行列の基本変形の意味と応用(rank・行列式の計算)

行基本変形とは,行の交換行の定数倍他の行に定数倍を加えるという3つの操作のことです。

この記事では,行列の基本変形,特に行基本変形について,意味と応用をわかりやすく説明します。

行基本変形とは

行列に対する以下の3つの操作を行基本変形と言います。

操作1. 交換

ある行別の行を交換する。

例. 1行目3行目を交換する 基本変形の例1

操作2. 定数倍

ある行を定数倍する。

例. 3行目を2倍する

基本変形の例2

操作3. 定数倍を加える

ある行の定数倍別の行に加える(または引く)。

例. 1行目の2倍3行目から引く 基本変形の例3

行基本変形とランク(rank)

行基本変形を使えば,与えられた行列 AA の rank を計算できます。

rankの求め方
  1. 行基本変形を繰り返して,図のような階段形にする。 行列の階段形

  2. このとき,00 でない成分がある行の数が AA の rank となる。

階段形にする方法や,ランクを計算する例題は行列のランク(rank)の8通りの同値な定義・性質の記事末をどうぞ。

原理
  • 行基本変形は,左から正則行列をかけることに対応する(後述の定理1)。
  • 正則行列をかけてもrankは変わらないので,得られる階段形の行列のrankはもとの行列のrankと一致する。
  • 階段形の行列のrankは一瞬で求まる(00 でない成分がある行の数)。

行基本変形と行列式

行列式の計算でも行基本変形が活躍します。

行列式の求め方
  1. 行基本変形のうち操作1と操作3を繰り返して,階段形にする。
  2. 得られた階段形の対角成分の積に,(1)×(-1)\times「操作1の回数」をかける。

※操作2(定数倍)を使わずに階段形にすることで計算が楽になります。

原理

与えられた正方行列 AA に対して行基本変形を繰り返すことで階段形 RR上三角行列)にする。これは,適当な正則行列 SS を左からかけることに対応する(→後述の定理1)。

つまり,SA=RSA=R

よって,detSdetA=detR\det S\det A=\det R であり,

  • detR\det R は対角成分の積で簡単に求まる
  • detS\det S も変形の過程を見れば分かる(1-1 を操作1の回数だけかける)

ので detA\det A が求まる。

行基本変形の他の応用

行基本変形は,rank や行列式を計算するのに役立ちましたが,他にも応用例はあります。

逆行列を求める

行基本変形を使って逆行列を計算できます。(AI)(A\:I) に行基本変形をして (IB)(I\:B) にしたとき,BBAA の逆行列になります。詳細は 逆行列の定義・逆行列を求める2通りの方法と例題 の「逆行列の求め方1」で解説しています。

連立方程式の解を求める

行基本変形は連立方程式を解くときにも活躍します。ガウスの消去法(掃き出し法)と呼ばれます。連立方程式が解ければ,行列の核(カーネル)も計算できます。

行基本変形と正則行列

定理1

行基本変形は正則行列を左からかけることに対応する。

操作1から操作3まで順に確認していきます。

操作1(行の交換)

ii 行目と jj 行目の交換は,単位行列の ii 行目と jj 行目を交換した行列 P(i,j)P(i,j) を左からかけることに対応します。

(123456789)\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix} に左から P(1,3)=(001010100)P(1,3)=\begin{pmatrix}0&0&1\\0&1&0\\1&0&0\end{pmatrix} をかけると, (001010100)(123456789)=(789456123)\begin{pmatrix}0&0&1\\0&1&0\\1&0&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}7&8&9\\4&5&6\\1&2&3\end{pmatrix} となり1行目と3行目が交換された。

なお,P(i,j)P(i,j) の行列式は 1-1 なので正則です。

操作2(定数倍)

ii 行目を cc 倍する操作は,単位行列の iiii 成分を cc とした行列 P(i;c)P(i;c) を左からかけることに対応します。

(123456789)\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix} に左から P(3;2)=(100010002)P(3;2)=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&2\end{pmatrix} をかけると, (100010002)(123456789)=(123456141618)\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\0&0&2\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\14&16&18\end{pmatrix} となり3行目が2倍された。

なお,P(i;c)P(i;c) の行列式は cc なので,c0c\neq 0 のもとで正則です。

操作3(定数倍を加える)

jj 行目の cc 倍を ii 行目に加える操作は,単位行列の ijij 成分を cc とした行列 P(i,j;c)P(i,j;c) を左からかけることに対応します。

(123456789)\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix} に左から P(3,1;2)=(100010201)P(3,1;-2)=\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\-2&0&1\end{pmatrix} をかけると, (100010201)(123456789)=(123456543)\begin{pmatrix}1&0&0\\0&1&0\\-2&0&1\end{pmatrix}\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\7&8&9\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}1&2&3\\4&5&6\\5&4&3\end{pmatrix} となり1行目の2倍が3行目から引かれた。

なお,P(i,j;c)P(i,j;c) の行列式は 11 なので正則です。

正則行列について,詳しくは 行列が正則であることの意味と5つの条件 をご覧ください。

行基本変形は正則行列の掛け算で表される

  • 行基本変形の3つの操作は全て,ある正則行列をかけることで実現できます。
  • 正則行列の積は正則行列です。

以上より,行基本変形を繰り返す操作は,ある正則行列をかけることで実現できることがわかります。

列基本変形とは

行の場合と同様に,以下の三つの操作を列基本変形と言います。

操作1: ii 列目と jj 列目を交換する

操作2: ii 列目を cc 倍する(c0c\neq 0

操作3: jj 列目の cc 倍を ii 列目に加える

列基本変形は正則行列を右からかけることに対応します。(行基本変形の場合と同様に説明できます)

私は4×4以上の行列式やrankを手計算で求めるのがいやなので計算機を使います。