

0ϕ1+a2cos2xdx=0ϕ1+a2(1sin2x)dx=a2+10ϕ1a2a2+1sin2xdx=a2+1E(aa2+1,ϕ)\begin{aligned} &\int_0^{\phi}\sqrt{1+a^2\cos^2x} dx\\ &= \int_0^{\phi} \sqrt{1+a^2(1-\sin^2x)} dx\\ &= \sqrt{a^2+1} \int_0^{\phi} \sqrt{1-\dfrac{a^2}{a^2+1}\sin^2x} dx\\ &= \sqrt{a^2+1} \: E \left( \dfrac{|a|}{\sqrt{a^2+1}} , \phi \right) \end{aligned}

第一種楕円積分が活躍する例

単振り子の周期

楕円積分が現れる例3

単振り子の周期は,第一種楕円積分で表される。

説明

単振り子の周期は,

4lg0π2dθ1sin2θ02sin2θ4\sqrt{\dfrac{l}{g}}\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{d\theta}{\sqrt{1-\sin^2\frac{\theta_0}{2}\sin^2\theta}}

となる(詳細は単振り子の周期(近似解と厳密解の比較) )。ただし,ll は振り子の長さ,gg は重力加速度,θ0\theta_0 は最大角。

これは,4lgF(sinθ02,π2)4\sqrt{\dfrac{l}{g}}F\left(\sin\dfrac{\theta_0}{2},\dfrac{\pi}{2}\right) であり第一種楕円積分で表せる。

このように,ϕ=π2\phi=\dfrac{\pi}{2} の場合の第一種楕円積分を第一種完全楕円積分と言います。

レムニスケートの長さ

楕円積分が現れる例4

レムニスケート曲線:r2=cos2θr^2=\cos 2\theta の長さは,第一種楕円積分で表される。 lemniscate

説明

極座標版の弧長積分の公式で計算すると,レムニスケートの長さは

L=401dr1r4 L=4 \int_0^1\dfrac{dr}{\sqrt{1-r^4}}

(計算の詳細は算術幾何平均とレムニスケートの長さ

r=cosθr=\cos\theta とおくと,drdθ=sinθ=1r2\dfrac{dr}{d\theta}=-\sin\theta=-\sqrt{1-r^2} より,

L=40π2dθ1+cos2θ=220π2dθ112sin2θ=22F(12,π2)\begin{aligned} L&= 4 \int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{d\theta}{\sqrt{1+\cos^2\theta}}\\ &= 2\sqrt{2} \int_0^{\frac{\pi}{2}}\dfrac{d\theta}{\sqrt{1-\dfrac{1}{2}\sin^2\theta}}\\ &= 2\sqrt{2}F\left(\dfrac{1}{\sqrt{2}},\dfrac{\pi}{2}\right) \end{aligned}

ヤコビの標準形

ルジャンドルの標準形において sinθ=t\sin\theta=t と置換すると,定積分を tt の簡単な式(ルート+有理式)に変形できます。

楕円積分(ヤコビの標準形)
  • E(k,x)=0x1k2t21t2dtE(k,x)=\displaystyle\int_0^{x}\dfrac{\sqrt{1-k^2t^2}}{\sqrt{1-t^2}}dt
    のことを第二種楕円積分という。

  • F(k,x)=0x1(1k2t2)(1t2)dtF(k,x)=\displaystyle\int_0^{x}\dfrac{1}{\sqrt{(1-k^2t^2)(1-t^2)}}dt
    のことを第一種楕円積分という。

証明
  • 第二種楕円積分(ルジャンドルの標準形) E(k,ϕ)=0ϕ1k2sin2θdθE(k,\phi)=\displaystyle\int_0^{\phi}\sqrt{1-k^2\sin^2\theta}d\theta
    において,sinθ=t\sin\theta=t と置換すると,cosθ=1t2\cos\theta=\sqrt{1-t^2} より,
    E(k,ϕ)=0sinϕ1k2t2dt1t2E(k,\phi)=\displaystyle\int_0^{\sin\phi}\sqrt{1-k^2t^2}\dfrac{dt}{\sqrt{1-t^2}}
    あらためて sinϕ=x\sin\phi=x と置けばよい。
  • 第一種楕円積分も同様

特殊ケース

楕円積分は,k=0k=0 または k=1k=1 の場合は計算できます。

  • k=0k=0 の場合,ルジャンドルの標準形で考えると,E(0,ϕ)=F(0,ϕ)=ϕE(0,\phi)=F(0,\phi)=\phi
    つまり,ヤコビの標準形で考えると, E(0,x)=F(0,x)=Arcsin(x)E(0,x)=F(0,x)=\mathrm{Arcsin}\:(x)

  • k=1k=1 の場合の第二種楕円積分は,ルジャンドルの標準形で考えると, E(1,ϕ)=0ϕcosθdθ=sinϕE(1,\phi)=\displaystyle\int_0^{\phi}\cos\theta d\theta=\sin\phi
    つまり,ヤコビの標準形で考えると, E(1,x)=xE(1,x)=x

  • k=1k=1 の場合の第一種楕円積分は,ヤコビの標準形で考えると, F(1,x)=0xdt1t2=tanh1xF(1,x)=\displaystyle\int_0^{x}\dfrac{dt}{1-t^2}=\tanh^{-1} x

なお,ヤコビの標準形で考えたときの,楕円積分の逆関数をヤコビの楕円関数と言います。上の例からわかるように,sin\sintanh\tanh はヤコビの楕円関数の特殊ケースです。

より一般に cxf(x,p(x))dx\displaystyle\int_{c}^xf(x,\sqrt{p(x)})dx(cc は定数,pp は3次か4次の多項式,ff は有理式)という形の積分のことを楕円積分と言います。この記事では,その中で重要な2種類の楕円積分を紹介しました。